トリガー
「ヘブンとミキさんは無事だったのか」
「無事というか、私もヘブンちゃんも一回死んじゃったけどね。そのあと監獄に送られたんだ。前科一犯の前科持ちよ。あははは!」
「取り調べのGMさんにこの洞窟で起こった雪ちゃんの誤判定の事を報告したらすぐに不具合と認めてくれて雪ちゃんを助ける様に対応してくれたんだ」
「それでGMが助けに来てくれたんだな。ありがとう」
「雪ちゃんの為だからね。気にしなくていいよ」
「ミキさん、ありがとうです」
ペコリと頭を下げる雪。
その仕草を見てあまりに可愛くて抱きしめたい衝動が抑えられなくミキさん。
目が泳がせまくって体をガタガタ震わせた挙句、我慢出来ずに抱きしめてしまった。
「いたたた! 痛いです! 苦しいです!」
ミキさんにすごい力で抱きしめられて痛さでジタバタする雪。
自分のしでかしてしまった事で素に戻り、慌てて抱くのを止めるミキさん。
「ごっ、ごめん! 可愛すぎてつい思いっきり抱きしめちゃった。苦しかったよね? 痛かったよね? ごめんね。もう抱かないから許して!」
「ちょっと今のは力が入ってて痛かったけど、嫌な感じじゃ無かったからそっとならもう一度抱いてもいいですよ」
「いいの?」
「はい」
「それじゃ! お言葉に甘えて」
再びヒシッとハグするミキさん。
今度は力を込めてないので雪も暴れない。
むしろうっとりしてる感じ。
ミキさんは雪が嫌がる前に抱きしめるのを止めた。
「なんかとっても暖ったかくて気持ちよかったです」
「私も!」
雪もミキさんも満足気だった。
「ミキさんがGMに連絡してくれたおかげで雪の不具合も対応してくれるみたいだし、とりあえず雪のロストの問題は解決かな?」
「じゃあ、レベル上げはもう終わりにするの? レベル上げを止めるならガイヤ君にお願いしたい事が有るんだけどいいかな?」
「いやレベル上げは止めないよ。不具合対応とレベル上げは別と思ってる。また他の不具合が見つかるかもしれないから雪のレベルはカンストの99迄上げておこうと思うんだ。たぶんトール装備が有れば雪と二人でレベル99迄上げるのは余裕だと思うしな」
「そっか。じゃあ弱い敵を倒す地道なレベル上げじゃ無くて、真の魔王トリガーを取りながらサクッとレベルを上げるのはどう?」
「真の魔王ってエクスカリバーをドロップする裏ボスの事か?」
「そうそう。真の魔王は今まで64人のアライアンスでの討伐報告しか無かったんだけど、トール装備のガイヤ君がいれば私たちでも余裕で倒せると思うんだ。私とガイヤ君とヘブンちゃんと雪ちゃんの4人で倒したら物凄く話題になると思わない?」
「真の裏ボスを4人で倒したら確かに話題になると思うんだけど、雪の事も有るし俺はあんまり目立ちたくないんだよな」
「そっか。ガイヤ君や雪ちゃんの事が有るんだね。私、ガイヤ君のデュランダル見てたらどうしてもエクスが欲しくなっちゃってね。悪いんだけどトリガーを取るのだけでも手伝って貰えないかな?」
「トリガー取りだけなら今回のGMの件も有るしお礼とお詫びで手伝ってもいいよ。ただ目立つ裏ボス討伐だけはさっき言った通り雪の事が有るので勘弁して欲しい。真の裏ボスって討伐する以前に冒険者ギルドで集めたトリガーを召喚用のオーブに交換するだけで挑戦者の名前がテロップが流れて大々的に宣伝されるから目立ちすぎるんだよな。手伝えなくてごめん」
「うん、わかった。じゃあトリガー取りのお手伝いだけお願いね。今日はもう遅いから私先に落ちるね。またね」
「おう! またな!」
ミキさんは洞窟でログアウトした。
「ミキさん、エクス欲しいんだな。まったりプレイ派と思ってたミキさんがエクス欲しがるなんて意外だな」
「なんかお兄ちゃんのデュランダルを見てたら欲しくなっちゃったみたいよ」
「でもエクスはディランダルと比べると攻撃力が弱いし、装備LVも高くてデュランダルが出た今となっては微妙な装備だろ?」
「そう言われるとその通りなんだけど、マッタリ派代表選手だったミキちゃんを装備欲に駆り立てるデュランダルはすごいよね」
「確かにな。ヘブンはエクス欲しくないのか?」
「私は要らないかな。ゲームだから装備を揃えて強くなった方が面白いとは思うんだけど、装備集めとかしだしたらもうゲームとか冒険じゃ無くて単なるコンプするまで装備を集める作業ゲーだからね。そうなるのが嫌だから私は集めたくないんだ」
「装備集めしてる奴はみんな必死だもんな」
「だよねっ。それに私、このゲームをそろそろ辞めると思うし」
「辞めるのかよ? こんなに楽しそうに毎日プレイしてるのに引退するのか?」
「引退というか一時休止ね。一応私たち学生だから勉強が一番じゃない? それに私は女だから男のお兄ちゃんと違ってよっぽどいい大学に行かないと就職しても一般事務のOLみたいな事やらされてやりたい仕事を出来ないと思うんだよね。推薦枠の無いうちの高校からだといい大学には行けそうも無いし、このままだとお母さんのブティックの店員にならないといけなさそうだし。だからまだ高校1年だけどそろそろ受験勉強始めたいんだ」
ヘブンはもっと高い偏差値の高校に行けたはずなのに兄妹で同じ高校に通いたいという子供の頃からの夢を叶える為に俺に合わせて2ランクも偏差値の落ちる俺と同じ高校に通って来た変わり者。
ヘブンなら今からまじめに勉強すればそれなりにいい大学に行けるはずだ。
ここは兄として応援しておくべきだな。
「たしかに女の場合は中途半端な偏差値の大学行っても大企業の一般事務以外の総合職や研究職で就職するのは難しいしみたいだしな。明らかな男女差別だとは思うんだけどそれが今の日本の現実だしな。頑張るに越したことは無い。そう言う俺もそろそろまじめに勉強しないとまともな大学に行けないだろうし、受験勉強を本格的に始めて頑張らないと。三流大学に行って就職先が何処も無くて親父の建築会社に行く事だけは避けたいわ」
「あはは。だよね。勉強頑張ろうね」
「おう!」
再び流されるメンテのテロップ。
メンテまではまだまだ時間が有ったけど既に遅い時間だったので俺達はマイホームへ戻るとメンテ開始時刻を待たずにログアウトする事にした。




