海の中 3
僕はゆっくりと沈んでいる。
重りは付けていない。荷物も何もない、制服姿でただ下へ下へと。
ここは海の中だ。上の方から射し込んでくる光はもうあんなに小さくなってしまった。
米粒ほどの大きさなのかそれとも豆なのか。
それぐらい小さくなってしまった光は、簡単に指でつまめてしまう。
指でつまんで、指と指を合わせたら潰れてしまいそうなほど柔らかい気がした。
光がなくなったら真っ暗になる。
そうなってしまったら闇というのだろうか、闇というのは何も見えなくて進行方向がわからなくなるのだろうか。
上も下も、前も後ろも、自分がどこにいるのか見失うのか。
闇は僕を巻き込んで無理やり仲間に引き入れて、僕という存在は闇に同化して闇はさらに暗くなる。
闇に紛れたら何をしでかしてしまうのだろうか。
今まで沸き起こらなかった憎悪が沸々と湧いて、誰かを憎み誰かを傷つけ誰かを……。
それは人を悪に染めてしまう、善だったものを悪へと。
僕は藻掻く。しかし体は全く動かない。
そんなものはわかっていた、もう散々それは試したのだから。でも抵抗したかった。
できない、不可能、そんな不利な状況をひっくり返せたら気持ちが良いだろう。
だけど不利な状況だから難易度は高いのだ。
それでも挑まなくてはならない、挑戦し続けるチャレンジャーでなければならない。
僕の周囲が闇に染まり始めている。光はここまで届かない。
大丈夫だ、強い気持ちを持っていたらキラキラしたものは必ず助けてくれる。
信じよう自分を、不可能を可能にしよう、できないことは何もないんだ。
僕は腹の底から叫ぶ。
まだやる事がいっぱいあるんだ! このまま海の底まで行ってたまるか! 動けよ両手、動けよ両足、僕は光が溢れる外へと行くんだ!
海の中に僕の声が響く。波紋となってどこかに伝わればそれでいい。
しかし両手も両足も全く動かない。そんなのわかっていた、でもやりたかった。
その時体が下へと思い切り引っ張られた。
勢い良く下へと沈んでいく。米粒ほどの、豆みたいな光はみるみる小さくなっていく。
闇が広がる。闇は僕を包む。闇は僕を仲間に誘う。
必死に藻掻く。じたばたと、手も足も頭も全身動かそうとする。
上には微かに光があった。
もう目を細めないと目視できない。僕はそれでも藻掻く。
光は少しずつ闇に冒されているように見える。闇が光を喰っているようだ。
そして光は無くなった。
さっきまで光があった場所には闇がある、まるで初めからそこにいたように。
光が消えた。僕は闇の中を勢い良く沈んでいる。
僕は闇の一部となるのか……闇に汚されてしまうのか……。




