最後の春
初心者ガチャを買えない奴等の嫉妬でとんでもない目に遭ったぜ。
転移石を使いステップ迄逃げて来て追っ手も振り切りホッと一息。
「とんでもない目に遭ったな」
「ビックリしましたよ。なんかまた変な人に頬摺りされましたし」
あいつ許せねぇ!
俺がまだした事もない頬摺りをしやがって!
運営に通報してやるわ!
「雪、災難だったな。好きなもん注文していいぞ」
「じゃあ、マロンパフェを」
マロンパフェを食べてる雪の幸せな表情は最高だな。
俺迄幸せになるわ。
さてと、これからどうしようか?
この騒動はシゲキが言ってた掲示板の騒ぎのせいだろうな。
どうせまた暇な掲示板民が騒いで祭りとかになってるんだろ。
当分は人のいない豚王の城にでも籠って遊ぶしか無いか。
その時、数少ないフレンドのマサルからカットインメッセージが入った。
「ガイヤ! お前、とんでもない事になってるぞ!」
「とんでもない事は当事者の俺が一番解ってるんだが……。訳もわからず、おっさんの群れに追われてるんだが……どうなってるんだよ!」
「昨日、掲示板でお前の事が話題にあがっててな、デュランダルとレアパトを持ってるお前が晒されてて、チーターだろうって結論に行きついたんだ。おっさん達はお前を公開処刑に掛ける為に捕まえて運営に渡そうとしてるんだよ。絶対に捕まるなよ!」
やはりこの騒ぎは掲示板の騒動の延長の様だ。
俺は何にも悪い事をしてないのに何でこんな目に遭わないといけないんだよ、まったく!
「はあ? 俺チートなんてしてないぞ?」
「俺も解ってる。お前がチートなんて使う奴じゃないってのもな。でもな他のプレイヤー達はそうは思ってないぞ。とりあえず今は辺境に籠るか、ログインするのを止めて騒ぎが収まるのを待て」
「それしかないだろうな」
マサルとの会話が終わる前に聞こえる叫び声!
俺の装備を見たおっさん達が騒ぎ始める。
「なんじゃこりゃ! オールカンストのステータスだって!!? まるでチートじゃね?」
「こりゃすごい!」「なにこの壊れ性能?」「メッチャ欲しい!」「これならラスボス余裕だな!」
それを聞いた群衆が更に押し寄せる!
身動きが取れないぐらいに、取り囲まれた。
目の前には、
おっさんの禿げ頭!
おっさんの胸板!
おっさんの唇!
おっさんコエェェェ!
おっさんに酔うわ。
俺は嫌悪感の為、思わずひるむ。
それに続きやって来る掲示板民!
「チーターを見つけたぞ!」「掲示板の情報は本当だったな」「魔導班、奴に拘束呪文を掛けろ!」「絶対に逃がすな!」
やべぇ!
もう見つかった!
なんでこんなに発見が早いんだよ?
「雪逃げるぞ!」
「まだパフェ残ってるのに……」
「後で飽きるほど食わしてやるから今は逃げるぞ!」
「はい!」
俺は雪の手を引き、転移石の使えそうな人のいない所まで逃げる。
「逃げたぞ!」「俺まだ見てないのに!」「捕まえろ!!」
やべぇ!
ここじゃ転移石がキャンセルされて使えねぇ!
なんで転移石は外部から発動をキャンセル出来る変な仕様になってるんだよ?
確かにさ、転移石が即時発動だったら盗賊が敵からアイテムを盗んで転移石使って逃げればアイテム盗み放題なのが原因なんだろうけど。
俺は必死で逃げだした。
まるでゾンビの集団に襲われるヒロインの様にステップの町を逃げ回った。
裏路地の行き止まりに追いつめられた。
そこで転移石を発動。
おっさん達はじりじりとにじり寄る。
「ぐふふふ! 今度は逃がさねーよ!」
「大人しくしやがれ!」
「だいじょうぶ、痛くしないから大人しくしてな!」
やばい!
俺の貞操がやばい!
マジヤバイ!
犯される!
転移石の発動よ、間に合ってくれ!
おっさんが俺の目の前に来て襲い掛かる瞬間、手の中で光り出す転移石!
キャスト時間の5秒ににギリギリ間に合った!
「転移石かよ!」「逃げたぞ~!」「何処に逃げた~!」「奴の足取りを追え!」「何処に逃げたんだ?」「掲示板で今すぐ確認だ!」
転移石の光のに飲み込まれながら、俺は怒れる群衆の声を聞いた。
俺は転移石を使いこのゲームの第二の首都レッドレイクの街に逃げた。
へへへ!
転移石で逃げちまえばこっちのもんだ。
あばよ! 銭形のとっちゃん~!…………って銭形って誰だよ。
*
俺は転移石を使ってレッドレイクの街へ辿り着いた。
俺はおっさんの集団から逃げ切り一息ついていた。
「怖かったです~」
「あれが美少女の集団だったらウハウハだったんだがな。さすがにおっさんの集団はチトきつい」
「ご主人様、雪ではなく美少女でないとダメですか?」
「いや、雪だけでいいぞ」
「ご主人たま―」
俺の腕に抱きついてくる雪。
くーっ! すごくかわいい。
雪にそんな事されたら落ち着いて来た呼吸がまた乱れてしまうじゃないか。
深呼吸をして息を落ち着けているとすぐに怒鳴り声が聞こえた。
「見つけたぞ!」「奴はレッドレイクに現れた!」
げ!
マジかよ!
もう見つかったのかよ!
お前らの捜査能力半端ねー!
味方にすると頼りないのに、敵に回すとこれ程までに恐ろしいのが掲示板民か!
無数の転移石の光が辺りを包み、その光の中からおっさんの集団が次々現れる!
おっさんの群れが転移石を使ってワープして来た!!
「チーターめ! とっ捕まえてやる!」「処刑だ!」「公開死刑だ!」「チーターに死有るべし」「チーターはBBBから追放だ!」
怒れるおっさんの群れが俺達を襲って来た。
それはもう、津波の様な数のおっさんが!
「くーー! どうすればいいんだよ! 俺!」
俺達はレッドレイクの街をおっさんの津波から逃げ惑い、一際大きな城の様な建物に逃げ込んだ。
立ち入り禁止エリアの警告が出るがそんなのは気にしていられない。
警告が出るが無視してその城の中に逃げ込んだ。
さすがに立ち入り禁止エリアの中迄は群衆は来なかった。
「ふー、やっと逃げ切れたか。ここでログアウトしよう。雪、騒ぎが収まるまでログインをしないから、しばらくの間家で勉強でもして待っていてくれ」
「わりましたご主人様。ご主人様と会えないのは寂しいですがこんな騒ぎでは仕方ないですね」
俺は床に座り込みログアウトを始めた。
ログアウトを告げるシステムカウントダウンが始まった。
──ログアウトまで10秒
──ログアウトまで5秒
──ログアウトまで4秒
──ログアウトまで3秒
──ログアウトまで2秒
その時、背後から声が掛かった。
「不審者め! おとなしくしろ!」
槍を構えた衛兵だ!
俺はログアウトを強制中断させられ、城主の元へと連れていかれた。
玉座にはちっこい王様が座っていた。
どう見ても小学生な感じの少し生意気な感じのする女の子が玉座に座っている。
あれ?
これはNPCじゃ無くPCなのか?
「お前は今話題のチーターだな! 罪人の癖に、正義の騎士団! 赤獅子騎士団の本部に逃げ込むとはとことんなめ腐った奴だな!」
「あれ? 赤獅子の団長って、ヤンキーのおっさんじゃなかったっけ?」
「私は二代目の団長だ。ゲームばっかりして仕事サボるお父ちゃんから騎士団長の権限を剥奪して引き継いだのだ!」
「なんか、ちんまりしてて可愛いいな」
「ぶっ、無礼者! 幼女だからって私の事を侮辱するとは許さん!」
「ごめんごめん、そんなに怒るなよ。ここは城じゃ無くて騎士団の建物だったのか……。どうりでおっさん達が中まで追って来ない筈だな」
「どれ、ちょっとお主のスキルを見せてみろ……うはっ! 完全に真っ黒なチーターじゃないか! 全ステータスがカンストって……チートするにしても、もう少しバレ無い程度に加減しろよ!」
「いや、これ、デュランダル欲しさに記念パックを32本買って、特典コードを全部入れたらこうなっただけだから。チートじゃ無く合法だから!」
「32本もだと? ちょっとだけ大きい子供のお前がそんなに買える訳が無いだろ! 32本も買ったら一体いくらになると思ってるんだよ。そんな金額、大人じゃないお前が払える訳が無い!」
「10万円だ、貯金を全財産叩いて買ったんだ」
「10万円の訳が有るか! お前、おっきい子供なのに計算も出来ないのか? 合計で12万円だ! 私のおこづかいじゃ一本さえ買えなかったと言うのに、子供のお前が32本も買える訳が無いだろ。チートしてるんだよな? チートしたんだよな?」
「そんな訳あるか!」
「それに全部買ったパッケとしても、コードを32本も入れるのは人間として間違えてるだろ? どう見ても反則だろ? モラル違反だろ? そんな事は赤獅子騎士団長として許さない! 許せない! 運営に通報してやる!」
「どうぞどうぞ! こっちは全部のパッケをちゃんと金払って買ったんだ。マネーパワーだ! 金の力で無双して何が悪い! モラルなんて知った事ねーよ! 後ろめたい事なんてなんにもしてないさ! まったく問題ない! 運営でも警察でも、どうぞどうぞご勝手に通報してください」
「ああ、そうさせてもらうぞ」
少女は運営にカットインメッセージでこの事をチクった。
どうせ相手にされないだろうけどな。
「通報してやったぞ! ざまーみろ!」
「ふふっ! 通報したって無駄さ。こっちは正規に買ったんだからな! 無駄無駄無駄!」
「それはどうかな? 私が正義の守り神、赤獅子の団長と言う事を忘れてないか?」
少女が通報してから2分程度でシステムメッセージが流れた。
──現在、VRMMO:BBBの三周年記念パッケージの特典コードに不具合が発生しています。使えるコードは1クライアントにつき3枚までとなります。それ以上の枚数のコードを入力した場合、4枚目以降は無効になりますのでご了承ください。なお本問題の修正はリアル時間3日後のメンテナンスの時に行います。
「マジかよ!」
「ご主人様、わたし消されちゃうんですか?」
大泣きし始める雪。
「雪は最初に当たったから大丈夫だ。消される事は無い」
「ほんとうですか?」
「ああ、本当さ」
「ご主人様とこれからも一緒に居られるんですね」
「もちろんさ!」
赤獅子団長のちんまりした少女はこのシステムメッセージを見て大喜びだ。
一人でお祭りを始めそうな勢いの悦びよう。
すげームカつく。
「運営グッジョブ! グッジョブ過ぎる!」
「うざ! うざ! うざ! ガキうざ!!!」
「チーターは滅べるべし!」
さようなら、俺の春。
さようなら、俺(と親父の)の12万円。
でも雪がだけは残ったからまあいいか……って、全然よくねーよ!
俺の12万が~!
借金が~!




