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僕の探し物  作者: ネガティブ
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後輩ができた日

 影がないということは、つまりそういうことなのだろう。

 明日香も僕と金髪と同じようにこの世界を彷徨っているのだ。この世界に何かを置いてきたのか、何かを探しているのか、その現実を受け入れられないのか。いずれにせよ明日香も遠い所にいるのだ。

 何故明日香がそんな事に?

 僕は明日香に憎まれて、恨まれて、そしてこの世界を彷徨っている。それはきっと明日香が僕を……信じたくはないけれどもうそれしか考えられない。

 しかし明日香はどうしてこの世界にいるんだろう。僕をこの世界へと追いやって満足したはずだ、嬉しかったはずだ、邪魔者がいなくなったわけなのだから。それで満足したんじゃないのか、心がスッキリしたんじゃないのか。

 それなのにどうして明日香もここにいるんだ。

「明日香も僕達と同じなんだ」

「ん?」

「明日香も彷徨っている」

「え、それマジ? 何で明日香が」

「それはわからない」

「本人を捜して聞き出すしかないね」

「時間もないし」

「そうみたいだね。もう暗くなってきた」

 僕と金髪がいるホールは暗くなり電気がついた。その明かりはあたたかくて僕には希望に見えた。闇の中に光があると何だか安心する、そこに向かって進みたくなる、そういう感じだ。

 部活を終えた生徒が三人ホールを横切る。皆いい顔している。満足がいく練習、もしくは作品ができたのだろうか。体操服を着ていないからこの三人は皆文化部だろう。それに何か手に持っている。あれは楽器だろうか、あれはパレットだろうか、あれは何かの資料だろうか。

 三人の声が聞こえてきた。そっちはどう? 夏の大会に向けて練習はかどってる、まあそれなりにね先輩は厳しいけど、私達一年だからそれはしょうがないよ。でも正直先輩のほうが下手でうちらのが上手いとかあるよね、あるあるでもまあ上下関係はあるしさ、来年になったら後輩もできるしそれまで我慢我慢。

 そして三人は生徒玄関へと向かっていった。三人は一年生らしい、三人の言い分はよくわかるから頷ける。厳しい先輩だ、あの先輩ムカつく、下手なくせに威張りやがって、僕の部活の後輩もそう思っているのだろうか。そう思うのが普通だと思う、僕もそうだったから。

 しかし先輩というのは尊敬する。僕が一年生だった時の先輩、僕が二年生だった時の先輩、もう卒業してしまった先輩たちの事は今でも尊敬している。高校に行ってから活躍している人、違う道へと進んだ人、色んな先輩はいるけれど僕をあの時叱ってくれた、優しくしてくれた、厳しくしてくれた、褒めてくれた、その思い出は忘れない。

 二年生になって僕にも後輩ができた。初めての後輩だ、ドキドキしたしワクワクもした。どう接していいのやらわからなくなって、先輩に相談したことがあった。すると先輩は、お前は先輩なんだから後輩の前では堂々としとけばいいんだよ、と少しキツめに肩を叩かれた。堂々とできるだろうか、緊張して声が小さくならないだろうか、手や足が震えないだろうか。堂々とは偉そうにしろって事ではない、いつもどおりの僕でいいんだ、いつもの僕を後輩に見せればいいんだ。すると胸がスッとした、体が軽くなったような気がした。

 新入生が入学してきた。皆緊張した顔をしていて、ぶかぶかの制服を着ていて、まだ幼さが残っていた。友達できるかなと不安がる新入生、部活何にしようかなと考えている新入生、授業難しいのかなと頭を抱える新入生、いじめられたらどうしようと怖がる新入生、期待と不安を混ぜたものが胸の辺りでドキドキしているだろう。僕もそうだった、たった一年前の今日だけど、僕も同じだった。

 入学式には全校生徒参加だ。

 二年生と三年生が待ち構えている中へ、新入生は担任を先頭にして歩いてくる。二年生に見られながら、三年生に見られながら。

 メインが新入生なんだから見て当然だけど、いきなり先輩に見られたら緊張して固まってしまいそうだ。しかし皆立ち止まることなく歩いて、自分の席に座っている。

 校長先生のお話があって、PTAからのお話もあって、そのあとも話は続く。そんなに長い時間ではないけれど物凄く長く感じる。緊張しているからだろうか、早く終わってほしい、二年生と三年生に見られるのは耐えられない、そう思っているからだろうか。

 お話が終わると、生徒会による学校紹介が行われる。新入生の皆さん入学おめでとうございますと会長が言うと、他のメンバーが新入生へとパンフレットを渡す。このパンフレットは生徒会が作った特別な物だ。パンフレットを受け取った新入生は一斉に中を見る、ページを捲る音が体育館に響く。

 生徒会長が、長くてつまらないおじさん達のお話飽きたでしょと場を盛り上げる。おじさん達は笑う、PTAも保護者も笑う。そして中学生らしい学校生活、光り輝く三年間に、泣いて笑って楽しんでくださいと新入生へと言い放ち生徒会長は礼をした。

 次は部活紹介という名の部活勧誘だ。入学式でするモノなのかはわからないけど、この学校はこのタイミングだ。新入生が全員集まっていて、入学式で、中学生生活の始まりのこの日に新入部員を集めようとするのはどうなのかと今でも思う。新入生はまだ何もわからない、ドキドキとワクワク、期待と不安が混ざっていて緊張している。だからちゃんと話を聞ける状態なのか、ちゃんと判断できるのかわからない。それでもこのタイミングで部活紹介を行うのは、おじさん達もPTAも保護者も大人も皆いるからだ。部活紹介の時は実績も紹介する、何か賞をとっただとか大会で良い結果を残せたかどうかだとか。それらを大人にアピールする、僕達は頑張っているんだぞと。

 思惑がある部活紹介が終わると入学式も終わる。拍手で新入生は見送られて、体育館から教室へと移動する。この時は肩の力が抜けたように思えて、安心した顔になって、ドキドキはひとまず消えてワクワクが強くなる。

 そのあとは在校生は自由だ。

 帰る人もいれば、部活に行く人もいる。僕は新入生が来てくれることを願って部室で待機する。

 先輩は言った、そういえば去年は俺も待機してたな。そうでしたね、ドア開けて怖い人がいたらどうしようとビクビクでした。クスっと笑って先輩は言った、俺で良かったなアイツだったらそのままドア閉めてたんじゃないのかな。確かにそうだったかもしれません、見た目が怖いですしあの先輩は。先輩は笑って言った、それ本人に言わないであげてね結構傷つきやすいから。わかってますよ、見た目は怖いですが優しい先輩ですし。そんな話をやっていたらドアが開いた。

 僕は見た目が怖い先輩かと思って恐る恐るドアのほうへと目をやった。するとそこには緊張した顔をしていて、ぶかぶかの制服を着ていて、まだ幼さが残っている新入生が数人いた。僕は新入生キターと叫びそうなのをこらえて優しい笑顔を作った。

 あの、さっきの部活紹介を見て気になったから来ました。新入生の一人が緊張しながら言った。さあ入って入って、椅子に座ってまずは落ち着こう。先輩が笑顔で言う。僕は資料を手にとっていた。あの、やった事ない初心者ですけどできますか? 新入生の一人が大きな声で言った。俺も初心者だったけど先輩に教えてもらったり、自主練頑張ったりして上手になったよ、だから大丈夫かな。先輩は笑顔で言う。僕は資料を新入生に渡した。あの、僕達は先輩の言う事は絶対聞かなくちゃいけないんですか? 新入生の一人が小さな声で言った。部活に関する事とかその状況によるかなー、でもちょっとパン買ってこいとか明日までに一万円用意しろとか脅されたら先生や優しい先輩に言ってね。まあでもうちの部は皆仲良しだからそんな事はないけど。

 え、でもこの前パン買わされましたよ。僕のその一言で新入生全員がこっちを見てきた。お前それはじゃんけんに負けたからだろ、先輩は呆れていた。そうでしたね、お腹すいたから購買部まで買いに行くかってなって。それで皆で行ったら邪魔になるってなって、先輩が言う。そしてじゃんけんだ、男気じゃんけんだってなって。じゃんけん大会が始まった! 僕と先輩の声が重なった。

 あの、男気じゃんけんは買った人が全額払うんですが。新入生の一人が言った。すると先輩は、この部の男気じゃんけんはそのルールはないの。僕も続く、じゃんけん以外にもビンゴ大会とか鬼ごっことか部活と関係ないところでも楽しいよ。

 新入生達は少しのあいだ目が点になっていた。アレこれマズイかな、いやそんな事はないです、でも反応がイマイチだぞ、いやいやそんな事はないです、でもさこのシンとしている雰囲気はやばくない。

 すると新入生たちは一斉に笑い出した。今度は僕と先輩が目が点になった。楽しそう、馬鹿そうだけど、面白い先輩だ、入部届どこにあるんだろ、良い反応が帰ってきたから作戦は成功したのだった。

「僕の、僕達の教室に行こうか」

「おう」

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