俺達のダンジョン
「これ、チームからのせんべつと言うかお祝い。ランドマークポイントよ」
ミキさんはキラキラと光る大きな宝石を差し出した。
「ランドマークポイント?」
「ホームポイントにもなる魔道具よ。これを設置しておけば転移石で移動できるようなるの」
「ほう、これは凄い。こんなにいい物をありがとう」
「私が世話になるから家賃代わりっていってた」
「家賃か。あはは」
「本当は迷惑料と言われたんだけどね」
「あははは」
「よし、村を作ろう!」
俺達は小川の流れる平地を見つけるとそこを村とする事に決めた。
水が無いと生活に困るので、川の横に村を作るのは基本だ。
平地の真ん中にランドマークポイントを設置。
まばゆい光を放ち始める。
村の名前は『ユへミヤ』とした。
なんでユヘミヤとなったのかは内緒だというか、ユヘミガだと語呂が悪いとの事で俺の名前の扱いだけが悪かったので詳しい事は言いたくない。
「ランドマークポイントを設置した事だし、まずは村の青写真を作ろう」
「青写真?」
「設計図の事だよ。親父が仕事で公園とかの設計図を作ってるのを時々見てたからやる事は大体知ってるんだ。公園みたいな簡単な物でもぶっつけ本番で作らないでしっかりした設計図を作ってからそれに合わせて作っていくんだぜ」
「へー、そうなんだ」
俺は大きな切株の上に、大きな紙を広げる。
「まずは井戸だな。生活のライフラインを確保しないと始まらない」
「小川あるから、井戸なんて要らないんじゃないの?」
「まぁ、そうなんだけど、干ばつで小川が干上がったりしたら大変だから作っておいて損は無いと思うぞ。それに雨が降ると泥が流れて来て泥水になるけどそれを飲みたくないだろ?」
「そう言えばそうだね。じゃあ井戸が一番ね。その次は家かな? 日当りのいいとこがいいな」
「よし、家は井戸の南側だ」
「あとは炊事場? 水道が無いから家の中じゃ出来ないよね? わざわざ川迄お皿を洗いに行くのは面倒だから、小川の近くに作ろうよ」
「そう言われてみるとそうだな。炊事場は川の近くに作ると」
「水を使うトイレと洗濯場も外に作るのかな?」
「洗濯場はともかくトイレが外にあるのって夜にトイレ行く時怖くない? 私怖いのやだよ」
「トイレは家の中の方がいいと思うけど出したものはどうする?」
「出したものって、アレね」
「ガイヤ君がバケツで汲み取ってくれるならいいけど。それに換気扇が無いから家の中だと臭いそうだよ」
「じゃあ、炊事場とトイレと洗濯場は外だな」
「お風呂も外だね」
てな感じでみんなで話しながら家を設計する。
設計図を作っていると家の中には居間と寝室だけになってしまった。
「なんか、随分と小ざっぱりした家になったんだけど電気も水道も無いし仕方ないか」
「水道、下水道、電気が無いと今までの生活の再現は無理だね。私たちが考えてる普通の家は建てられないね」
「俺の頭が良ければ、上水道、下水道、水力発電所とか現代の知識で作るんだけど、普通の高校生の俺の頭じゃそんな物は作れるわけも無いしな。ミキさんなら頭いいから作れるんじゃない?」
「ハンバーガ屋でアルバイトしてる私が作れるわけないでしょ」
「まぁ、解ってたけど一応聞いてみた」
「くー! ガイヤ君ツッコミが心を抉る」
「大丈夫、わたしもお兄ちゃんも作れないからみんな同レベルだから」
「あはは」
「一応聞いておくけど、雪、お前なにか作れるか? んー、何でもいいわ」
「飛行機とか、空飛ぶ円盤なら余裕ですよ」
「マジか?」
「マジ?」
「オーバーテクノロジー キター!」
「雪ちゃん、凄いね」
「神は俺達を見捨てなかった!」
「ちょっと紙をください。あと書く物も。今すぐ作りますから」
「この場で設計図作るのか? ほら、紙とペンだ」
雪は紙をピリッと裂いて小さな正方形に整えると、折りはじめた。
「こ、これって……」
「あれだよな……」
「はい、出来ましたよ! あ、UFOに窓書くの忘れてました」
出来上がったのは紙飛行機と、空飛ぶ円盤の折り紙だった。
「あう」
神はやはり俺達の事を忘れ去っていた!
雪が呆然とする俺たちの表情を不審がり覗き込む。
「どうかいたしました?」
「いや、お前は悪くないよ。全然悪くない」
「雪ちゃん、良く出来たよね。折り紙上手いよ」
「えへん!」
気をとり直して青写真の続きを始める。
「2階に、お兄ちゃんと、雪ちゃんと、私の部屋作って、一階にリビング兼食堂の大きな部屋かな? あと倉庫用の地下室だね」
「まあ、そんなとこだな。畑とかは村が出来てから考えよう」
大体の村の設計図が書けたので、村の建設を始めることにした。
まずは造成だ。
造成とは地面を平らに慣らす事。
そして肝心なのが基礎工事。
家の重みに耐えられるようにしっかりとした土台を作る。
これをしっかりやっておかないと家が傾いたりしてしまう。
木を切り倒して、切株を引っこ抜き、切株を抜いた後の穴を土で埋めてハンマーで叩きつけてしっかりと固める。
最初は手間取ったがやってるうちに建設スキルが上がって来たのか段々と楽しくなって来た。
「よし、炊事場作ろう!」
「先に家じゃないの? 住むとこ無いよ?」
「家は作るのが難しいだろうから最後だ。先に簡単な物を作って慣れてからじゃないとヤバイだろ? 家に入った途端に倒壊して下敷きになったらどうする?」
「なんかそう言われるとちょっと怖いね」
「それにさ、家を先に作っても、トイレとか炊事場とか他の設備が出来てないと、結局は住む事は出来ないから同じ事だぜ。村が完成するまでは転移石を使って宿から通おう」
俺の作戦は間違えて無かった。
最初は炊事場の流しやかまどみたいな簡単な物でさえ作るのにかなり手間取ったが、洗濯場、風呂場、トイレの順に作っていたら段々と上手くなり、最後のトイレに至っては思わず頬ずりしたくなる程の出来栄えで、正に芸術、正に匠の技の出来栄えとなった。
さらっと流してるけど、ここまで一週間ほど掛かったんだぞ。
「よし、家を建てよう!」
俺達は家の基礎工事をした後、ヘブンとミキさんが念入りに作った設計図通りに家を建て始める。
材木は最初の造成をした時に伐採した木から切り出した材木だ。
もちろんそれだけじゃ足りないので辺りの木を伐採しまくる。
本当は材木にする前に数年間寝かせて乾燥させた方がいいんだけど、そんなに待っても居られないので気にせず材木にした。
作った図面がしっかりと出来ていたので建築時のトラブルはほぼ皆無で、出来上がった家は木造2階建て地下室付き。
完璧と言ってもいいほどの仕上がりである。
「あとは井戸さえ作ればここに住めるな」
俺と天使は硬い岩盤を力を込めてシャベルとツルハシでガンガン掘り進んだ
だが、いくら掘っても掘っても、水は出なかった。
もう50mは掘った。
おかしい、こんなに掘っても水って出ないものなのか?
「井戸ってこんなに水が出ないものなのか?」
「私、井戸掘った事無いから解らないよ」
「温泉の場合は出ない時には2000mぐらい掘る時も有るって親父に聞いた事有るけど、井戸はマグマとか関係無いからそんなに深く掘らないよな? そんなに深かったら、井戸水を汲む時のロープの釣瓶の長さがとんでもない事になるよな? ん~。ここまで掘って出ないとなると……村作る前に先に井戸掘っとけば良かったな」
「だよね……」
「ちょっと横穴掘って調べてみようか?」
「そうだね。なんかおかしいよ」
太陽は既に落ちかけていた。
俺と天使は雪を上に残したまま日が落ちるまで横穴を掘る事とした。
横穴を掘り始めて10mぐらい進むと、雪が井戸掘り穴の梯子を駆け下りて来た。
「たいへんです! たいへんです! 兵隊さんが村にやって来て、ご主人様とヘブンさんを捕まえようと探しています!」
「な、なんだって?」
「俺達何にも悪い事してないぞ?」
「理由は判りませんが指名手配になっているそうです」
「マジかよ!」
兵士が井戸の梯子を見つけて降りて来た。
「ヤバイ……どうする?」
「ヘブン、アバター変更チケット持ってるか?」
「うん、まだ有るよ」
「あれ使って何でもいいから変身しろ。変身したらシラを切り通せ!」
「わかった」
「このチケットってどうやって使うんだろ?」
「あ、チケットの裏に使い方書いて有るね。『なりたい姿を想像して額に掲げればその姿になれます』と」
俺達はチケットを使う。
すると眩い光に包まれる。
光が去ったその後には別人の姿の二人がそこに有った。
俺は前に会ったアヘ顔の王様、天使は金髪ロングヘアの、いかにもマリーアントワネットって感じのお姫様に変身してた。
「なに、お兄ちゃんのその姿。うける~!」
「これしか思い浮かばなかったんだよ。これからの人生この姿で生きていかないとと思うと涙出てくるわ。そう言うお前も、ベタベタなお姫様じゃないか!」
「てへへ」
「うははは!……はっ! 今はこんな事で笑ってる場合じゃないな」
俺は梯子に駆け寄ると降りてくる兵士6人を必死で止めた。
「この先に行ってはなりませぬ!」
「何故止める? この先に指名手配犯のガイヤとヘブンがおるからなのか?」
「ここにそのお二方が来ているかは知りませんが、この先は代々我々の家系が管理しております迷宮で御座います。それはそれは強いモンスター達が沢山住んでおります。失礼ですが、そのような軽装をしてこのダンジョンに潜られては、命の保証は出来かねます。今日はお引き取り願いまして、また明日、ちゃんとされた装備を用意されてからお潜り下さい」
「なんと! そんな恐ろしいダンジョンがこの地に有ったのか! 装備を整えてまた明日やって来るぞ!」
「はい、お待ちしております」
兵士たちは逃げる様に井戸の階段を登って帰って行った。
「あんな適当な嘘で納得するのかよ……しかも、殆どの兵士がビビってたし」
「元NPCの人たちは、素直と言うか純朴と言うかそんな人ばかりだからね。渋谷の街を歩いてたら30分ぐらいで絵やら壺やらを山ほど買わされて一瞬で全財産巻き上げられそうな人ばかりだよね」
井戸の外に出ると、太陽は既に完全に落ちて夜になっていた。
俺達が休憩してると変身の効果が解けた。
どうやら変身は永久継続の効果では無いらしい。
チケットの裏を見てみると効果時間は30分で何度でも使えるとの事だった。
「こりゃ、めっちゃ使えるアイテムじゃないか?」
「ご主人様が一生あの姿のままだと思うと、雪、涙が出てきてしまいました。ホント戻れてよかったです」
「あの顔は笑えるからね……」
「泣くって、笑い涙が出るって意味なのか?」
雪はニコリと笑っただけで答えてくれなかった。
「とりあえず兵士が帰ってくれた事でとりあえずの危機を脱したんだが、これからどうする? この村を捨てて他の国に行くか?」
雪が泣き顔になって俺の胸にしがみ付いて必死に抗議した。
「嫌です! せっかくここまで頑張ったのに、この村を捨てるのは嫌です!」
「じゃあ、お兄ちゃん。嘘は嘘で塗り固めないとダメだよね?」
天使ちゃんはとっても悪い小悪魔の顔をした。
「どうすればいいんだ?」
「テキトーなダンジョン作っておけばいいんだよ」
「ああ、なるほど。明日の朝までにダンジョン作ってやろうぜ! テキトーに部屋作って、森で狼捕まえて来て、ダンジョンの中に放して置けばいいな」
「そうしましょう!」
「「おー!」」
俺達は徹夜でダンジョンを掘り始めた。
俺達は最初、皆手間取ったが掘っているうちに採掘スキルと建築スキルが上がったのか段々とダンジョン作りが上手くなり、石壁造りの縦横50m四方の立派な迷路型ダンジョンを掘り終えた。
泥だらけになった天使と雪とミキさんを労う。
「みんな頑張ったな!」
「わたし、ダンジョン掘ってると、段々と楽しくなってきたよ」
「わたしもわたしも!」
「ですねー! 私も楽しかった」
「俺なんかさ、この為に生まれて来たんんじゃねえの?ってぐらい楽しかったぜ」
「お兄ちゃんは土方のお父さんの子供で、そう言う血を思いっきり引いてるからそう思うんだよ」
「マジかよ! あんな一番なりたくない親父に似てたとは……」
明け方、森から捕まえて来た狼30匹と大イノシシ10匹をダンジョンの中に放しておいた。
自慢のダンジョンの完成だ!
昼ぐらいになると昨日来た兵隊がやって来た。
6人の小さな分隊だ。
昨日の軽鎧から防御力重視の重鎧に装備を替えていた。
「この先には凶悪なモンスタ―が居るので気を付けてください」
「ああ、肝に銘じておくよ」
兵士たちは警戒しながらダンジョンに潜って行った。
「俺達のダンジョンの初お披露目だな。俺達の自慢のダンジョンの」
「楽しんできてね~!」
「頑張るのです~!」
だが、帰って来た兵士からはとんでもない言葉が帰って来た。
罵声だ。
「なに、このクソダンジョン!」
「小さいし! 敵少ねーし、宝箱一つねーし!」
「とんだ骨折り損のくたびれ儲けだな!」
「何が先祖代々のダンジョンだよ!」
兵士が村を後にした後、俺達は荒れた。
「クソ! クソ! クソ!」
「あんなに頑張ったのに! 徹夜で頑張ったのに……」
「涙出て来ちゃいます……」
「あの兵隊さんたち酷いよね」
「絶対に奴らを見返してやる! 絶対、あいつ等を唸らせる、世界一のダンジョンを作ってやるぞ!」
「「「おー!」」」
俺達のダンジョン魂に火が付いた。




