罰当たり
鈍い音がして重い攻撃が衝撃波として俺の腕に伝わる。
その重さに盾を落としそうになるが必死に耐えた。
不意に重さが嘘のように消える。
死神の攻撃を反射した!
俺の反射した攻撃が奴に襲い掛かり……。
ふああああっ!
攻撃反射なんてしてねぇ!
俺の盾が砕けた!
テクスチャもモデリングもぐちゃぐちゃだよ!
冗談だろ?
ありえねぇ!
なんでレア装備のトールの盾が砕ける?
トール装備は課金装備扱いでパーマネント属性付きだろ?
それがなんて砕ける?
壊れないはずだろ?
なんでなんだよ!
パーマネント属性の盾が砕けるなんて攻撃を反射するしない以前の話じゃないか!
この死神、反則過ぎるだろ!
一瞬でパッケ1本分の課金装備が消えちまった!
こんな攻撃を胴に喰らいでもしたらマジでヤバい!
だって壊れないはずの課金装備を破壊するような敵だぞ!
きっと俺の胴体ごと一刀両断されて終わりだ。
これは俺が倒せる敵じゃない!
俺の死ぬ気の奇襲攻撃を受けても体力半分残してピンピンしてやがるし!
どう考えても戦って勝ち目がない。
全くどうすればいいんだよ?
やはり逃げるしかないのか?
雪はもう逃がしたし、もう俺に戦う理由は一つもない。
何考えてたんだよ、俺。
逃げていいんだよ、逃げて。
俺はとっさに戦う事を諦め逃げる事にした。
だが戦わないで逃げられるんだろうか?
素早さのステータスのAGIのカンストした俺の足なら絶対に逃げきれるはずだ。
奴の足の倍は速い。
絶対に逃げ切ってみせる。
俺は全力で雪の逃げた洞窟の出口へと向かう。
俺は死神との距離を徐々に離す。
死神は鎌を振り遠隔攻撃を放って来た。
おれは蛇行走行してそれをかわす。
既に死神との距離は20メートルは離れてる。
このペースなら逃げ切れる。
と、思ったら……。
突如目の前に現れる死神。
空間移動かよ!
死神の鎌が俺に向けて振り下ろされる!
俺は足を止め既のとこで鎌をかわす。
鎌は俺が居たであろう場所を切り裂いていた。
やべー!
マジ死ぬとこだった!
空間移動なんてこのゲームに有ったのかよ!
死神が二撃目を放つ前に俺は走行を再開。
すると背筋が寒くなる嫌な予感が……。
俺はとっさに走行の向きを変える。
俺の走っていた筈の場所に再び鎌が!
今度は鎌を投げてきたのか?
いや違う!
死神が俺の真後ろに立っていた。
なんでだ?
すぐに理由が分かった。
死神の足が速くなり俺に追いついていた!
さっきまで遅かった死神の足がめちゃくちゃ速くなっている!
走行速度を上げたのかよ!
たぶんAGIステータスを俺と同じカンストまで上げたんだと思う。
走行速度の限界を上げるとか反則過ぎだろ!
運営キャラだからって何でもし放題かよ!
運営が大切にしていたリアルさとかどこに消えてしまったんだよ!
途中で走る速度を上げるとか絶対にやったらダメな事だろ!
そんな俺の心の叫びも知らずに死神は速度を上げた足で俺に迫り攻撃をして来た。
幸いな事に攻撃をすると足が一瞬止まる。
おまけに全力で鎌を振っているから地面に突き刺さり抜くのにわずかな隙が出来る。
それで俺に追いつけないようだ。
俺はそんな大ぶりの鎌攻撃の隙を見計らって攻撃を放つ!
ダメージは?
入った!
1割HPが減っている。
さっきの捨て身の攻撃のダメージを合わせて残り4割のHPだ!
つまりあと4発攻撃を当てれば倒せる計算だ!
チートスペックな死神の攻撃だけどその攻撃さえ喰らわなければ大した敵ではない。
いける!
俺の素早さならいける!
いけるはずだ!
俺はわざと隙を見せ死神の攻撃を誘いヒットアンドアウェイで死神の隙をつき続ける。
そして4回目の攻撃でついにノーライフキングを倒した。
ノーライフキングは氷が溶ける様に地の底に吸い込まれるように消えた。
生き残った実感を噛みしめる俺。
やったぜ!
やっと倒した!
やれば出来るじゃないか!
何とか生き残ったぞ!
そして視界左上で光るものが……。
称号アイコンだ。
そこにはこう書かれていた。
『罰当たり』
『シークレット:運営に歯向かった罰当たりなプレイヤーに与えられる恥ずかしい称号』
なんだよこりゃ?
笑える称号だな。
更に視界上部にテロップでシステムメッセージが流れる。
──ノーライフキングを初めて倒したプレイヤーが現れました!
──『罰当たり』の称号を初めて得たプレイヤーが現れました!
うは!
初回撃破報告かよ!
撃破報告はサービスインの頃はよく見かけたけど、久しぶりだな。
死神を倒したのは俺が初めてだったのかよ!
このゲームのトッププレイヤーでも倒せなかった死神を倒して、俺がこのゲームのトッププレイヤーになった瞬間であった。




