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僕の探し物  作者: ネガティブ
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ホール 2

 僕はスッカリ落ち込んでいた。

 立ち止まらない、そう決めたけれど中学生の僕には、コドモの僕には、そこにある現実が容赦なくて受け入れられない。そこをしっかり受け止めて、さっさと進めば良いのだけれど。

 体が言うこときかない、いくら頭ではわかっていても。

 どうしてだろう、どうしてこんな現実が僕の前には広がっているのだろう。僕をいじめてそんなに楽しのだろうか、可哀想だとは思わないのだろうか。

 笑い声が聞こえる、さっきからもうずっと。何に対してそんなに可笑しいのだろうか、僕のこの状況をおかしがっているのだろうか。

 僕はその場に横になって、体をこれでもかと丸めて、そして両手で両耳を塞ぐ。

 こうしていても、何も自体は変わらない。それはもう充分わかっている。しかし今はこうしてこの落ち込んだ気持ちを押さえ込むしかない、押さえ込むより僕から放したほうが良いのだけどそうすれば僕は何に対して落ち込んでいるのかわからなくるからそれが怖い。 

 このおかしな世界、ここに慣れてしまってはいけない。慣れてしまったら、快適だと思えてきたら、それは危ないと思う。

 僕が何者なのか、イマイチはっきりとしないのに、いろんな謎を解いていないのに、それなのにここに居着くのはもう……。

 かといってどうすることもできやしない、僕はただの中学生でコドモで、今はただ落ち込んでいる。

「新井先生、ここにいたのですか」

 暫く妄想という名の大冒険に出かけていたい。

 妄想していたらどんな嫌なことも辛いことも悲しいことも忘れられるのではないか、そしてその妄想世界に心も体も入り込んだら落ち込まなくて済むのではないかという考えが頭の中をグルグルと回る。

 そうなると暫く帰ってこれなくなる。心も体も、僕という人間がそのまま妄想に入り込むのだから。

 ここでリタイアするの? 謎解かないと何もわからないよ! セーブしとくけどまた戻ってくるよな? 積むのだけはやめろ! そんな声は何処からも聞こえてはこない。

 もし聞こえてきたら、僕は階段を上って教室へと歩いって行ったのだろうけど。

 しかしそんな声は聞こえないから、僕は誰からも必要とされてはいないし僕を止めようとする人もいないわけで、すなわちもうここにいる意味も理由も無い。

 ここにきて自分がこうも弱いヤツなんだということがわかった、それだけでも収穫があったといえる。

 僕は自分は強い人間だと思っていた。

 何を根拠にそんなことが言えるのか、自分が強い人間だとハッキリわっかた出来事でもあったのか、そう聞かれるといいえと首を横に振るしかない。

 そう僕は自分で勝手にただ勘違いをして、自分は強いと思っていたのだ。

 強いというのは精神的に、肉体的に、色んなモノがあるけれど僕はそのどちらも弱くて、立ち向かうことができないから逃げてしまう卑怯な人間なんだ。

「ああ笹井先生ですか。何か用ですか?」

 僕は卑怯だ、逃げることしかできない卑怯者だ。

 時には逃げることも必要、そんな言葉をどこかで聞いたけど今はその通りだと強く頷ける。

 精神的にも、肉体的にも、どちらもボロボロでこのままでは最悪な事態になってしまう。そういう状況なら逃げるのも一つの手だと思う。

 僕はそこまでいってない、ボロボロな状況というのは体験したことがない。

 そうなったら人はどうなってしまうのだろう。ボロボロで何を考え、ボロボロで何を思い、ボロボロでどう自分を支えているのか。

 もうそうなったら支えていないのかもしれない、自分の体はただの肉の塊で、自分はもうそこにいないのかもしれない。

 そうなったら僕はどうする、どうやって戻ってこれる。

 妄想もそれと似ているだろう、しかしそれとは違う同じにしたくないと弱い僕は藻掻く。もがくことしかできない僕は、弱い人間だ。

 弱い人間は弱い人間の生き方をしなくちゃいけないのだろうか。

「この前のアレどうなりました? 大変だったみたいですね」

「いやいや全然そんなことはないですよ」

「でも生徒の悲鳴が凄かったみたいですね、あんな事があったらしょうがないですが」

「皆大丈夫だといいんですが」

「新井先生は大丈夫なのですか? ほらだって……」

「それは大丈夫です。まだ会えませんが」

「そうですか」

 塞いだ両耳から微かに誰かの話し声が聞こえる。これは妄想の中へと旅立ってはいけないという意味だろうか。

 それならこの話し声の主は僕を必要としている人なのか、そうだとしたら僕はいつの間にか閉じていた目を開けなければならない。

 僕は弱い、しかしちょっとのことですぐに強くなった気でいられる。それが僕の良いところなのだ。

 これは僕にとっては好機で、これを逃すわけにはいかない。今この状況で逃したら僕はここで誰にも気づかれずにずっと横になっているだろう。

 目を開けよう。

 明るい光が飛び込んできた。真っ暗な闇から輝く光へと引越ししたみたいだ。

 僕は体を起こした。座った状態で二人の声を捜す。

 先生の顔や名前はあまり覚えていない。何故覚えていないのだろう、考えてもわからないからどうしようもない。

「それより新井先生」

「なんですか?」

「あんな事したらトラウマにならないですか?」

「あーアレですか。そりゃなりますね、夢に出てきたと言う生徒が何人もいて困りました」

「では何故あんな事を?」

「それは授業だからです」

「まあそうなのですが、保護者から何か言われても仕方ないですよ」

「今その対応で困ってます。カエルの解剖はもうやらないほうがいいですかね」

「そう思います」

 二人は立ち話をしていた。

 黒髪でショートカットの新井先生と、いつもパソコンを持ち歩いている笹井先生だ。

 僕はこの二人を知っている。学年が違うから授業でお世話になった事がなくてあまり喋ったことはないけれど二人とも良い先生だ。

 新井先生はボーイッシュで、声が低いからおとこおんなと言われて男子生徒からからかわれている。服装はスカートをはいているところは見たことがなくて、いつもパンツスタイルだから他の女性教師からスカートはかないのといじられている。

 笹井先生はパソコン中毒のようで、時間があればパソコンの画面と睨めっこしている。何をしているのか気になって聞いたら、オークションに密林に何とかタウンにアバターを使った仮想空間のサービスをやったりと仕事しろと言いそうになった。そう言いながらもちゃんと何やらグラフを作っていたり、ワードで何かを書いていたりしていたので学校関係の何かをしているので仕事はしていた。

 僕は立ち上がって、苦笑いをした。

 どうやら二人はただお話をしているだけだったようだ。ちょっと期待していたけど、期待はずれだった。試しに呼んでみたら僕の声は聞こえていない様子だった。

「どうすれば良いでしょうか? 謝るのはおかしいと思うのです」

「授業としてあるわけですからね」

「もう考えるのが嫌になりました」

「世の中嫌なことばかりですよ笹井先生」

「新井先生は生徒に人気あるから嫌なことはないでしょう」

「人気というかいじられてるだけです」

「それは人気があるということです」

「はあ」

 二人は仲が良いのだろうか、そこは気になったけど僕は二人に背中を向けて階段を目指す。

 相変わらずワイワイガヤガヤうるさいホールだけど、僕はいつもここを駆け抜けていたんだ。美味しいパンとおにぎりを食べたくてお腹を空かせて。

 僕はまた皆と一緒に駆け抜けるためにまた前を進む。ちょっと休憩したけど今からまた前に進む。

 左足が踏み面にしっかりと乗って、右足を上げて階段を上る。

「そういえば三年生の○○君のこと何かわかりますか?」

「わかりますよ」


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