熱が出た日
あの映像は熱が出て学校を休んだ時に観たんだった。
自分の部屋だと寂しいからってリビングのソファーで寝ていて、なんかうるさいなと目が覚めて起きたら良い匂いがして。その時お腹がぐーと鳴って、しんどくてもお腹は空くなって思って。
目が覚めた僕に気づいた母は起こしてごめんねと僕の側まできてくれた。エプロンをしていて、何か作っている最中だったようだ。
ぐーとまたお腹が鳴る。僕は恥ずかしくなって顔を布団で隠した。
母は優しく笑って、恥ずかしがらなくてもいいのよと頭を撫でてくれた。恥ずかしいもんと母に顔を見せると、顔が真っ赤なのは熱のせいかなそれとも恥ずかしいからかなとからかわれた。
いじわるーと頬を膨らませておいた。
ちょっと待っててね。母はそう言い残してキッチンへと歩いて行った。
この良い匂いの何かを持ってきてくれるのかな、それは一体なんだろう。熱があるから油っぽいものではないな、体力が付くようにガッツリ系かな、お粥とかうどんの定番は嫌だな。いろいろと頭の中に食べ物が出てくる。
お待たせ熱いから気をつけてね。母はそう言いながら僕がこれから食べる物をテーブルに置いた。
湯気がでていて熱そうだ、ふーふーと息をかけて少し冷ましてから食べなきゃ舌が熱い。
お好みで鮭とか海苔もあるからこれ入れて食べてね。
テーブルの上に、トレイの上に乗っていたのは定番のお粥だった。何の面白みもない、よくあるお粥だった。
それ食べてしっかり水分もとって、またゆっくりと寝なさいね。母はキッチンへと戻っていった。
うん熱が出た時の定番、お粥を食べて水分もしっかりとって寝るよ。でもさっきまでいっぱい寝ていたから全く眠たくないんだ。
鮭も海苔も入れずにそのまま食べてみる。あまり味がしない。そして良い匂いもしない。
味がしないのは元々味がないからなのか、それとも熱が出てるからなのか。とにかく味がしないから美味しくはなかった。
そこで僕は鮭を入れてみることにした。鮭といってもお作りでも焼き鮭でもない、鮭フレークだ。
鮭を入れて食べてみる。さっきとは違って美味しい、鮭うめーと言いたくなる。
鮭とは違う場所に海苔も入れてみる。海苔といってもウシケノリ科アマノリ族の海に生える藻の一種でそれを加工して作られる食べ物だけど、ここにあるのは眼鏡をかけているキャラクターが有名な食品メーカーの海苔だ。
それをお粥に入れて食べてみる。うん、これも美味しい。
お粥美味しいじゃん! 定番だとちょっと馬鹿にしてたけど美味しい! 僕はお粥の美味しさを知った。
お粥やうどん=病気の時に食べる物。そう思っていたから不味そうだなと勘違いしていた。
僕はお米一粒も残ささずにペロリと食べた。熱が出てるとは思えないくらい食欲があって自分でもびっくり。
もうお腹いっぱいだからぐーとは鳴らないだろう。
母がトレイを取りに来た。まだエプロン姿だ、もう僕は食べ終わったというのにおかしいぞ。
ごちそうさまでした。僕はニコっと笑って言った。
残さず食べたのね、えらいえらい。そう言って頭を優しく撫でられる。
えへへと僕は笑ってとっても気分が良い。この時の僕は母に頭を撫でられることが好きで、よく撫でて撫でてと頭を母に向けていたっけ。そうしたらよしよしと撫でてくれた。
お母さんはまだ料理作ってるからちょっとうるさいけどごめんね。そう言ってキッチンへと戻った。
まだ作っている……なんで? 僕はもうお腹いっぱいだよ、これ以上食べたらお腹が膨れて爆発するかもしれないよ。爆発したら痛いよ、お腹に穴が空いてるから大変だよ。食べ過ぎは体によくないよ。
僕はキッチンのほうを見た。
するとさっき匂った良い匂いがした。さっきのは今作っている料理だったのか。僕は食べられないんだろうな、いいないいな皆は食べれて。
テーブルの上に置いてあったペットボトルを手にとって、コップへとどばどばと入れた。
水分もとらなくてはいけない。熱が出たら汗が出る、だから水分が必要なのだ。コップの中にはスポーツドリンクがたっぷり入っている。ちょっと入れすぎたかもしれない。でもこれぐらい飲める、お粥食べていた時は食べるのに夢中で飲んでいなかったから。
お粥とスポーツドリンクの組み合わせは合うのかわからないけど。
喉も乾いていたから一気に飲んだ。今なら何杯だって飲めるような気がした。
水分もとったしあとはまた眠ればいい、しかし全然眠たくはない。すっかり目が覚めてしまって、今かどうしようと悩む。
今頃皆学校だな、何の授業を受けているのかな。僕は授業サボってるからなんだか悪い子みたいだ。熱があるからしょうがないけど、しょうがないと思いたくない。
ねえお母さん。僕は母を呼んだ。
すると母がやってきて、何か用かなとそこに座った。
眠たくないの、だから暇なの。
いっぱい寝てたもんね眠れないよね。そう言いながら頭を撫でてくれた。暇かーじゃあアレでも見せようかしら。そう言って引き出しを開けた。何かを探しているのかゴソゴソしている。
あったあった、見つからないように奥に隠しておいたの。母の手にはケースに入ったDVDがあった。
なにそれ、僕が見ていいやつ?
当たり前じゃない、むしろあなたに見せて良いやつよ。母はテレビの電源を点けて、デッキへとDVDを入れた。
何が始まるのだろう。何で隠してたんだろう。
母はリモコンをテーブルの上に置いた。自分で再生ボタン押してみな、母はまたキッチンへと戻っていった。
僕はリモコンを手にとって、再生ボタンを押した。
すると父の顔がテレビ画面にあって、なんだか緊張したような顔でこっちを見ていて口がモゴモゴ動いてるけどなかなか喋らなかった。早く喋りなさいと誰かの声が聞こえて、父はわかってるよ母さんと言う。そしてようやくこっちを向いて恥ずかしそうに喋りだす――――。
それからこの映像は何回か見たことがある。でも人前では見れない、だってそれは恥ずかしいから。一番最初に見たのが人前で見た最後だ。それからは自分の部屋で見ることにした。
見終わって僕は母に勢い良く走っていったのを覚えている。料理中だったから、急に走ってきて危ないでしょと怒られた。それでもあの時の僕は母に伝えたくて、ありがとうお母さんと甘えた。
また観たいなあの映像。魂から元に戻れたら観よう、家族皆で観ても良いんじゃないかな。そりゃ恥ずかしいかもしれないけれど、それが良いんじゃないかなとも思えるし。
僕が通う学校の制服を着た生徒とすれ違う。
もう学校は近い。通い慣れた学校に今更緊張はしない、学校に緊張したのは友達できるかなと不安でいっぱいだった入学前のあの時だけだ。
僕が通う学校の制服を着た生徒とまたすれ違う。
もう学校は近い。運動部の気合の入った声や、吹奏楽部の大会を目指して良い音楽を演奏しようという音楽が聞こえてくる。
僕が通う学校の制服を着た生徒をすり抜ける。足が止まった、そこには門があった。
門の前で腕を組んでいる男子生徒がいた。
その場に座り込む、息をはいて息を吸う。今は動けない喋られない。
門の前で腕を組んでいた男子生徒がこっちへと歩いてきた。
息を吸って息をはく。しんどいな、こんなに全力で走ったのいつぶりだろう。
門の前で腕を組んでいた男子生徒が座り込んでいる僕に声をかけてきた。




