俺達の村
5日ほど不眠不休で転移石を作り続けていると必要とする殆どのプレイヤーに行き渡ったのか急に注文が減って来た。そこで当面必要であろう転移石を作り込んで転移石の作成を止めることにした。
ミキさんもチームの仕事が終わったのか毎日の様に宿に顔を出す様になって来た。
「今日も転移石作りの商売が繁盛してるね」
「これでもかなり落ち着て来たんだけどな。前はもっとすごかったんだぜ。転移石作りは欲しがる人には行き渡った感じだからそろそろ作るのを止めようと思うんだ」
「止めちゃうんだ」
「これ以上作っても在庫の山が詰み上がるだけの感じで置き場所に困るしな。作り置きして置く感じで月に一度売れた分だけ作る感じにするよ。これぐらい有れば1か月は持つかな?」
「ご主人様。今の注文状況ですとこれだけ有ればたぶん3か月は持つと思います」
「おし! 転移石はこの辺りで切り上げて今度は村造りを始めるか!」
「お兄ちゃん、村造りって私たちの村!?」
「もちろん! ヘブンと雪と俺の村」
「ほ、ほんとうに?」
「本当ですか?」
「雪がレッドレイクの街に出てまたトラブルに巻き込まれると嫌だろ? だから俺達だけの村を作ろうと思う」
「ご、ご主人様、雪、感激しました! こんなにも私の事を思ってくれてるなんて! ご主人様が私のご主人様で本当に良かったと感謝します」
「その為に転移石作って、売って、みんなで稼ぎまくって頑張って来たんじゃないか」
「ご主人様……」
雪が俺の首にぶら下がって抱き付いていると、遠慮がちに俺の顔色をうかがうミキさん。
「あのー。ガイヤ君、その村に私も一緒に住んでいい?」
「もちろんさ。ミキさんも来てくれ」
「やったー! 雪ちゃんと一緒に住める! じゅるり!」
「でもさ、村を作る土地って何処で買えばいいんだろな?」
「村造りなんて何処かの平原か山の中に行って、勝手に木を切り倒して広場作って勝手に住んじゃえばいいんじゃないの?」
「さすがにそれはマズくないか? きっと土地は誰かの持ち物だろから勝手にそんな物建てたら怒られると思う。それに村を作って完成してからここは高速道路の建築予定地だから立退けとか言われたらシャレにならないぞ」
「この世界には高速道路も車も無いって、ガイヤ君」
「例えだよ、あくまでも例え。俺たちの村が完成してから役人が来て『はい! ここに砦作ります~』とか『畑作ります~!』なんて事になったらシャレにならないだろ?」
「たしかにそう言われるとそうだね」
「日本だと土地を買うには不動産屋行けばいいと思うんだけどこの世界じゃそんな物見た事無いしな。敢えて言えば住宅村が土地売買に当たると思うんだけど住宅村はこっちの世界には無いしな。町に住んでる住民の人達はみんなどうやって土地を手に入れて家立てたのかな?」
「町に住んでる住民の事は解らないけど、冒険者だと宿屋に泊まり続けるか、チームハウスに住むのが殆どで、町の外に家を建てるとなると王様のとこに行って土地を分けて貰う物なんじゃないのかな? 何か討伐したご褒美とかで」
「あー、確かにそんなイメージだな。日本の江戸時代の大名とか西洋の英雄とかはマジそんなイメージだな。戦で功績を上げて褒美に土地を貰う感じだな」
「この前チームハウスを作った時は王様に申請出したら空き家貰えたよ」
「とりあえず王様に会いに行って土地を譲って貰えるか相談だな」
俺達は王様に会いに行くことにした。
王様はレッドレイクの王城街にある王城に居る。
俺達冒険者は殆ど縁の無い所でこの世界がゲームだった頃でもメインミッション以外で関わる事の無かったエリアだ。
その王城で『転移石の献上の為、謁見する』と言う形で王様と会う事にした。
王城の入り口には衛兵が立っていて当然の如く侵入を阻まれた。
「すいません、王様に御献上のお品を持って来ましたので会わせて欲しいのですが」
「ならん! 見ず知らずの者を通す訳にはいかん!」
俺達は不審者として王城の入り口から追い払われた。
「どうしよ? 通してくれないぞ?」
「困ったわね。この時点で予定がめちゃくちゃね」
「文字通り門前払いって感じでしたね。どうしましょうか? ご主人様」
「あれだよ、きっとあれだよ。ちょと私が話をつけてくるからお兄ちゃんここで待っててね」
ヘブンは一人で衛兵の元へ向かう。
1分程話をすると離れて見ていた俺達に対して手招きをした。
こっちに来いと言う合図だろう。
「お! なんか話つけて通れるようになったみたいだな。行くぞ」
俺と雪は小走りで天使の元へ向かう。
「どうやって話つけたんだ?」
「見ず知らずの人は通せないと言ってたので、ちょっとお小遣いあげて衛兵長のグレンさんとお友達になったんだ」
さすがリアルでもゲーム内でも人付き合いのいい妹だけは有る。
こうもあっさりと袖の下を渡してしまうとは。
人付き合いの下手な俺と違って見ず知らずの人と仲良くなるのがホント上手くて羨ましい。
衛兵に連れられて俺達は玉座の間に通された。
分厚い豪華な絨毯が敷き詰められているのだが足の踝辺りまで毛足の中に沈み込んで足が引きずられる感じで歩き悪くて仕方ない。
玉座に座った割と小柄な白い髭をたくわえた初老の王様はいかにも『王様じゃよ!』と言った感じで玉座に踏ん反り返っていた。
俺達は玉座から少し離れた床にひざまずいた。
「何の用じゃ?」
「この度、転移石の製造を始めましてサンプルとしてお持ちしました」
「転移石とは初めて聞く名じゃが? どのような物なのじゃ?」
俺は横でひざまずいているヘブン達に小声で耳打ちをする。
「この王様は転移石の事を知らないらしいな。うまく立ち回れば、これで土地貰えるかもしれないぞ」
「超レアなアイテムと思い込ませれば土地貰えるかもね」
「ご主人様、ガンバです!」
俺は王様の方を向くと物々しく話し始める。
「これは、大変貴重なマジックアイテムで有りまして、今まで馬車で数時間いや数十時間掛けて移動していた道のりを一度でも行ったことのある場所であるならたった数秒で移動できると言う大変素晴らしいそして貴重なレアなマジックアイテムであります」
「そうか……受け取ってやる」
「何か転移石についてお聞きになりたい事はございますか?」
「いや、なにも無いぞ。ほかに用は有るのか?」
ガーン!
あっさり話が終わっちゃったじゃねーか!
全然食いついてこないじゃないか!
もう話が終わっちまったじゃねーか!
予定ではここで食い入るように話を聞いてくるはずだったのに。
どうすればいいんだよ……。
俺はまたまたヘブン達に小声で耳打ちする
「王様、全然転移石に興味無い感じなんだが? どうする?」
「どうするって、これしか用意してこなかったんでしょ?」
「ああ、持って来たのはこれだけだ。まさかここまで興味を持ってもらえないとは予想を遥かに超えている」
「平和な国の王様なんて産まれてから死ぬまで自室に閉じこもりっぱなしのニートと同じで、一日中玉座の上から動かない様な超インドア派なんだからそんな移動アイテムに興味沸く訳ないわよ。むしろマッサージチェアとか携帯ゲーム機とか持って来た方が興味持ってくれたんじゃないかな?」
「そんな物持ってねーし。こうなったら金でどうにかするしかないな」
俺は王様に向き直り再び話を始めた。
「王様。お願いが有ります」
「なんじゃ?」
「この度、私どもはこのマジックアイテムの製造の為に、工場、いや職人の住む町を作りたいと思っています。そこで大変ぶしつけなお願いとは思いますが町を作る為の土地をわけて頂けないでしょうか? もちろん、お代はお支払いいたします」
王様はそれまでのボーっとした表情から真剣な顔になって怒り出した。
「な! ならん! わが領地はご先祖様から代々受け継いできた土地だ。ワシの代で少しでも領地を減らす様な事が有ったら御先祖様に申し訳がたたない!」
「いくらなら売ってくれるのでしょうか?」
俺は100万ゴルダの金貨袋を俺の目の前の床に置く。
「そんなはした金では売れん!」
この言葉、金額さえ折り合いが付けば売ってくれると言う事なのか?
『売る気は無い』と言う事じゃ無くて、金額さえ折り合えば売ってくれるって事なのだろうか?
ならば額を積み上げれば売ってくれる可能性は有る!
俺の前に1,000万ゴルダを積む。
スモールリーフみたいな小さな村ぐらいの土地なら確実に買えるぐらいの額だ。
「これでどうでしょうか?」
「き、金額じゃないんじゃよ、金額じゃ。ご、御先祖様の土地だから売れないのじゃ……」
効いてる、効いてる!
『お金』と言う実弾を喰らわしたボディーブローが確実に効いてる!
もうひと押ししたら売ってくれそうだぞ!
俺は間髪開けず、3,000万ゴルダ分の金貨袋を俺の目の前に積んだ。
「うは! その金貨袋の山は?」
「3,000万ゴルダでございます」
「しゃ、しゃんぜんまん? この国の国家予算並じゃないか!」
「これで売って下さい」
「い、いや、領地はご先祖様の、遺言で、ぜ、絶対に、減らすなと……あっ……でも、そのお金……」
よし、もうひと押しだ!
まだ金はある。大丈夫だ!
いける!
こいつは落とせる!
俺は合計1億ゴルダ分の金貨袋を目の前にうず高く積む。
高さは1メートル程あって崩れてきたら確実に怪我しそうな金貨袋の山だ。
確実に小さな国なら買える額だ。
札束じゃ無いので金貨袋の山が物凄い見た目だ。
「これでいかがでしょうか? 1億ゴルダです!」
「い、いちおく? いちぃーおく?」
「売ってくれませんか?」
「ら、らめ……、お、おうさま……うれないの。でも、おうさま、いちおくほしいの……」
効いてるなんてもんじゃねー。
よだれ垂らしてアヘ顔で確実に逝っちゃってるよこいつ……。
おまけに床の上でモニョモニョし始めてるし。
後は時間の問題だけど天使や雪にこんなふしだらなおっさんの姿を見せ続ける訳にもいかないし……一気に決めてやるか!
「くらえ!」
俺は10億ゴルダの金貨袋の山を積んだ。
もう山じゃ無くて山脈だけどな。
「10億ゴルダです!」
「じゅじゅうおく……ウヒッ!」
「これで売ってくれますね?」
「うひひひ」
「…………。仕方ない、他の国をあたる事にしますか」
俺が金貨袋を懐にしまい込む素振りを見せると王様が真顔になって止めに入った。
「あー! ちょっとまった! 売る! 売ります! 売らせてください!」
「交渉成立ですねっ!」
「東の森の権利書じゃ。代々狩猟地として受け継がれている山々に囲まれた緑豊かな土地でな。さあ、これを持って行くのじゃ! 大事に使うんじゃぞ」
俺は村を作る為の土地を手に入れた。
「ずいぶんと割高な買い物になっちゃったね」
「3億位でも買える感じだったよね」
「でも、使い道が無かった金だからいいんじゃないか?」
「そう言えばそうだね。あと、どのぐらい持ってるの?」
「40億ゴルダぐらいかな?」
「そんなに持ってたんだ。じゃあ10億ゴルダぐらいどうでもいいね」
俺達は地図を頼りに東の森に着いた。
馬車で3日も掛かった。
着いてみてビビった。
小さな森かと思ったら関東平野サイズも有った。
「こんなデカイ土地、どうすればいいんだよ!」
「お兄ちゃんがお金払いすぎるからじゃん! 仕方ないから超デカイ家でも建てよう!」
「いいな、それ」
「長さ1kmの家よ!」
「さすがにそれは掃除が大変で使いにくいだろ? 第一夜中にトイレ行きたくなったら確実に間に合わなくて漏らすぞ」
「あはは」
と言う事で、大きな平野の端っこに、ちんまりとした小さな村を作ることにした。




