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僕の探し物  作者: ネガティブ
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目を閉じて見えたもの 2

 明日香は焦っていた。

 机に置かれた腕時計を何回も見る。あんなに時間に余裕があったのに、もう残り時間は僅かしかない。

 壁に掛かる時計はチクタクと音を鳴らす。普段なら気にもしないこの音は、今の明日香にとっては気になってしょうがないのだろう。左手で耳を塞いでいる。しかしもう片方の耳は塞げない、問題を解くためにシャーペンを握っているから。

 右手に力が入っているのか解答用紙に書いている文字の色が濃い。

 全体を見渡すともう殆どの人がシャーペンを置いていた。皆見直しも済んだのかあとはチャイムが鳴るのを待つだけだ。伸びをする人、欠伸をする人、シャーペンの芯を変える人、名前をちゃんと書いたか確認する人、時計をじっと見ている人。

 スースー、カタカタ、シャーペンの音が聞こえる。それはいつもは気にならないけどこの静かな中では目立つ。明日香が解答用紙に答えを書いている、音をたてて書いている、早く書かないとチャイムが鳴ってしまう。

 僕はというと姿勢良く座っていた。机の上には問題用紙と解答用紙、腕時計と筆箱だけ。シャーペンも消しゴムも筆箱に直したのだろう。僕の顔は明るい。自信があるのだろうこのテストに、きっとこの教科は高得点だ。

 金髪はというと机に突っ伏していた。顔を動かして遊んでいる。頬を膨らませたり、舌を出してみたり、鼻を膨らませてみたり、高速で瞬きをしてみたり。その姿を見て今にも金髪の心の声が聞こえてきそうだ、早くチャイム鳴れー早く休み時間になれー早くテスト終われーと。

 担任が時計を確認している。もう時間がくる、チャイムが鳴って解答用紙は回収される。

 明日香は解答用紙に何かを書いて、急いで消しゴムで消していた。そしてまた何かを書いた、そしてまた消した。解答用紙に消しカスが広がる。時間がないから相当焦っている、自信があって書いても間違っているかもしれないと疑ってしまう。冷静ではないのがわかる。

 教室にチャイムが鳴り響いた。教室だけじゃない、学校中にそれは鳴り響いてテストの終わりを告げる。

「はいやめてください。後ろから解答用紙を前に渡してください」

 担任のその言葉で後ろから前へと解答用紙は渡されていく。そして緊張が解けたように皆喋りだす。あの問題難しかったよね、名前は一番最初に書いたぜ、あの問題はムカつくよなわかりにくく書いてるからさ、私は結構早く終わったよだから暇だった。

 ちょっと早く渡してよ。明日香は前の席の女性生徒から催促された。

 うんと頷いて明日香は解答用紙を前に渡した。明日香の解答用紙は前に運ばれていく。

 金髪はやはり騒いでいる。やっと終わったやっと遊べると携帯を取り出してゲームをやり始めた。

 僕はまわりの席の人と喋っている。その表情は皆笑顔だ。皆自信があるのだろう。

 明日香は一人俯いていた。皆騒いでいるなか、一人だけ静かで手をぎゅっと握っている。うまくできなかったのだろうか、納得できる解答は書けなかったのだろうか。それで悔しいのだ、できなかった自分が悔しいのだ。

「はい全部あります。今日でテストは終わりますが受験生である皆さんの戦いは長いですからね、ゆっくり休んでまた頑張りましょう」

 担任はテストでお疲れの僕達を労いつつも、受験生として頑張れと念をおした。その言葉にあちこちからブーイングがおこる。せっかくテスト終わったんだから余計なこと言わないでー、そうだそうだひとまず休息するんだからさ、遊んで遊んでストレス発散するんだよ。その声に担任はハハハと笑って、遊びすぎて受験生に戻って来れなくならないでくださいねと言った。

「それでは皆さんテストお疲れさまでした。車に気を付けて帰ってください」

 学級委員が起立と言うと皆立った。礼と言うとありがとうございましたと皆頭を下げた。そしてワイワイガヤガヤと教室は騒がしくなった。さっきまでは時計の音が気になりシャーペンの音も気になったとても静かだった教室が、今は皆の笑い声や大きな声でうるさいぐらいだ。

 担任は解答用紙を入れた袋を大事に持って教室から出ていった。

 金髪は誰かに電話している。きっと大食いとタバコだろう。これから三人で遊ぶのだろう。

 僕は帰り支度を済ませて友達と一緒に教室を出た。

 明日香はまだ俯いていた。

「ねえ明日香も一緒にスタバ寄らない?」

 すると前の席の女子生徒が話しかけてきた。明日香はビクっとなった。急に話しかけられたらびっくりするものだ。

「私はいいよ、ちょっと用事があるから。また誘ってね」

「あっそうなの」

 明日香はその誘いを断った。そして急いで帰り支度をして教室を出た。用事がるから急いでいるのだろう、早歩きで廊下を進む。廊下にはテストが終わって緊張から解放された生徒でいっぱいだ。それを掻き分けて先へ進む、ぶつからないようにスッと避けて。

 明日香の先に僕がいた。僕は友達と何かを喋っている。明日香は僕を見た、なんだか悔しそうな表情だ。そして僕を抜き去って早々と階段を降りて、ホールを抜けて、生徒玄関で靴に履き替えて、門を出て学校から離れていった。

 口が動いている、何かを呟いているようだ。

 しかし大通りを走る車の音で上手く聞き取れない。横断歩道があるところまできた、信号は赤だ。明日香は大通りを見ながら足を止めた。

 また口が動いている。何を呟いているんだ。

 車道側の信号が点滅して黄色になって赤になった。車は一斉に止まって静かになった。横断歩道の信号機が青になると、青になるのを待っていた人たちが一斉に歩き出した。

 明日香も歩いている。そして呟いている。足音に混ざってそれは聞こえてきた。

「アイツに負けた」

 小さな声だったから耳をすまさないと聞き取れない。もうその声は足音に飲み込まれてしまった。

 アイツとは誰だろう、負けたとはどういう事だろう。明日香は誰かと戦っているのか、誰かと勝負しているのか。

 それは……もしかして……。

 僕は目を開けた。ずっと目を閉じていたから眩しい。目を開けると目の前に金髪がいた。

 ホールはさっきより暗くなったような気がした。陽が落ちているのだろう、夜はもうすぐそこまできているのだろう。

「眠ったのかと思ったよ」

 金髪が笑顔で言った。

「眠らないよ、全然眠たくないし」

「そうなの? 俺は眠たいわ、今すぐにでも横になって夢の世界に行きたい」

「よくこんな状況で眠ろうと思うね」

「なんか寝て起きたら全て解決してたらいいなってさ」

「え?」

「これは全部夢で、俺達は悪い夢を見てるだけなんだよ」

「それならいいな」

「それでいいよもう、めんどくなってきた」

「おいおいめんどいって」

「このままじゃお前がヤバイからそんな事はしないんだけどね」

「よかった、さすが友達」

「おう当たり前だろ! 見捨てるわけねーよ」

「でも夢オチだと楽だな」

「楽だけどさ、物語のラストが夢オチだと一気に駄作になるよね」

「あの作品がそうなんだよなー」

「数年前流行ったミステリーのこと? 登場人物はどれもこれも一癖あって、全員が怪しく見えていったい誰が犯人なのかわからなかったやつ」

「そうそうそれ」

「まさか夢オチだったとはね、小説が苦手な俺でも面白くてハマった作品だったのに」

「君も読んでいたんだ!」

「馬鹿にするなよ、馬鹿だけどさ」

 金髪があの作品を実は読んでいた事がわかって僕はびっくりした。

「でさ目を閉じている間、何か思い出した?」

「うん思い出したよ」


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