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僕の探し物  作者: ネガティブ
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命を奪った

 命を奪った。僕が明日香の命を?

 そんなわけない、僕がそんな事をするわけがない。誰かに暴力をふるうだとか怪我を負わせるだとか、そんな迷惑をかけることはした事がない。だから僕が誰かの命を奪うなんてことは考えられない。僕はそんな事をする人間じゃない、誰かの命を奪ったら残されたれた家族が悲しむ。息子はこんな事はしないと父なら言うだろう、あの子は命を奪ったりなんてしないと母は言うだろう、弟はそんな事ができる人間じゃないですと姉は言うだろう、祖父と祖母も僕のことはわかっているだろう。

 しかし心の奥にある闇はわからなかっのではないですか、家族ならいくらでも守れますよね、被害者のことを考えてから発言してください、娘を亡くされてお母さんは毎日泣いているみたいですよそれをどう思うのですか。カメラを家族に向けてマスコミが押し寄せて来たらどうなるのか。

 息子さんはまだ嘘をついているみたいですがそれについてどう思いますか、何をきいても何も言わないみたいですよ、あなた達家族にも色々噂があるの知っていますか、ほらコレとかばっちり写っているでしょうこんな事している場合なんですかね。ある事ないこと言いたい放題騒ぐ。

 それらはニュースで見る光景だ。話題になったあの人があんな事をしでかして、大物司会者が涙ぐみながら頭を下げて、危ない薬に手を出してしまって元アイドルが捕まって出てきたところを。色んな憶測が飛び交う、嘘も誠も混ざり合って飛び交う。

「どうしたの? 何か思い出したの? 余裕がなさそうだけど」

 明日香の声が聞こえた。僕は俯いているからその顔を見ることはできない。

 僕は動揺しているのだろうか。そんな事やってはいないのに、胸のあたりが激しく動いていて痛いのは何故なんだ。余裕はある、僕はやっていないのだから。だから顔を上げたら良いんだ。簡単なことじゃないか、全然難しくはない。

 僕の記憶には明日香の命を奪ったなんてことは無い。どこを探しても見つからない、当たり前だそんな事実は無いのだから。全ては明日香が僕を惑わすためにやっているのだから。そうだ、そうに違いない。動揺なんてしなくてもいい、何も怖がらなくていい、僕には何も非はないのだから。

「僕はそんなことはやっていない」

 顔を上げて、明日香の目をしっかりと見て言った。

「そう言うんだよね犯人って」

 こっちを見てそんな事を言ってくる。

「僕は何もやっていない、早く犯人が捕まったらいいですね、この街を恐怖に陥れた犯人を許せない」

 それもニュース観たことがある。普通の住民を装い取材に応じる、自分がやった事を隠して普通に生活している、そして証拠が見つかって連れて行かれる。

「潔く認めなよ。僕が犯人ですって」

 何を認めるというんだ、やっていないことに対して認めろとでも言うのか。バカバカしい、僕は明日香の命を奪ってはいない。

 誰かを殴ったらその感触が手に残ると聞いたことがある。もし僕が命を奪ったのだとしたら、その感触がこの手に残っているはずだ。手を見てみる、とくにおかしいところはなくていつも通りだ。命を奪うのはただ殴るのとは違うだろう。命を奪ったらその人の人生を止めてしまうことになる、未来を消してしまうことになる、今この瞬間に呼吸を止めることになる。

「僕はやっていない」

 僕は認めない、やってもいない事を認めたら濡れ衣を着ることになる。

「頑なに認めないみたいね」

「やっていないからね」

「それはきっと忘れてるだけだと思うけど」

「僕はもう自分のことを思い出した」

「全部じゃないでしょ? まだ思い出せていない事があるんじゃないの」

 その通りだ、僕にはまだ思い出せていない事がある。それは僕の名前だ。父と母が付けてくれた、僕の大切な名前。僕はまだその大切な名前をわからないでいる。

「それと同じで、私の命を奪った事も忘れているんだよ」

「君が僕の記憶を持っているんじゃないの?」

 さっき見えたあの光は僕の記憶だろうか。そうだとしたら覚えていないのも無理はない。

「私はこんなにも傷ついているのにそれをわかってくれないみたいね」

 明日香が目を潤ませながらそう言った。

「これを見せる前に認めてほしかった」

 チカチカ、また電気が点いたり消えたりした。暗くなっている時に見えたのは光で、その光は明日香の手の中にあった。手が光輝いている。

 明日香はその手を悲しそうな表情で見つめていた。

 するとその光り輝く手を僕のほうへと向けた。掌を広げて、こっちへと光を照らすように。

 光は僕の方へと向かってきた。眩しくて目を開けてられない。僕は目を閉じた。すると光は遮断された。

 目を閉じて何も見えない世界になった。

 しかしここがドコなのかわかる。ここは教室だ、僕の教室だ。自分がいる場所がドコなのかわからなくなることはない。

 目を閉じて何も見えない世界で声が聞こえてきた。

 声は右から聞こえてきた。

 この手紙はなんだろう、これはひょっとしてラブレターなんじゃないの、うわ凄い初めて見た。

 左からも声が聞こえてきた。

 そういえばアイツどこに行ったんだ、さあ知らない昼休みになったら急いで教室から出て行ったよ、購買部に急いだのかトイレに急いだのかどっちかだな。

 右から聞こえてきた声は女子の声で、左から聞こえてきたのは友達の声だ。

 右と左は何の話をしているんだ。

 また右から声が聞こえてきた。

 私こんなの初めてだから緊張するよ、私達には応援しかできないけど頑張ってきてね、で誰からのラブレターなの。

 また左からも声が聞こえてきた。

 最近様子おかしかったよなアイツ、そうそう落ち着きなかったよな、あっちのほうに視線向けてなかった、あっちって事はアイツひょっとして。

 僕は恐る恐る目を開けた。

 少しずつ見えてくる世界、黒板に机に椅子に壁に貼られたお知らせの紙。

 ここは僕の教室。

 黒板の隅には日直の名前と日付が書いてあった。

 日付は最近のものだった。この日は教室に蜂が入ってきたから女子の悲鳴や虫嫌いの男子生徒の悲鳴で大パニックになったのを覚えている。

 ここはそんなに昔じゃない過去だ。

 この日はそれ以外にとくに変わったことなんてなかったはずだ。

 それなのにこの日に来たということは、僕が知らない出来事があったからだろうか。

 それは消された記憶なのか。もしかして僕がただ忘れていただけの記憶なのか。

 教室には僕の姿はなかった。休んでいるということはないだろう、机の横に付いている鞄掛けにはちゃんと僕の鞄が掛かってある。

 じゃあ僕は何処にいるんだ。僕の姿をこの目で見なくては。

 さっき右から聞こえてきた声がそこから聞こえてくる。女子生徒が数人で話している。

 僕はラブレターが気になって、机の上に置いてあるそれを覗き込んだ。

 それは手書きだった。そこに書いてある文字は見たことがあった。

 僕は教室から飛び出した。ラブレターに書いてあった場所へと急ぐ。

 その文字には癖があった。右上がりの文字であったり、止めだったりはらいだったり。

 嘘だろうこんな事。忘れてしまいたくて、消したくて、僕はこの記憶を葬りたかったのだろうか。

 場所は屋上。その文字は僕の字。

 教室に僕の姿はなかった。そしてあの席にも誰も座っていなかった。

 廊下を走る、階段を上る。ドアは開かなくてもいい、すり抜けるから。

 すり抜けた先には、眩しい太陽と大きな雲と綺麗な青が広がっていた。

 屋上には僕がいた。そして明日香もいた。

 しかし二人とも何故かフェンスの向こうにいた。そんな場所にいたら危ない、落ちたらどうするんだ、早くこっちに来るんだ。

 そう思っていたら落ちた。

 明日香はそこにはいない。フェンスの向こうにいる僕はそこで手をじっと見て、そして下を見た。

 僕は走った。フェンスをすり抜けて僕を見た。

 過去の僕は震えていた。今にも泣き出しそうな表情だった。

 僕は下を見た。そこには明日香がいた。

 明日香は屋上から落ちた。

 過去の僕は手を押さえて震えていた。そして両目から涙を流していた。

 明日香の命を奪ったのは僕だったんだ。

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