学校探索
場面が一気に変わります。
それと、今まで基本的に週一での更新をしていたのですが、ちょっと期間が長いような気がするのでこれから三日ほどでの更新に変えようかと思います。
その分だけ各部の長さは短くなりますが、どうかご了承ください。
9
時刻、深夜。
場所、学校。
さすがに辺り一帯静まり返っていって、ちょっとした物音がやけに響く。昼間の騒がしい校庭と比較するとよりいっそう不気味に感じられる。そんな真夏なら絶好の肝試しスポットに俺は一人佇んでいた。
そう、一人だ。念のために振り返ってみるが木陰に人がいる様子はない。
――あの後、不意に結城から〝人が来る〟サインが聞こえたので、ベッドの下に潜り込んでやり過ごしてから病室を出た。無事に誰にも見つかることなく病院の敷地も脱出し、何とか家まで辿り着いたのが午後十時前。ストーキングには体力が必要、と豪語する結城は確かに持久性に優れていたがそれでもやっぱり疲れていたようで、リビングのソファに座ったまま眠ってしまった。
さすがにその体勢だと寝づらいだろうという全く健全な理由でやましい気持ちなど何もなくその身体を抱えて母親のベッドに移したあと、すぐに自転車を漕いでここまでやってきたと言うわけだ。
だから今の結城は動くことが出来ない。
トイレなんかは寝る前に行っていたし大丈夫だと思うが、少なくとも明日目覚めるときには近くに居ないととてつもない不安を味わわせてしまうことになる。それは避けたい。
「まあ、だから時間制限アリってことで」
スマホの設定画面から目覚ましの機能を呼び出し、明日の朝五時にセットする。何も収穫がなかったとしてもアラームが鳴ったら帰ることにしよう。
念のためマナーモードがオフになっていることも確認してから画面を切り替えた。
『あの、悠さん? ここ……学校、ですか? なんでこんなところに……』
開くのはもちろん件のアプリ、〝憑希育成ゲーム〟だ。ずっと落としていなかったから起動時のロード時間すらかからずすぐに遥の声が飛んできた。四頭身より少し大きなその身体が恐怖からなのか少し震えている。
良く出来た演出だ――とは、ひとまず思わないでおこう。だってそんな身も蓋もないことを言ってしまったら俺が今からやろうとしていることが全部無意味になる。
「遥。……俺と話をしよう」
『え? あのあの、悠さんとお話しするのはわたしも嬉しいですっ。でもその、なんで急にこんな』
「んー、まあ俺にも良く分からないんだけど」
『悠さんっ? そんな適当すぎます!』
「いや、適当なんじゃなくて。そうかも知れないけど、一応そういうつもりじゃなくて。――分からないから、分かるために遥と話をしたいっていうか」
『っ!』
遥はびっくりしたように動きを止めた。そしてデフォルメキャラにはありがちな大きくつぶらな瞳でまじまじと俺を見る。手先もわなわなと震わせて、だ。本人は真剣そのものなんだと思うけどこちらからすれば相変わらずとても愛らしい姿である。
やがてポツリと言葉を漏らした。
『それは、悠さんがわたしを消さないでおくのと関係のあるお話ですか……?』
不安げに揺れる声。
そう、遥は聞いているのだ、今朝の話も病室での会話も。今日はほとんどこうして画面を表示させていなかったから俺と直接言葉を交わしてはいないが、待機状態なら外の音が届く。被憑依者からすれば〝アバターを消してもらえる〟ということでも遥の視点に移れば〝自分のことを消そうとしている〟という風に変わる。
アバターが、遥がただの作られた電子データだというなら心は痛まないが、さっきも言ったはずだ。もうこんな仮定に意味はない。
俺は多分、本当の意味で遥に自我があると思っているんだ。遥を一つの人格として扱っている。だからそれを消すという案に乗れずにいた。
でもこんな答えじゃ曖昧すぎる。全部推測でしかないし、とてもあんな状態の相葉に聞かせられない。
だから、遥の目的が知りたかった。
遥のことをちゃんと知りたかった。
「そう、かな。うん。まあごちゃごちゃ言っても仕方ないし、そんな感じ」
目を合わせて言う。
遥はほんの少しの間なにやら考えていたようだったが、すぐに花開くような笑顔になった。
『そういうことなら何時間でも何日でも付き合いましゅっ』
こらえきれず、しばらく校庭には二人分の笑い声が響いた。
そういうわけで、深夜の学校探索である。
『ななな何ですかっ今の音!? 暗いです怖いです見えないです!』
「そんだけ騒いでればもし幽霊とかいたって出てこないから大丈夫だ」
てかケータイからこんなはっきり叫び声聞こえてるんだからこっちのが怖いよ。
「とりあえず歩き回っとこうか」
――一体何をしているのか。
遥が能力を使ったとき、俺の身体は二回とも学校を目標に動いていた。だからその辺に何か意図があるのではと思い、今日こうやって自分から訪れてみたわけだが。
「それで? やっぱり学校に何かあるのか?」
『うーん……きゃっ』
遥からの回答は芳しくない。というかさっきから聞こえてる足音って俺のだからね? 得体の知れない化け物とか歩いてないからね? そんな怯えられると申し訳なくなってついつい忍び足になってそうすると上手くいくときといかないときとで足音が断続的になるから余計怖いってこれ悪循環だな。
スマホの画面を顔の前まで持ってきて、無言の圧力を送ってみる。
『うっ。――違います悠さん、話したくないわけじゃないんですっ。でも何ていうかその、』
「その?」
『わたしも良く分かんないんです。でもっ! でも絶対ここに何かあるんです! 探さなきゃいけないんです! それだけはっ、分かってて……』
「何を探したら良いかわかんないってこと?」
『はい……っ、すいません』
「え、いやそんな瞳うるうるさせながら謝らなくても。思いっきり俺が苛めてるみたいじゃん! 顔上げて!」
小学生と本気で戦って一方的な勝利を収める人畜さんもなかなかだが、それよりさらに縮尺酷い相手を泣かせるとか俺が人類のクズみたい。むしろ俺が頭を下げないと色々な方面から集中砲火を喰らう恐れがある。ていうかこれもはや日本の国家そのものがロリコン気質なんじゃないの。
……話を戻そう。
何を探せばいいのか分からないなら、この学校に存在するものを全て確認してしまえばいいのだ。さすがに直接目視してもそれが探し物なのか分からないならお手あげだが遥によると〝それを見つけることが出来れば思い出せる〟らしい。多分、と付いてはいたが。
そして今いる場所は旧校舎の一階廊下である。
一昨年の途中まで使われていたらしいが、それでも築十五年とか二十年とかでかなりガタついているというか全体的に古臭い。歩くたびに床がギシギシ音を鳴らすので正直遥が怖がるのも仕方ないような気はする。
虱潰しという方向で話がまとまったため廊下を宛てもなく彷徨うのはストップし、一階の一番手前の教室、元三年一組からトライ開始だ。この校舎は一階が三年、二階が二年、そして三階が新入生と大きく分けられている。普通逆なんじゃないかとも思うが、少なくともうちの高校ではそういう順になっていた。
「えっと……〝何か〟ってのが机とか椅子そのものだったり床に落ちてるようなゴミだったりしない限り、引き出しの中とロッカーの中を全部確認すればいいんだな?」
『はい、多分。……あの、悠さんそんな無理しなくても』
「無理はしてないよ。ていうかどうせいつか俺の身体乗っ取ってやるんだろ? それなら今やっちゃった方が良いし、それにここまで来たら最後まで知りたい」
『悠さん……!』
遥の瞳の中で瞬く星の数が倍増したのとは対照的に、俺は一つの教室の半分も進まない内から大口叩いたことを微妙に後悔し始めていた。思った以上につらい。引き出しには意外にも以前使っていた生徒のものと思われる筆記用具やらプリント類やらが残っていて、それをいちいち遥にも見せ、首をふるふる横に振るのを見届けてから元に戻す作業を延々と。疲れる動きではないがまだまだ続く長い道のりを思うと憂鬱にはなる。
まあ、それでも。
そっちが俺の話に乗ってくれたんだ。俺だって、どこまででも付き合ってやるけどさ。
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