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僕の探し物  作者: ネガティブ
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住宅街

 信号は点滅して、青へと変わった。

 ビュンビュンと走っていた車達は一斉に止まった。横断歩道の白線の前で止まった。

 僕は大通りに背中を向けて歩く、僕の家はもうすぐだ。

 住宅街へと続く道へと入り、大通りから離れていく。

 ちょうどここらへんなのかな、あの事故が起きたとき人集ができていたところは。そしてそこの横断歩道で悲劇が。

 あのあと高学年はどうなったか知らない、あのあと新一年生の母親もどうなったか知らない。でも二人ともこの住宅街から姿を消した、ここではないどこか別の場所へと引っ越したらしい。だから高学年がこの事で何か悩んでいるとか気にしているとかトラウマになったとかそういうのはわからない、新一年生の母親がこの事で悲しんだのか事故を起こした運転手を恨んだのか裁判を起こしたのか夫との仲は戻ったのかそういうのはわからない。

 ただこの住宅街に暫く重い空気と嫌な空気を残し、二人はどこかへと行った。

 悪いのは高学年でも新一年生の母親でもない、事故を起こしたヤツだ。なのにその二人が悪いかのような空気が漂ったらしい。

 さっさと出て行きやがって、あの母親は嫌いだったからいなくなって良かったわ子どもは可哀想なことになったけど、やっぱりこのルールは考え直すべきだわあの高学年に感謝すべきね、聞いた話じゃその事故にあった子は信号無視したみたいよだからまあしょうがないわね、私ね高学年のお母さんと仲良かったのだから引越しして寂しいわでもその寂しさもすぐに忘れちゃった。

 皆言いたい放題、あっちこっちでその話をしていたらしい。僕たちがここに来たのはそれがおさまってからだから良かった、そんな時にここに来たら最悪だ。

 僕は緑のカーテンがある家を歩きながら見た。ここに新一年生の家があったそうだ、僕が来た時は売地になっていたけどそのあとすぐに家が建った。

 僕も新一年生の気持ちはわかる。ドキドキとワクワクで溢れている学校という場所が、楽しくてしょうがなかった時があった。

だから一刻も早く、誰よりも早く、学校に一番乗りしたくて早起きした。

 この時はまだお子様だから何も知らず、ただ楽しいだけだった。それがいつしか楽しくなくなり、面倒くさくなり、学校という場所はドキドキもワクワクもしなくなっていった。

 あんなに輝いる場所だったのに、何で輝くなったのか考えたこともあった。考えているうちにだんだん馬鹿馬鹿しくなって考えるのをやめた。

 こういうものなんだと納得した自分がいた。いつか楽しくなくなって、輝きもなくなって、ただ勉強しに行くだけの場所としての役割でしかなくなった。

 そんな中でも僕は部活動や生徒会活動をして少しでも紛らわせていたのかもしれない。自分のクラスでクラスメイトと仲を深めていくのもそうだったのか。

 そうだったとしたら部活動で僕を慕ってくれていた後輩は何なのだ、生徒会活動でなかなか纏まらない議題を僕がスッキリ纏めたのは何なのだ、他のクラスの生徒が4組は仲良さそうで良いなと言われたのは何なのだ。

 その全てはただ紛らわすためにしたことなのか、そんなことはないと思いたい。

 首を左右に振った。モヤモヤを取り払うためだ。

 僕は歩く。そこの角を左に曲がって、少し先にあるマンションが高学年が住んでいたらしい。

 僕の目にマンションが映った。それは何階建てなのだろう、数える気にはなれないけど。このマンションの十二階に住んでいた高学年はもうここにはいない、何処か違う場所で楽しくやっていたら良いと思う。そうじゃなきゃあの事故を忘れられず、弟のような存在だった新一年生がいつまでも心に住むことになる。忘れないというのは良いことかもしれない、でも忘れたほうが良いことだってある。

 高学年が住んでいた部屋はもう今は違う人が住んでいて、あの事故のせいで引っ越すことになった高学年が住んでいたことは知っているのだろうか。知っていたとしても知らなかったとしても、それはどうでもいいことなのだろうか、知っていたらそんな部屋には住みたくないと言うのか知らなかったらそれは幸せなのだろうか。

 とにかくもうこのマンションにはいない、だから今更その話を蒸し返さなくて良いのかもしれない。

 それでもたまに心の隅っこで思い出す。あんな事故があって、高学年とその家族が引っ越して、新一年生の母親も引っ越したという事実が。

 何でたまに思い出すのだろう。思い出すのは僕だけなのか、ここらへんに住む人は皆思い出すのか、それとも二人のその後を知りたいという好奇心からか。

 事故なんて毎日どこかで起きている。命に関わる事故、関わらない事故、軽傷で済んだ事故、重傷になってしまった事故。

 その事故がたまたま僕が住む近所で起こっただけ、そう思えたら簡単なのだけど。

 しかし当事者になってしまったら簡単ではなくなる。それに関わってしまったのだから、多かれ少なかれそのことに関して考えるだろう。

 次の角を左に曲がると僕の家はある。青色の屋根が目印で、三階建ての一軒家で、駐車場と小さなログハウスと沢山の花に囲まれた庭が僕の家だ。

 今は皆いないだろう、父と母は仕事で姉は学校だ。祖父はいるだろうか、趣味が多いからどこかに出かけているかもしれない。祖母だけでもいてほしい、僕の声が届かないとしても姿がたとえ見えないとしても祖母の顔を見れたらそれでいい。

 映画でも観てるかな。

 祖母は映画が好きでよく見ている。邦画や洋画、何でも見てどんなジャンルでも見る。最近の映画は疲れると言っていたけど、それは僕も同じだった。無駄に派手で、中身が無いような気がするから。

 今家には祖母がいると思えてきた。だから早く会いたい、いや向こうには僕が見えないわけだから会うというのが合っているのかわからないけど。それでいいんだ、僕は祖母に会うんだ、こんな姿になってしまったけれど。

 祖母よりもだいぶ若い僕が、先にこうなってしまったのは悲しいだろう。お迎えが来るのは年齢の順番だから。こんなこと言ったら祖母に怒られそうだ、私はまだ若いよ毎日ネットで色々チェックするしね、と涼しい顔をされそうだ。祖母だけじゃなくて祖父にも怒られそうだ、俺はまだまだやりたい事があるんだよだからまだまだくたばらねーよ、と笑いながら言いそうだ。

 そんな二人より先に僕がこうなってごめんなさい、僕の分まで長生きしてください。そんなこと言ったらそれこそ怒られる。でも僕はこうなったわけだからそれを言ってもおかしくはない。

 一番怒りに触れるのは自分の命を粗末にすることだ。ニュースでよく見る、自ら命を経つニュースを。そのニュースを見るたびに二人は言う。生きてたらこうやって面白い映画を一本でも多く観れるのに、どんなに辛くても自分で自分を殺すのはダメだ辛かったら俺に言いに来いよ俺の趣味に付き合して辛い事なんて忘れさしてやる。

 今はそういう時代じゃないんだとはとてもじゃないけど言えない。色々悩みがあって、誰かに相談したいけどできなくて、自分で考えているうちにそういう決断をしてしまったんだと言ったら話がややこしくなる。

 祖父にも会いたいな。でもきっと今は家にはいない、趣味が多いんだ、だからどこにいるのかわからない。

 角が見えてきた。左に曲がると僕の家だ。

 僕は角を曲がろうとした、しかし頭に衝撃が走って足を止めた。

 今日は色々あってそんな事を考えている時間や暇はなかった、というか今の今まで全くそのことに気がつかなかった。どうして今になってそのことに気がついたんだ、もう僕の家はすぐそこにあるのに。こんな事今気づいたら家に行くのが怖くなるじゃないか。

 僕はドコにいるんだ、ドコに僕はいるんだ、家にいるなら今から確認したら良い、でも家にいなかったらその時はどうすればいい、とにかくまず祖母の顔を見るか。

 僕は気づいたのだ、僕の体はドコにあるんだと。僕の本体はどこにあるんだと。僕の魂はここにる、僕がいなくなって抜け殻になってしまった体は今どこに? 魂がない僕の体は冷たくなるのだろうか腐ってしまうのだろうか。

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