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僕の探し物  作者: ネガティブ
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僕を捜す

 苦しくて目が覚めた。

 さっきのは夢だったのだろうか、僕はちゃんと息をしているし手も足も動いている。僕は生きている。いやこの世界を彷徨う魂となっている。

 またこの夢を見た。何故この夢ばかり見るんだ、楽しい夢じゃないからできれば見たくはない。

 僕はこの夢を見るまえは何をしていたんだ。思い出さなくちゃならない。今日は夢を見たあとボーっとして頭がズキンと痛む。いつもはそんなことないのに。

 ここはどこだ。ブラインドが閉められていて少し暗く、部屋は片付いていて綺麗だ。

 ああここは僕の部屋だ。

 思い出した、僕は抜け殻となった僕に会うために家に来たんだった。そしてここには僕がいなくて、気づいたらまたあの海の中へと行っていた。

 気づいたらもうあの場所で、僕は海の中に沈んでいた。光が届かない場所へとどんどん沈んでいくのはなんだか怖い。

 抜け殻の僕がいないことに今僕は焦っている、海の中でも闇の世界へ沈んでしまいそうで焦っている。あの夢は現実と繋がっているのだろうか、もしそうだとしたら今がどういう状況なのか直ぐにわかってしまう。

 あの夢の、海の中と同じように相当ヤバイのだろう。だとしたら僕は、魂が無くなって抜け殻となってしまった僕の体もそういう状況下にいるのか。

 僕は急いで部屋を出た。

 姉の部屋を確認する、物置スペースと洗濯物を乾す部屋も確認する、使われていない部屋も。しかしどこにも僕はいなかった。それならクローゼットにいるかもしれない、いやそんな所にいるはずがない、そんな場所に僕を寝かすなんて家族がするはずない。じゃあ一体どこにいるというんだ、一階の和室の押入れか僕の部屋のロフトか庭にあるサウナか。

 そのどれもが間違っているとすぐに思って、僕はパニックになる。

 僕はどこだ、返してくれ、僕は僕のモノなんだ、誰にもあげない誰にも触らせない。僕が僕へと帰らなくちゃいけない、そうしなきゃ家族が悲しむ。だから早く僕を見つけてやりたい、一刻も早く。手遅れになる前に戻らないといけない。

 三階にはいない。そうなるとここにはもう用がない。

 僕は階段へと急いだ。さっきまであんなに冷たい空気が漂っていたのに、今はもう暑いとか寒いとかまた感じなくなっていた。

 廊下も階段も外の明るい光が何故か入ってこなくて薄暗かったけれど、今は明るくてまるで外にいるようだ。そんな廊下を走って、階段をおりた。

 二階も明るくてさっきとは様子がちがっていた。僕は二階にある全部の部屋を確認していく。いちいちドアを開けては閉めなくてもいいから楽だ、壁をすり抜けて二階をぐるりと一周した。

 しかしどの部屋にも僕はいなかった。

 三階にも僕はいなかった、二階にも僕はいなかった。じゃあ僕は一階にいるのか。それなら一階から捜せば良かった、そうしていたら今頃僕は僕と会えてホッとして安心していた。こんなにも焦らなくてよかった。

 一階にいるとわかって僕は何だか緊張してきた。もうすぐ抜け殻の僕と会える、そう思うとこの不思議な一日とさよならできそうで嬉しくて。抜け殻の僕は魂となった僕を呼んでいるだろう、僕はその呼び声にしっかりと応えて元いた場所に戻るんだ。それで全てが上手くおさまる、色々わからないことは残ったかもしれないけれどそんなのは僕が元に戻った瞬間に意味がなくなる。もう考えなくてもいい、もう悩まんくていい、だって僕は家族と会えるし誰からも見えないということもなくなって壁をすり抜けることもなくなってまた中学生として生活を送れるんだ。

 勝手に先に元に戻って金髪には申し訳ないと思う。だから元に戻ったら早く金髪に知らせなくちゃならない。君の協力があったから僕は元に戻れたんだ、ありがとう本当にありがとう、今度は僕が協力するよ君が元に戻るために。

 僕は一階へと急ぐ。勢い良く走って、そして転んでしまった。

 痛くはない、しかし何もないところで転けるなんて恥ずかしくて頬が赤くなりそうだ。僕は手を床に置きながら体を起こした。

 転けてしまうぐらい興奮しているんだ、何もないところで転けてしまうぐらい早く元に戻りたいと興奮しているんだ。

 階段へと走る。足を踏み外すことなく一段一段下りていく。

 そして一階へとやってきた。前方には玄関があって、そこには靴が一つもなくてまるで誰もいないように見える。でも今この家には祖母がいる、誰にも見えていないけど僕もいる。靴は帰ってきたら靴箱に直すのがこの家のルールなのだ。

 今気づいたけれど僕は靴を靴箱へと直してはいない。靴をはいたまま、そのままで家の中にあがって走り回ってしまった。こんなことをしたら本来なら怒られるだろうが今は誰にも怒られない。

 祖母はまだリビングにいるだろうか。

 僕はドアをすり抜けた。リビングは電気が消えていた。しかし暗くはない外からの光で明るい。しんとしている、誰もいないからそれは当たり前だ。テレビの電源は消えていて画面は真っ暗で、ソファーには誰も座っていなくて、キッチンから良い匂いなんて漂ってこなくて。そんなの当たり前だこの部屋には僕しかいないのだから。

 祖母は一階のどこかにいるはずだ、まずは祖母を捜そう。

 僕はドアをすり抜けて廊下に出た。廊下を真っ直ぐに進んで応接間の前まで来た。応接間は何やら高そうな家具が並んでいて、汚したり壊してしまったら後が怖いからあまり入らないようにしている。祖母が選んだ家具がここには並んでいる、そのどれもに気品があって美しい。

 さすがにこの部屋にはいないだろう、ここに僕がいるはずない。そう思いながらも確認をしなければならないとため息をついた。魂となった僕でもここはそういう部屋だ、誰にも見えていないのだから高そうな置時計を触っていいよね高そうな壺を持ち上げていいよねとはならない。

 僕はゆっくりと応接間のドアに向けて頭をすり抜かせた。体は廊下に残して、頭だけ応接間に入れた。

 僕の目に飛び込んできたのは高そうな家具たちだった。お小遣い何ヶ月分だろうとか、バイトしたらこれどれぐらいで買えるだろうとか、値段ばかり気になってしまった。

 そうじゃないと頭を左右に振った。椅子にも、テーブルにも、床にも、僕の姿はどこにもなかった。どうやらここにはいないようだ。やはりここにはいなかった。

 僕は大きく息をはいて頭を廊下へと戻した。どっと疲れたような気がする、僕は応接間が苦手だ。

 父や母や祖父や祖母は、この部屋に通すお客さんとは難しい話をしている。その話の内容は投資だったり経営だったり株だったり、僕にはまだ早い内容でこどもが立ち入って良い話ではない。それほどこの部屋は重要なのだ。

 かと思うとこの部屋に通していたお客さんがリビングのソファーに座って笑っている時があった。その時は父や母や祖父や祖母は、僕をお客さんに紹介してくれて一緒にケーキ食べようねと誘ってくれる。この時は嬉しくて、ああ早くお客さん来ないかなと願ったことがあった。

 いつか僕も応接間にお客さん呼んで大人の話をしたいと言ったことがあったっけ、そうしたら父は楽しみに待っているよと笑顔で母は頑張りなさいと言ってくれて祖父は相手をしっかり見極めろよとアドバイスをくれて祖母はちょっと今から映画観るから静かにしてとマイペースだった。

 早く元に戻ってお客さん呼べるようになりたいと思いながら廊下を歩こうとした。その時、僕の視界にうつったのはペットの犬と猫だった。

 二匹は僕の方をつぶらな瞳で見てくる。二匹には僕がわかるのだろうか。

 すると僕へと寄ってきて、まるで甘えるかのように声を出した。くーんだったりにゃーだったり。可愛いからこの手で触って撫でてやりたい。しかしすり抜けるのがオチだろうからやめる。

 二匹は僕の目を見て、そして廊下を歩いた。少し先で歩いたら二匹は止まって、僕のほうを向いて声を出した。くーんだったりにゃーだったり。

 着いてこいと言っているのかな? 僕は二匹に着いて行く。

 応接間の横には客間がある。和室と洋室の二部屋、そのどちらの部屋にもテレビも冷暖房も付いている。ここにはいない、お客さんの部屋に僕がいるのは失礼になる。僕は客間を確認せずに通り過ぎた。

 その時チーンという音が聞こえた。そして何か匂った、この匂いはお線香だ。仏壇やお墓でお線香は使う、マッチやライターで火を点けて煙を出させる。それが今何故ここで。

 三階に僕はいなかった、二階にも僕はいなかった、そして今お線香の匂いがする。どこにもいないということはつまりそういうことだ、教室で見た花や鏡に映らない僕やすり抜ける手はそういうことだ、わかってはいたけどわかりたくない。このお線香は僕に対してのモノなのだろう。

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