不審な集団
敵を瞬殺する狩りを続けていると雪が不思議がる。
どうやら洞窟の奥でレベル上げをしている業者を見て不思議がっている様だ。
「あそこでレベル上げをしている人たちがなんか変なんですけど?」
「どうした?」
「あそこにいる人たち、レベルが上がりきってるみたいなんですけど、まだレベル上げしてますね。おまけに全員パンツとシャツだけしか着てない変態さんの集団なのです」
「あ~、あれか。あれは業者だよ」
「業者……ですか?」
雪が業者という聞き慣れない言葉を聞いて不思議そうにしているとミキさんが教えた。
「業者っていうのはね、このゲームのお金をゲームの外の世界のお金で売る為に、プログラムを使って24時間延々雑魚を倒し続けて小銭を稼いでる人の事だよ」
「そんなの稼げないですよ。雑魚を倒してもほんの僅かなお金しか稼げません! 全然儲からないのです」
「LV20を超えたらお金になる素材を貰えないから全然稼げなくなるんじゃないの?」
ヘブンも同じことを言いだす。
それにミキさんが丁寧に教える。
「まあ、たしかに一戦じゃ小銭しかもらえ無くて稼げないね」
「でしょでしょ?」
「でもね24時間ずっと雑魚を倒し続ければ話は変わるんだ。一匹5ゴルダで15秒ぐらいで倒せるから、一分間に大体15ゴルダ位稼げる」
「15ゴルダじゃ稼いだうちに入らないよ」
「確かに少ないね。でもね、それが一時間だと900ゴルダ、24時間狩り続けるとなると21000ゴルダになるんだ」
「むむ?」
「さらに一ヶ月狩り続けると65万ゴルダになるからね。立派な大金だよ。それが6キャラだから390万ゴルダにもなる」
「むむむむ? なにそれ? 稼ぎすぎでしょ?」
「390万ゴルダになるんですか? すごい! ご主人様、雑魚を狩りまくりましょう!」
「そんなレベルも上がらないのに狩り続けるのは面白く無いから嫌だよ」
「でも390万ゴルダあったら美味しい物を食べまくれますよ?」
「食べれるかもしれないけど、そんな汚い事をして手に入れたお金で食べても美味しくないし」
「汚い事なんですか?」
「そりゃ運営が認めてないプログラムやツールを使ってるからね。立派な違反行為だよ。雪はやったらダメだぞ」
「そうなんですか……ご主人様がそうおっしゃるなら絶対にしません」
雪の力強い声に押され、ミキさんが力の籠った演説を始める。
「こういう汚い事を見つけたら、やる事は一つ! 『通報』よ! メニューから通報して5件の報告が溜まれば即運営に確保されて留置場に移送! そして運営が調査してあのBOT達は全員退治されるのよ! さあ、みんなも通報して!」
ミキさんからメニューの『不正キャラの発見報告』で通報してと頼まれたけど俺は通報をしなかった。
俺が通報しなかったせいか通報が5件に達しなくて業者は移送される事は無かった。
ミキさんは悔しがるが俺は無関係だ。
なんで俺が通報しなかったかというと通報するフォームに書くのも面倒ってのも有ったけど、こういう報告を頻繁にしてると『口うるさいユーザー』のブラックリストに放り込まれていざ肝心な時に運営に相手にされないって事が有るらしいからな。
そんなとこに入れられたら堪らん。
それに他人が何をしてようが勝手だ。
好きにすればいい。
ゴルダを買う奴は止めても絶対に買う。
悪い事をする奴は何をしてもやるんだろうから気にするだけ損だ。
やりたい奴は勝手にやって勝手にBANされればいい。
不正プレイヤーの摘発や処罰は運営に任せておけばいい。
俺はそんなスタンスでこのゲームをやって来て今後も変える気は無い。
だがこの俺の考えが後に雪の命に係わるとんでもないトラブルを引き起こすとはこの時の俺は気が付いていなかった。




