君は僕の、僕は君の
クリスマスということで衝動的に書きました。
少しでも読んでくださる人の心を動かせればいいなと思います。
「おっとっと、うわぁぁ」
僕は背の2倍くらいの木から落ちた。
「いってぇ」
落ちた先には真っ白な雪が積もっていて、ついた手がとても冷たい。
季節は冬、暦で言えば12月そして25日、俗に言うクリスマスってやつだ。
なぜ僕が木に登っていたかというと、目の前にいるとてもわがままな彼女に、言われたからである。
「はい、どうぞ」
僕は、服についた雪を払いながら立ち上がり、寒そうに白い息を漏らす彼女に、柚子の実を渡してあげる。
ケーキを買って返る途中、誰のものかわからない、人の家からせり出した木になっていたその実を見て、彼女は言ったのである『あれ取って』と。
「ねえあんたってどうしていっつも無茶ばっかりするの? 頭大丈夫?」
主張の強そうなきりっとつり上がった目、その口さえなければ道行く人々が振り返るスタイル。
――どうして僕がいつも無茶をするかって?
「あーいい香り」
彼女は柚子の香りを肺いっぱいに吸い込み、そして夜空に浮かぶ満月より輝く笑顔で笑う。
――それはね、君がそうやって笑うからだよ。
でもそれは君には言わない。
言ってしまったら、きっと君は笑わなくなる。
とんでもない天邪鬼だから。
だから君には言わない。
「何ニヤニヤしてるの気持ち悪い」
「いやちょっとね」
あの日、その口の悪さのせいで一人ぼっちだった彼女に声をかけた。
彼女はそんな僕に『どうして私何かに関わるの?』って拒絶した。
君は知らないだろうけど、見てしまったんだ、あの日こっそり笑う君の笑顔を。
その瞬間僕の人生が変わった気がした。
その笑顔だけで、僕の中の全てが変わったんだ。
だから僕は君がどんなに口が悪くても、どんなにわがままでも構わない。
真夜中に急に呼び出されようが、無茶なお願いをされようが、喜んで言うことを聞く。
だって君が笑うんだから。
でもやっぱりこのことは君には教えない。
君は素直じゃないからね。
「もう、なんでもいいけど早く帰ろう、寒くなってきた」
「そうだね」
白い息を吐きながら二人ならんで家へと返る。
僕は彼女に”笑顔”の秘密を言わない代わりに尋ねる。
「あのさ、もし僕がいなくなったらどうする?」
「……」
辺りには再び雪が降り始めた。
「別に私は戻るだけよ、あなたがいなかった元の生活に戻るだけ、特にどうもしないわ」
そう言いながらも彼女は僕の腕をギュッと抱きかかえた。
ほら素直じゃない。
「……むしろ一人でいるほうが好きだから、ありがたいくらい」
「そんなこと言ってたらもてないぞ」
しばらく、さく、さくと僕と彼女が雪を踏み、歩く音だけが夜の闇に響き渡る。
「いいの、私は小分けにされたたくさんの愛より、ひとつの大きな愛が欲しいから」
「へぇ、手に入れられるといいね」
僕がわざとそう言うと、彼女は僕の腕を離し走ってゆく。
そして僕の少し前で止まって、くるっと振り返る。
「ばっかじゃないの? べーっだ!」
そうやって少しずつ、君は僕の、僕は君の全てになってゆく。