プロローグ
連載です
ただ元々どこかの小説大賞に送るつもりで考えていたものなので(というかその内出すかも?)、そこまで長くはならないと思います
投稿は週1の予定
読んでもらえると嬉しいです!
プロローグ
――アプリが正常にインストールされました。
「ふあ……」
春眠暁を覚えずと言うが、秋の眠りだって夜明けを記憶する気は全くないらしい。というか寝苦しい夏を超えてきた経験の分だけ睡眠の心地良さをより感じられるという点では春に比べても上手と言える。まして今日は月曜日、健全な高校生たる俺は当然前の晩に夜更かしをしているわけで、ある意味二重殺である。……違う、二重苦。二重殺は野球。
簡単に止められないように毎晩微妙に分かりづらい場所に隠しているせいで、むしろ音が小さくなって効果が疑われる目覚まし時計を瞬殺して、寝返りを打った。いつも早めの時間設定にしているからもうしばらくは寝ていても大丈夫。二度寝を楽しむための、昨日の自分からの粋な計らいというわけだ。えらい。ちなみに朝の二度寝は授業中の居眠りと同じくらいの睡眠効率(当社比)がある、という科学的根拠に基づいています。
ただこの間に本当に落ちてしまうと遅刻やら何やら――遅刻だけか?――大変なので、大抵はどうでもいいことをぼんやり考えて過ごしている。今日の時間割が何だとか、誰に宿題を見せてもらえば一番穏便に済むかとか、えっとあと世界の平和についてとか。愛って毎年夏に二十四時間ちょいで地球救ってるらしいから侮れない。
そんなことをぼんやり考えていると、ふと思考がある一点で止まった。
「あれ……そういやあのプリントって提出今日だっけ……」
何か、文系理系がどうのとかいうやつ。高校二年の春から文理で選択授業なるものがあるようで、気の早いことにそれに向けた予備調査プリントが先週配られたのだ。だけどどうせあと三回くらい同じこと訊くんでしょ? 心配性なのか。
高校に入ってまだ半年なのに文系も理系もないと思うのだが、だからと言って出さないわけにもいくまい。締め切りは……期限やら何やらは全部この前新調したスマートフォンにメモしてあるから多分それを見れば分かるだろう。残念ながら黒革のメモ帳でさっとスケジュール管理をできるような男じゃない。……カッコイイ男のイメージが古いのは母親の影響。
布団から一切出ずに手が届く位置にスタンバイしている律儀なケータイのロックを解除し、何の面白みもない初期設定なままの待機画面を表示させる。そこで――そこで、
見慣れない表示を見た。
――アプリが正常にインストールされました。
「は?」
いや、目を疑ったのは確かだとしても見慣れないというのはおかしいか。初めてスマホに買い換えてすぐの時や一時期調子に乗って色んなアプリを取っていた頃なんて毎日のように見ていた。特に意識したことはなかった、という方が正確だろう。その性格は例えばテレビドラマなんかの最後に流れる〝この作品はフィクションです〟みたいな文章に似ているかも知れない。必ず見るけど誰も意識はしない、みたいな。もしくはあれだ……いやごめん小粋な洒落とか思いつかなかった。
というか、それより何より。
「アプリなんか入れたっけな……?」
ここ数ヶ月新しくアプリを取った記憶がないのだ。性格の関係もあるかもしれないが、必要なものから暇つぶし用まで一通りインストールしたら後は大して変動しないわけで。それとも寝ぼけたままケータイ弄ったりしちゃったのか昨日の俺? 八桁パスワード入れないとロック解除できないのにお茶目すぎる。夢遊病にしたってレベルが高い。
ふむ。
……まあ、確認すればいいんだけどね。眠い頭をこれ以上酷使するのもアレだし。ふむとか言って何のアイデアも浮かんでないですよ。誰も居ないのに虚空に向かってポーズ決めてるのってやっぱりどこかおかしいのかも知れない。
寝っ転がった胎児体勢のまま新しく追加されたアプリとやらを探すと、新規を示す星マークの付いたそれはすぐに見つかった。画面左下に陣取っている黒一色のアイコンに触れてみる。緑一色は綺麗な役満なのに黒になるだけでずいぶんと悪趣味だ。悪趣味を通り過ぎてむしろ趣味が良いとさえ言える。どっちだよ。
アプリの立ち上がりは静かなものだった。BGMも効果音も何もない。〝株式会社タクティクス〟という社名ロゴがぼんやり浮かんでそして消え、タイトル画面が現れる。
「〝憑希育成ゲーム〟?」
読めない……。
タイトルが読めないのってゲームとしてどうなんだろう。
育成ゲームというからには何かを成長させるんだかレベルを上げるんだかするんだろうけど、育てる対象なんであろう〝憑希〟のネーミングセンスから隠し切れない中二病の香りがする。いや、別にいいんだけどさ。
株式会社タクティクスとやらの未来を案じざるを得ないね。
プレイヤーの名前を打ち込むよう指示が出たのでなんの捻りもなく本名を入れると、一旦暗転した画面は既にチュートリアルモードに移ったようで、何やら世界観を説明する文章が流れてくる。しっかり読むかどうしようかと思ったのは一瞬だった。いやだって、改行もなしで画面にぎっしり文字が這いつくばってるのに右上で点滅してるページ数表示が1/108とか、もはやチュートリアルなんかで読ませていい文量じゃないだろうが。しかも絶対微調整入ってる。煩悩は自分で処理してください。
俺は、静かに〝まとめてスキップ〟を選択した。
――と、
『〝契約〟をします』
「うあっ!?」
仰向けで操作していたため、突如聞こえてきた声に取り落としたスマートフォンが目を直撃して軽く大佐状態に陥る。いたい。右手で患部をさすりながらうつ伏せに移行した。これならきっと大丈夫、人間ってのはこうやって学習する生き物だ。
ちなみにこの事故に遭ったのは計六回目……俺の動物学的分類に疑問が生じる。
『〝契約〟をします』
声が催促してきた。
「おう……契約な」
目をこすりながら鸚鵡返しにしてみるも、〝契約〟が何のことなのかなんて全然分かっていない。でも、多分その説明もさっきのフルマラソン的なチュートリアルの中で解説されてたんだろうし、ここで文句をつけるのは筋違いのお門違いだ。役所ならたらいまわしにされている。
……さっきから何となくこのゲームをプレイする前提で話が進んでるな。まあ有料のアプリじゃないみたいだし、つまらなければ消せばいいか。
「何すりゃいいんだ?」
やっと痛みが引いてきた目から恐る恐る手を離し、そして俺はこのとき初めて声の主をはっきりと見た。
アニメキャラをデフォルメにしたような、四頭身くらいの可愛らしい少女。明るい栗色の髪の毛はストレートのロングで活発そうな大きな瞳を携えている。リアルな描写じゃないから元々が何才くらいをイメージして描かれたのか判断しにくいけれど、顔つきは割と幼い風にも見えた。そんな少女が画面の中に一人、佇んでいる。
この娘が〝憑希〟ってやつなんだろうか。
『〝契約〟を行うことに同意しますか?』
こっちの言葉に反応したのか、それとも発言の回数で変わるシステムになっているのか、少女の台詞が微妙に変化した。そして画面下にYES/NOの選択肢が出現する。
……契約、とは言うが、進行の程度的に多分ゲームを始めるときの〝利用規約に同意しますか〟のような質問だろう。世界観重視で分かりづらくなっている感が非道いけど、このまま終わるっていうのも何か後味悪い気がするし、気味も悪い。
それ以上考えることなく、YESをタッチする。
相変わらず不気味なまでに無音の画面の真ん中で、幼い少女がとても嬉しそうに笑ったのが妙に微笑ましかった。
デフォルメされたアバターは自らのことを〝遥〟と呼んだ。どうやら素の設定はさっきの笑顔の方らしく、真面目な口調で喋っていると背伸びしている感がある。小さい子がおままごとで大人役演じてる的なあれ。キャラ造形が可愛らしいからなおさらだ。
『これより契約内容の確認に入ります』
遥は右手の指を三本だけ立てた。髪がさらりとこぼれる演出なんか妙に細かい。
いわく、〝アプリを削除してはならない〟。
いわく、〝アバターに、攻略に関する質問をしてはならない〟。
いわく、〝アプリの存在を一般人に知られてはならない〟。
台詞が途切れる度に選択肢が表れる。さっきから遥の発言部分にテキスト表示がないんだけど、マナーモードでプレイしたりしたらどうなるのかちょっと気になるな。何も情報が伝わってこないままゲーム進行とか? クオリティがやけに高い割にそういうところが抜けているのはタクティクスなりのドジっ娘アピールだったりするのか。評価しないでもない。
まあ。たとえ音声での説明がなくても、これが契約内容というやつなんだろう。予想とは違ったけど、要はゲームをするにあたっての約束事か。……最初の一つはともかく、後者二つが良く分からない。アバターに話しかけるとか想像しただけで可哀想だし、それに一般人て何だ? もっと言えば俺は一般人の括りに入ってないの? ほんとに人じゃないの?
――痛みとは別の理由で目頭が熱くなってきたから閑話休題、こんなの全部〝はい〟を選ぶまでゲームが始まらない類の問いかけなんだからいちいち迷うことはない。上を向いて歩こう。
リズム良くYESを三連打するとようやく設定が終わったようで、『契約が完了しました』の声と共に再び社名とタイトルロゴが浮かび上がってきた。それにしても〝株式会社タクティクス〟って名前に全く聞き覚えがないんだよな……まあマイナーだったり発足したばっかりの企業を応援したくなるのは少しあるが。判官贔屓の亜種だ。
タイトルはやはり飾りっ気のない文字のみのモノクロ。効果音の類も一切なし。いっそ異質な雰囲気すら漂っている。
そして。その下に。
〝憑希・遥があなたに取り憑きました。被憑依者は何があっても契約違反を犯すことがないように、あなただけの憑希を育てて下さい〟
………………………………。
普通のゲームとはちょっと違ってどこか不安になるような導入だなとは思いつつも。
俺がこの文字列のを本当の意味で理解するのは、もう少し後の話になる。
読んでくれてありがとうございます!次回もお楽しみに!
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