真っ白な世界
さっき見た二つの映像。そこにはあった、勘違いかもしれないけど重要なモノが。
もしその勘違いが次もあったら、それは無視できない事となる。偶然だとしてもそんなに何回も続かない。偶然が何回も続いたらそれは偶然ではない。
「もし次もその勘違いがあったら言うよ」
「うん」
「じゃあちょっと退いてくれるかな」
「あ、ここにあるんだ」
金髪は少し横に動いた。するとそこにある光がちゃんと見えた。空間で輝いている。
「じゃあ行ってらっしゃい」
金髪は光へと手を向けた。今度はちゃんと光に手が向いている。
「行ってきます」
僕は光を見た。光は眩しくてあたたかくて懐かしい感じがした。教室中に記憶や思い出が光となって散らばっている、それらを見て僕の中へと戻さなくてはいけない。
光の中ではまた映像が流れていた。その中にはまた僕がいた。色んな表情をしている僕が映し出されている。笑ったり悩んだり、落ち込んだり迷ったり。パラパラ漫画のように次々と僕の顔が流れていく。
僕は光に吸い寄せられるかのように映像の中へと入っていった。
そこは真っ白な世界だった。右を向いても左を向いても、どこを見ても白で埋め尽くされている。
方角がわからなくなる。見上げてもそには太陽がない、コンパスも持っていない。歩いたらどこを歩いているのかわからなくなる。
いやもう自分がどこにいるのかがわからない。ここはドコなんだ、僕の記憶や思い出のはずだけど何もない。何も見えてこない。
何もないとはどういうことだ。さっき僕が見えたじゃないか、色んな表情をしている僕が見えたじゃないか。だから何もないわけがない、きっとどこかにある。
僕は歩くことにした。
足音はする、この音は僕が歩いている音だ。しかし進んでいるのかはわからない。全部が真っ白だから進んでいるのかわからない。
歩きながら考える。ここは今日何回か見た夢に似ていると。
夢は海の中で、僕は下へ下へと沈んでいるという内容だ。そこで僕は色々考えを巡らして、そうしているうちに目が覚める。
海の底へと沈んでいるのだから、太陽の光からはどんどん遠ざかるということになる。海の底は真っ暗で光は届かない。どこを見ても黒くて、自分がどこにいるのわからなくなる。
黒は闇へと姿を変えて僕に襲いかかってくる。僕を闇の一部にしようと、僕を闇に染めようと。
ここもそれと似ている。
どこを見ても白い、夢ではどこを見ても黒い。白と黒の世界、白と黒で染められた世界。
正反対に見える世界は似ている。
僕は足を止めた。このままただ歩いていたら自分を見失いそうだ。あてもなく彷徨っていたら真っ白なこの世界に遭難しそうだ。そうなったら誰が助けてくれるんだ。ここには僕一人だけだ、助けてくれる人なんて誰もいない。
もしそうなった時は、この真っ白な世界の外で僕の帰りを待っているであろう金髪に助けてもらいたい。
僕は真っ白で何もない空を見上げた。果たしてそこが空なのか、それさえわからないけどとにかく上を見た。
そこは微かに光っていた。目を細めてやっと確認できた。
僕はその光に向けて右手を伸ばす。光は空高くにあるから手が届くはずがない。体が大きくなったり、手が伸びない限り届かない。
それでも右手を伸ばす。掌をこれでもかと広げて、光を掴もうとする。
右手を伸ばしながら光を見る。すると光が近くなったような気がした。目を細めなくても確認できるぐらいだ。
僕の思いがどこかに通じたのだろうか。
それならラッキーだとつま先立ちになって右手を伸ばした。光をこの手に掴みたい、光をこの手に包みたい、光が僕を導いてほしい。
すると光に手が届いた。空の高いところにあったはずの光は、今僕の手が掴んでいる。手の中にある光は熱かった。それでも手をはなしちゃいけない、ゆっくりと右手を下ろす。
光が僕の右手から漏れている。指の間から光が漏れている。
僕は目の前に右手をもってきた。
そしてゆっくりと右手を広げる。光が僕の掌の上に乗っていた。光は眩しくてあたたかくて懐かしい感じがした。
光は輝きを増して、僕の右手を光で包んだ。
少しずつ膨張していく光。眩しくて目を開けてられない、目を閉じても明るい。
光は僕を包むと全方向に光の線を放った。
白だけの世界に光が照らされて、光が通った場所から何か浮かび上がってきた。
そこにあったのは僕の色んな表情だ。さっき見たのはこれだったのか。
僕の色んな表情がそこらじゅうで浮かび上がっている。
その全てが僕の記憶であり、僕の思い出。大切な、とても大事な。
映像が一斉に流れだした。さっきのように一つ一つ観ている時間はなさそうだ。これは遠足だ、あれは運動会だ、そっちは文化祭だ、あっちは水泳大会だ。僕の記憶が次々と戻ってくる、僕の思い出が次々と蘇る。忘れていたものが無事に元の場所にかえってきた。
こっちにくる。こっちに流れてくる。
記憶や思い出が流れてくる、まるで川のように、流れるプールのように。文字通り流れてくる。
僕は苦しくなった。流れてきた記憶で溺れているのだろうか、流れてきた思い出が息をさせてくれないのだろうか。
手足をバタバタさせる、呼吸がしたくてじたばたする。
しかし酸素は入ってこなくて入ってくるのは記憶と思い出ばかり。確かに取り戻しかったけれど、こんなに一気に戻ってきてそれがこんなにも苦しいことだとは思わなかった。
もうダメだと思った瞬間、流れがおさまって呼吸ができた。
ぜえぜえと息をする。僕の記憶は全部戻ってきたのだろうか、それがわからないからまわりを見たい。
しかし息をするのに精一杯だ。落ち着いてからにしよう。
僕の探し物は全部見つかったのだろうか。記憶や真実、それらは全部もとあった場所に戻ってきたのだろうか。
少し時間が経って落ち着いた。
もう忘れたくない、こんなに苦しい思いをするのなら記憶や思い出は絶対に忘れない。
まわりを見た。
すると真っ白な世界はどこにいったのか消えてなくなっていた。真っ白な世界はなくなったけど、学校がそこにはあった。
学校から次々生徒が出てくる。生徒の足元は影が伸びていた。どうやら放課後のようだ。
楽しそうな話し声が聞こえてきて、そこには僕の声があった。僕は部活帰りのようで、同じ部活の友達と何か話しながら歩いている。
僕のまわりには同じように部活帰りの生徒が多い。知っている顔が沢山ある。
その中に明日香がいた。
明日香は前のほうを見ている。前には僕がいた。僕は明日香に気づいていない。
ピカっと光ると教室が映し出された。
教室で皆何かを作っている。ハサミで紙やダンボールを切ったり、色鉛筆やマジックで色をつけたり、黒板に書かれた文字を前に腕を組んで考えていたり。
いったい皆何をしているんだろう。そう思ったら黒板の隅に文化祭まであと何日と書いてあった。
思い出した、二年の時文化祭の準備は大変だった。風邪が流行っていて休んでいる人が多くて、一人の作業量が多くて目が回りそうだった。この時何かあったかな、全く思い出せない。
教室には僕の姿が見当たらない。
風邪で休んではないと思う、何か用事で教室からはなれているのだろう。何せ一人の作業量が多いから。
その時失礼しますとドアが開いた。そこにいたのは明日香だった。明日香は二年の時も別のクラスだった。そんな明日香が何故このクラスに。
ドアの近くにいた女子と何か喋っている。二人は仲良しそうで笑っていた。そして明日香は手に持っていた袋を教室へと入ってきて、机の上に置いた。
その机は僕の席だった。そうかこの袋は明日香が置いたのか、忙しくて誰が置いたのか聞くのを忘れていた。この袋にはお菓子やジュースが入っていた。
明日香はキョロキョロと辺りを警戒した。皆自分の作業で真剣だ、明日香のことを気にしている人はいないだろう。
すると明日香は僕の鞄に手を伸ばした。外ポケットからハンカチを取り出して、それをスッとポケットに入れた。そして何事もなかったかのように教室から出て行った。
ピカっと光ると水泳大会が映し出された。僕は学年対抗リレーで学年代表の一人として頑張っている。明日香は大会には参加していなくて体操服を着て見学していた。皆リレーを応援して夢中のなか、明日香は誰にも気づかれずにこの場所を離れてどこかへ向かった。向かった先は僕のクラスだ。鍵を開けて教室へと入った。そして僕の席に来て、とびきりの笑顔をした。
ピカっと光ると写真がいっぱいあった。これは修学旅行の時の写真だ。写真には番号がついていて、ほしい写真があればその番号を書くのだ。そこに明日香がいた。明日香は写真を見て違う、これも違うと呟いていた。これはいい、これもいい、と呟くと番号を書いた。明日香が良いと言った写真には僕が写っていた。
「やっぱり勘違いじゃなかった」
「あ、お帰り」




