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僕の探し物  作者: ネガティブ
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 光の中の僕は緊張している顔をしている。

 制服を着て、姿勢良く立っている。僕の左にはフォーマルな格好をした母が。母は笑顔で嬉しそうだ。

 右には父がいた。父もフォーマルな格好で、素敵な笑顔でこっちを見ている。

 父と母は何故笑っているんだ、僕は何故緊張しているんだ。

 姉もいた。優しい笑顔で僕の頭を後ろから撫でている。

 祖父と祖母もいた。二人とも素敵な笑顔だ。

 皆が笑顔なのはどうしてだろう、僕だけが緊張しているのは何でだろう。

 家族が映る。光の中に映る僕の家族はとても幸せそうに見える。実際に我が家はとても幸せだ、幸せに包まれていると言ってもいいぐらいだ。

 僕の家族の回りが光り輝いて、背景や人や物が映し出された。

 そこには桜があった。春になると学校を囲むように咲き誇る桜はとても綺麗で、わざわざ桜の名所に行かなくてもここで満足できそうなぐらいだ。

 そうか、この映像は。

「ねえ何を見てるの?」

「光を見ている」

「ひかりって何」

「ここにほら、花のまわりに光が幾つもあるよ」

「えっどこに? 俺には見えない」

 小首を傾げた金髪には本当に光は見えないようだ。

「そうか君には見えないのか」

「その光はどんな感じ?」

 その問いかけで僕は光をじっくり見る。光は眩しくてあたたかくて懐かしいような感じがして、そして僕の映像が流れている。そこにいる僕は今より幼い顔をしている。

「眩しくて優しくてあたたかくて懐かしい」

「なるほどね」

「何かわかったの?」

「俺も見たよその光」

「それなら話が早い」

「その光は記憶だよ。忘れていた思い出や隠されたモノが光となって輝いているんだ」

「記憶」

 僕は光を見た。眩しくてあたたかくて懐かしいような感じがする。僕の記憶だからあたたかいのか、僕の思い出だから懐かしいのか、眩しいのは光っているからだろうか。

 記憶がここに散らばっている。この一つ一つが大切な僕の記憶、大事な僕の思い出。全部掴みとらなくちゃ、全部僕へと戻さなくちゃ、ひとつも残してはいけない。僕が探していた物はこれだ。

「取り戻しなよ」

「そうだね」

「終わったら声かけてね」

「ありがとう」

 僕は金髪の気遣いに感謝して、再び光へと向き合った。光をじっと見る、その光の中には映像が流れていた。そこには僕が映っていた、僕だけじゃなくて父も母も、姉も祖父も祖母も。桜が咲いている、桃色に染まった木が僕を出迎えているような感じがする。

 光に引き寄せられる、光はいっそう輝いて僕を光の中へと連れて行く。

 僕だけが緊張していて僕以外が笑顔なのは、この日が中学の入学式だからだ。僕はこの日をとても楽しみにしていたけど、それと同時にとても緊張していた。小学校からの友達と何人ぐらい同じクラスになるかな、知らないクラスメイトとは仲良くなれるだろうか、中学は先輩の言う事が絶対で逆らったらいじめられるのは本当だろうか、先輩からじゃなくて同級生にいじめられたら教室に居づらくなりそうだ。考えれば考えるほど悪いことばかり考えてしまった。

 僕が通う中学は隣町の子も通う。だから知らない子もいるというわけだ。小学校からの友達はもう顔見知りだし仲良しだし仲間意識がある、しかし隣町の子にはそれが全くないわけだから一から始めていかなくてはならない。どんな性格なのかどんな習い事をしているのか、何の教科が好きなのか苦手な食べ物は何なのかとか、それらが全く知らないわけだから覚えていかなくちゃいけない。

 覚えるのが嫌だとかそういうのじゃない。何も知らないから怖いのだ、警戒してしまうのだ。

 同じ年齢、同じ学年、同じクラス、自分とは同じことが沢山あるからそんなに怖がらなくてもいいような気がする。それでも隣町同士、何か意識するところがあるのだろう。

 隣町には何回も行ってるけど特に変わった所なんてない。こっちに有って向こうに無いものもそんなにない。こっちには映画館があるけどあっちにはない、あっちにはスウェーデン発祥の世界最大の家具販売店はあるけどこっちにはない。それぐらいだろうか有るものと無いものは。

 それでも何故か意識してしまう。同じ町同士集まるだとか、同じ町同士でグループを作るだとか。お前同じ小学校だからこっちこいよ、あなたは隣町の小学校でしょ? それじゃあグループには入れないわ、隣町のやつらなんかムカつかないか調子乗ってるというかさ、君はどこ小だったの私はあっちだったけど。そんな言葉が飛び交っていた。

 こういうのが派閥というのだろうか。よくわからないけれど、皆仲良くしたら怖くなんかない、そうしたらいじめも起こらない。違いなんてそんなにない意識なんてしなくていい。

 映像には他の新入生の姿もあった。ああコレあいつだ、こっちはあの人、あっちにはのちにに三人の男子に告白されて三人ともお断りする女子がいる。皆今より可愛い気がした、幼いというか緊張した顔をしているからだろうか。

 金の髪の毛が僕の家族の横を通っていった。この髪の色は間違いなく金髪だ、この時はそんなに悪さをするように思えない顔をしている。新入生だから遠慮しているのだろうか、それとも緊張しているのだろうか。先輩らしき人に頭を下げている。ペコペコと、何回も頭を下げている。今はこんなことやっていない、それは三年生だからやる必要がないからだろうか。金髪の先輩の髪の色もカラフルだ、赤だったり黄色だったり。校則に髪の色のことに対して書かれていたけど思いっきり破っているのは不良だからだろう。

 僕の家族が写真を撮り終わると、次にその場所で写真を撮り始めたのは明日香だった。新入生の時の明日香も可愛い、今とあまり変わらない感じがする。大人っぽいのだろうか、僕と比べたらとても同い年には見えない。

 明日香は家族と写真を撮っている。親は笑っているけど明日香は笑っていない、表情が無い。僕と同じように緊張しているのか不安でしょうがないのか。

 写真が撮り終わった明日香は、キョロキョロと何かを探していた。落ち着きなさいと親に言われてもやめようとしない。何を探しているのだろうか、大事な何かを落としたのだろうか。

 すると突然動きが止まった。ある一点をじっと見ている。そして笑った、さっきは表情が無かったけど。

 そこで映像は光でいっぱいになった。光はとても眩しくて僕は目を閉じた。

 次に目を開けたときにはそこにあった光は消えてなくなっていた。今見た光は僕へと無事に戻ってきたのだろう。それは記憶を取り戻したということ、思い出が蘇ったということだ。

「何だか胸のあたりがあたたかい」

「俺もそうなったよ」

「記憶とか思い出ってあたたかいモノなんだね」

「あたたかい記憶や思い出ばかりじゃないけどね」

「嫌な記憶、思い出したくないことも戻ってくるのか」

「そりゃそうだよ、それも忘れていたモノの一つなんだから」

「そっか」

「まあそんなに嫌なモノなら無理しなくていいとは思うけど」

「君にはそういうのあったの?」

「あったよ」

「どうしたの?」

「マジで嫌なモノは置いていったよ」

「ここに置いていったの?」

「そうだね」

「もうその置いていった記憶は取り戻せないよ」

「いいんだよマジで嫌なんだから」

「そっか」

「俺は置いていった記憶があるけど、お前はどうするの?」

「……それはしたくない」

「それならどんな事があっても受け入れなきゃいけないよ」

「受け入れるさ、全部僕に戻してやる」

「無理しなくてもいいのに」

「してない」

「それなら次のどうぞ」

 そう言って金髪は手を向けた。しかしそこには何もなくてただの空間だ。金髪は僕の記憶の光に手を向けたかったのだろう。

「ありがとう」

 僕はお礼を言った。金髪の手の先には何もないけど、その気持ちは嬉しいのだから。


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