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僕の探し物  作者: ネガティブ
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歪んだもの

 それからも僕の机には定期的に封筒が入った。

 僕への好意を綴った手紙、僕が好きな本、プレゼント、誰からのものかわからないそれらのものはだんだん気持ち悪くなってきた。好きな本や観たい映画のチケットは嬉しかった、思わず読んでしまいそうになった時もある。しかし読んだ本は一冊としてなくて、それどころか1ページも捲ってはいない。チケットも使っていない、観たくてたまらないけれど封筒へと直した。

 封筒達は部屋に置いてある。どうすればいいのかわからず、捨てることもできないからそうしていた。

 ある日机にはまた封筒があった。

 相変わらず表と裏には何も書かれていない、封もやっぱり切られている。これはいつもの封筒だ。

 僕は封筒を触った。何か入っていたら感触でわかる。しかしこの日はそれといって感触はなく、手紙だけ入っているようだった。

 僕は封筒から手紙を取り出した。そして開けた。するとそこにはこう書いてあった。


 飛鳥君のことが好きなのにどうして気づいてくれないの? こんなにも尽くしているのにどうしてなの? 私の愛が足りないの? それならもっと好きというこの想いを届ける!


 疑問符ばかりのその手紙の最後に一つだけある感嘆符。僕の背筋に冷たいものが走った。

 手紙はもう一枚あった。その手紙を開いてみるとそこにはこの手紙の送り主の想いがびっしりと書いてあった。


 好き! 好き! 好き! 好き! 好き! 好き! 好き! 好き! 好き!


 その二文字で埋め尽くされた手紙。僕は思わず声を上げた。しかし声は休み時間のザワつきでかき消されて、誰も僕の声を聞いていない。

 気持ち悪い、物凄く気持ち悪い。そう思った原因はこういうことだったのだろうか。今まで手紙には僕への好意が綴られていた。しかしそれはラブレターなんだという解釈をしていた。しかしこの二文字で埋め尽くされた手紙を見て、そうじゃないのだと思えてきた。これはただのラブレターではない、この人の僕への好意はただ好きだというわけではないということを。

 僕は誰かを好きになったということがまだあまりない。興味が無いわけでは決してない。あの人可愛いな、魅力的だなと思うことはある。しかし近くに魅力的な人がいるからなのかイマイチ心が動いてくれない。どうしても比べてしまう、そうしてしまったら全てが劣って見えてしまう。そうなったらあまり恋愛対象として見られない。

 でもいつかはちゃんと見ないといけない。いつまでも僕の近くにいる魅力的な人のほうへと向いていては駄目だ。家族なのだから、姉弟なのだから。しかし今はまだ姉の方へと向いていたい。僕がもう少し大人に近づいたら、姉から離れようとは思う。

 僕は二文字で埋め尽くされた手紙に怖くなって友達に相談した。すると友達は真剣に話を聞いてくれて、僕は少しホッとした。なんか異常だよね、気持ち悪いね、ストーカーみたいだね、友達はそう言って何か解決策があるか考えてくれた。すると友達の一人が、担任に相談したらどうかなと一緒に職員室に着いて来てくれた。

 担任に相談することにした僕は、担任と僕の二人だけで部屋で話すこととなった。友達は部屋の外の廊下で待っていてくれている。

 どうしたのですか相談したいということですが、少し前から封筒が僕の机に入っているんです、封筒ですか、はい真っ白で何も書かれていなくて誰が書いたものかわからなくて、その封筒には何が入っていたのですか。封筒には手紙が入っていました、手紙ですか、はい中を見たら僕のことが好きという内容でした、それはラブレターですね今時珍しいですね、初めはそう思っていて嬉しいなと思ったんです、そのあと何かあったのですか、はい僕が観たい映画のチケットだったり僕が好きな本だったりが入っていて。

 それはラブレターではないですね、そうなんです、そのチケットや本はどうしたのですか、全部部屋に置いていてチケットも本も使っていないです、その事は保護者に言っていますか、いいえ友達に言っただけです。まずこの事をすぐにお父さんやお母さんに言ってください、はい今日帰ったら言います、そうしたら私が取りに行きます、えっ取りに来てどうするんですか、学校で預かることにします、預かってもらうのは嬉しいですがそんな事をしてもまた封筒が入っていますよ、そうならないようにこうするのはどうですか――――。

 それから数日後。机にはまた封筒が入っていて、僕はその中にある手紙を見ないで鞄へと入れた。

 この前担任に言われた事を今日実行するのだ。

 僕は鞄から封筒を取り出した。さっきの封筒ではない別の封筒だ。その封筒を机の上に置いて、僕は友達と一緒に教室を出て昼休みを楽しみに行った。

 机の上に置いた封筒の中には手紙がある。その手紙は僕が書いたもので、そこにはこう書いた。


 気持ちは嬉しいけど誰かわからないから答えることができません。貰った手紙や本、映画のチケットやプレゼントは担任に預けました。


 その手紙を見た人はもう僕の机に封筒を置かないだろう。あんなにも気持ちを伝えていたのに、尽くしていたつもりだったのに、心は全く動いていなくてむしろ迷惑だと思っている。そう思ってくれたらこの異常な出来事は終わる。

 好きだと言われたらそりゃ嬉しい、でも名前を名乗らずに隠れてこんな事をされたら不気味だ。本当に好きという気持ちがあるのなら直接言ってほしい。そうしたら本当の恋愛へと進んだかもしれない。こんな怖くて奇妙で不気味にはならなかったかもしれない。

「昼休みが終わって教室に戻ってきたら、僕の机には封筒がなかった」

「……」

 明日香は僕と目を合わせようとしない。

「明日香があの封筒を持っていったんだよね?」

 その証拠は今思えばある。昼休みが終わって教室に戻ってきたら、僕の机には封筒がなかった。これを誰かが読んで、そして封筒を置くことをやめてくれたらいいなと思いながら何となくまわりを見た。すると明日香が下を向いている。この時はどうしたのかなと思ったけど、明日香は泣いていたのだろう。

 その日の掃除の時間、ゴミ箱に何かをぐちゃぐちゃに破った紙がいっぱいあるのを見た。それはただのゴミかもしれない、ゴミ箱はゴミを入れる箱なのだから。もしこれが僕が書いた手紙だとしたら、明日香は僕に対してどう思ったのか。

「違うよ、わ私は何もやっていない、そんな封筒知らないから」

 チカチカと電気が点いたり消えたりする。そして明日香の横で輝く光が教室を包んだ。

 目の前に現れたのはあの日。僕は友達と一緒に教室を出て行った。僕の机には封筒が置いてある。

 金髪は頭を掻きながら教室を出て行った。明日香は友達数人と喋っていて封筒には目を送っていない。ザワついた教室、笑い声や大声が響く。

 明日香は友達と一緒に教室を出ていく。僕の机には封筒がある。教室にいるクラスメイトは誰一人として封筒に注目していない。

 少し時計の針が進んだ時、明日香が戻ってきた。

 友達と一緒ではなく一人だ。辺りをキョロキョロ見回して、僕の机に近づく。

 そして机に置かれた封筒を見て、一瞬目が大きくなってびっくりした。

 自分の席へと歩いて、座ってから封筒の中にある手紙を確認した。そこに書かれている事を読み切るのにはそんなに時間はかからない。

 明日香は座ったかと思ったら、その手紙を持ってゆっくり歩いた。

 立ち止まったのはゴミ箱の前。手紙を握った手に力が入っている、そして震えている。

 ゴミ箱の真上に手紙をもってきて、そして破った。ぐちゃぐちゃに、小さく細かく、目を赤くしながら破っている。

 破り終えると教室を出て、誰もいない部屋へと鍵を使って入った。

 鍵を閉めて、そして一人で泣いている。好きなのに、飛鳥君が好きなのに、どうして、どうして好きだとわかってくれないの。泣き声と僕への想いが聞こえてくる。

 こんなにも好きなのに、誰よりも好きなのに、この学校で一番この国で一番世界で一番好きなのに、飛鳥君の心を私でいっぱいにしたいのに、飛鳥君を私の物にしたいのに! 飛鳥君を手に入れたい、私に従わせたい、飛鳥君を支配したい!

 僕への好意は歪んだものだった。ただ人を好きになるという純粋なものじゃない。


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