転移石
翌日、学校から帰るとすぐにバイト先のハンバーガー屋に面接に行く。
出てきた店長のお姉さんはかなり感じのいい人だった。
「君がバイトに応募してきたガイヤ君ね。やる気はある?」
「もちろんあります」
ここで断られたらいろいろと困る。
俺は必死に自己アピールを始めようとすると……。
「合格!」
「ふえっ? いきなりですか?」
「バイトやりたくて来たんでしょ? やる気が有れば合格よ! ただこっちも最初はいきなりバリバリ働いてもらうつもりは無いから安心して。その分時給も安くしてるし」
「ははぁ」
それでバイトの時給が低めだったんだな。
「こっちがお願いしたいのは、1:サボらない事、2:言われたことはちゃんとやる事、3:理由なしに休まない事。お昼の忙しい時間に雇うんだからガイヤ君を頼りにするんだからね。ちゃんと休まず働いてよね」
「わかりました」
「じゃあ、時給は払うから土曜日からやる仕事をざっと覚えていってくれる? 大体1時間ぐらいの研修よ。それぐらいなら時間取れるわよね? いいかな?」
「うーん、これから夜ご飯作らないといけないんですよね……」
「ごはんかー。うん、それならうちの廃棄するハンバーガーを持って帰りなさい、それならいいでしょ?」
「わかりました」
と言う事で担当の先輩アルバイターに一通りの仕事を教えてもらう事になったんだけど、その人の顔を見て驚いた。
「ガ、ガイヤ君?」
「ミキさん?」
ゲームの中と寸分違わぬミキさんが目の前に居た。
こんな感じの出会いは実容姿制のBBBではよくある事らしい。
「なんでガイヤ君がここに?」
「ガチャで食費使い込んじゃったんで……しばらくの間、土日はここでバイトをする事になりました」
「そ、そうなんだ。大変だね。ガイヤ君が近所に住んでるとは思わなかったから私驚いたよ」
「俺もまさかミキさんとこんなとこで会うなんて思ってなかったから驚きましたよ」
「はーい、そこー、サボってないで働く働く!」
「すいませーん!」
ミキさんと立ち話していたら店長に怒られた。
タイムカードやゴミ出し、バーガーの作り方や包み方等、一通りの説明を受けながら話をする。
ミキさんは短大に通っていて講義の無い暇な時間ここでバイトをしてるそうだ。
リアルのミキさんはゲームの中よりも丁寧な感じのする女の人だった。
可愛いよりきれいと言った方がいい感じ。
そんなミキさんと話していると女性とあまり話す経験の無い俺は緊張で思わず顔が火照ってしまう。
やたらぎこちない俺。
研修の一時間はあっという間に過ぎた。
「じゃあ、また今夜BBBで遊ぼうね」
「はい」
帰り際に廃棄処分のバーガーを店長から貰う。
どう見ても廃棄処分じゃ無くて作り立てだ。
しかも手提げ2つ分。
たぶん4人家族分だ。
「こんなにありがとうございます」
「これ食べて土曜日から頑張るのよ!」
「はい」
家に帰ってヘブンに袋を見せると涙を流して喜ばれた。
*
BBBにログインして勉強を済ませる。
ミキさんの鍵取り迄時間の余裕が有ったのでそれまで雪とどこかに出かけようと思ったらカットインメッセージが入る。
見慣れぬシゲキという名前。
メッセージの顔を見て一発で思い出した。
その相手は昨日助けた俺が前に所属していたチームの幹部の中学生シゲキだった。
「悪いんだけどちょっと会って貰えないかな?」
「何の用です?」
「昨日の礼とか今までしてきた事の侘びとかしたいので有ってくれないかな?」
今更チームで除け者にして来た事を詫びるのかよ。
ちょっと助けただけで態度変え過ぎだろ。
今や俺の方がずっと強いからチームでの事なんてどうでもいいわ。
年上の余裕といった感じで軽く流す。
「別に過去の事は気にして無いからいいですよ」
「それだと俺が困るんだ。それに他にも謝りたい事が有るから……頼む!」
「わかりました。じゃあタルミの大樹広場でいいですか?」
「おう! すぐに向かう」
シゲキは転移石を使い大樹広場に現れるといきなり土下座した。
「すまん、俺、とんでもない事をしでかしてしまった!」
「チームの事なら気にして無いからいいですよ」
「それだけじゃ無いんだ、ほんとごめん!」
「それだけじゃない?」
こいつ、いったい何をしでかしたんだ?
「昨日、匿名掲示板に君の持っているデュランダルの画像を載せたんだ。そうしたらちょっとした騒ぎになってしまって君がデュランダルを持っていることがバレてしまって……おまけに君がレアパトの所持者と言う事もバレてしまったみたいなんだ……本当にすまん!」
おいおい、なんて事をしでかしてくれたんだよ。
俺が必死に目立たない様にしてるのに台無しだろ!
なに足引っ張ってるんだよ!
このタコ!
こいつぶん殴ってやろうか?
「すまん、これで許してくれ」
そこにあるのは転移石。
比較的貴重なアイテムで一度行った事のある場所に何度でも飛べるアイテム。
これが有れば一瞬で移動できる。
俺が前々から欲しかったアイテムだ。
クエストをクリアすれば貰えるアイテムなので希少性はそれ程高い訳ではないアイテムだが、メインストーリークリア者つまりラスボスを倒したものにしか手に入れる事が出来ない貴重なアイテムだった。
しかも一人一つしか入手できないアイテムだ。
これくれるの?
マジで?
お前の無くなっちゃうけどいいの?
あとから返してくれとか無しだからな。
「これが有るとキミのこれからの冒険が捗ると思うんだ。謝って済む事じゃ無いけどこれで許して欲しい」
「分かった。これで水に流そう」
俺はうれしさの余り緩む顔を必死に抑え真顔になる様に耐えた。
俺は崩れる顔が見られる事の無いように足早に大樹広場を後にする。
そういえば雪の事もバレたって言ってたな。
新しいきぐるみでも買うか。
帰り際にペットショップで着ぐるみを買いマイルームに戻る。
今度のぬいぐるみはダチョウのぬいぐるみだ。
ちなみにこれを着せると騎乗可のペットとなりパトに乗れるようになるが、さすがに幼女に乗るはモラル的にどうかと思うので乗るつもりは無い。
家に戻って雪に新しい着ぐるみを渡すと喜んでくれた。
ダチョウの姿で部屋の中を走り回る雪。
身体はダチョウだけど顔だけ雪のままなのでとってもシュール。
「歩くのが物凄く速くなりましたー」
「そかそか」
「でも、手が羽根なのでちょっと不便ですねー」
「悪いんだが外に出る時はしばらくその着ぐるみを着て過ごしてくれ」
「じゃあ冒険に行きましょう! 冒険!」
「おう! 足も速くなった事だし、高原に羊でも狩りに行くか!」
「高原ですか。いいですね」
マイルームを出ると家の前がとんでもない事になってるとも知らず、俺たちは家を出た。




