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僕の探し物  作者: ネガティブ
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本館廊下

 苦しくて目が覚めた。

 さっきのは夢だったのだろうか、ちゃんと息をしている手も足も動いている。僕は生きている。

 しかしここは何処なのだろう?

 僕はあたりを見回した。

 ここがどこなのかそれはすぐにわかった。ここは屋上だ、さっきまで明日香と話をしていた屋上だ。

 僕はいつの間にか眠っていたらしい。

 全然眠たくはなかった、なのに何故か眠っていた。あの海の中へ行く前のことを思い出そう。

 僕は明日香に、僕のことをちゃんと話そうと思って屋上へと走った。しかし走っている間に考えが変わった。それで結局僕のことは話せなくて、それでほかのことを話した。そしてチャイムが鳴って明日香は屋上を後にした。

 その時だ、突然頭が痛くなって視界が歪んで気持ち悪くなって、そして倒れて。

 気づいたらあの海の中にいて、気づいたらまたここにいて。

 一体どうなっているのかわけがわからない、何度も言うけど今日はわけがわからない一日だ。

 今は何時だろう、予定も何もないのに時間なんか気にしても意味はないけど下校の時間になったら手がかりがなくなりそうで怖い。

 しかし時間というのは僕にとってはもう必要なモノではないような気がする。あっちの世界は時間というモノがある、朝が来て昼が来て夜が来て。それに合わせて人は起きて働いたり勉強したりして疲れて体を癒して眠る。それの繰り返し。

 でも僕はそれを実感する資格がもうない。僕はもう時間に囚われない存在だ。その時が来たら終わるし、無限に続く時間をただ過ごすかもしれないし、朝とか昼とかも関係なくなる。

 そうだとしたら焦らなくていいのかもしれない。ゆっくりやっていけばいい、前に進まなくてもいい後ろに下がってもいい。また朝がきても、日が変わっても、月がかわっても。

 いや結局そうなっても時間に囚われてしまうのか。現に正に今、ここにいる時間は囚われているのんじゃないのか。

 もしこのまま、僕がこの世界にずっと留まっていたならどうする。それは長い長い時間で、想像はなかなかできないだろう。

 それなら終わったほうが楽だろう、無限に続く時間は想像するだけで恐ろしい。

「でも僕はそうなりたくはない」

 声に出して自分に言い聞かせる。そうすることで鼓舞する。

 諦めたかと思えば前を向く、前を向いたかと思えば諦める。僕はめんどくさいやつだ。心の移り変わりがとても激しい。

 早く全ての謎を解かなければならない。終わりがいつ来るのかわからないから、それは今日かもしれないし明日かもしれないし来年かもしれないし十年後かもしれない。先が見えないのは嫌だ。

 そうと決まれば善は急げだ。僕はフェンスに寄って辺りを見渡す。

 向かい側の校舎、三年生の校舎が見える。廊下には生徒の姿も先生の姿も見えない。今は授業中なのだろう、騒がしい声が聞こえないから。

 グラウンドへと目をやった。そこには誰もいない。今の季節は水泳の授業をしている。プールは体育館の中にある室内プールだ。

 プールに関しては二時限ぶち抜きでする。そうなると僕が所属していたクラスは、今はプールの授業をやっている事になる。

 あとで見に行こう。プールの授業を誰にも見えない僕が見に行くなんて変態みたいだ。

 そりゃ女子の水着姿は気になる、気になるけれどそれが目的ではない。何か見つかったらそれでいい、何か新しい情報が。

 とりあえずいつまでも屋上にいても意味がない。僕はドアのほうへと歩いた。

 しかしドコに行けばいいのか。予定がないと行き当たりばったりになってしまい失敗する。どこかに出かける時もある程度決めておかないとスッキリしない、何となく出かけるのは僕にはできない。だけど今はスッキリはしないけど進むしかない。

 ドアは開けずにすり抜けた。階段を降りて、一年生の教室が並ぶ階に来た。

 僕も一年生の時はここで授業を受けていた。たった二年前のことなのに懐かしいと思えてくるのは、僕がもう授業を受けることができないからだろうか。

 ブカブカの制服を来てちょっと大人になった気でいた二年前、先輩後輩という上下関係を初めて知って難しいなとよく悩んでいた二年前、背がなかなか伸びなくて牛乳をいっぱい飲んだ二年前。

 今僕は三年生で、受験生で、あの頃より背も伸びて体重も増えて頭も良くなって。中学では一番上の学年で、それを武器に後輩をこき使うヤツがいたり先輩として後輩に良いところ見せようと思っているヤツがいたり。

「駄目だそんなの考えちゃ」

 僕の声が虚しく静かな廊下に響く。

 その通りだ、思い出が溢れてくるなんてまるで走馬灯のようではないか。僕がもうすぐ終わってしまうような気がして嫌だ。

 今終わってしまうのはいけない、どうせ終わるなら納得してから終わりたい。できれば終わりたくはないけどさ、そんなのは当たり前だ。

 しかしそうなる受け入れはしておかないと。用意はしておいたほうがいい。

 僕は階段を降りた。降りて降りて、一階まで来てホールを通ってまた階段を上る。僕の教室に行こう、さっきは騒がしかったけど今は誰もいないはずだ。

 だからさっきは見えなかったモノが今度は見えてくるかもしれない。

 僕は階段を上る。上って上って、三年生の教室が並ぶ階に来た。

 ここも静かだ。黒板にチョークで文字を書く音や、誰かが文章を読んでいる声や誰かが咳を何回もしている音や誰かが今流行っているギャグを言って複数の笑い声が聞こえてきている。

 静かな中に音があったらそれはとても目立つ。休み時間じゃ紛れてしまう咳や笑い声なんかも、気になってしまうウルサイと思ってしまう。

 僕は目的の教室へ向けて歩いた。さっきもここを通った、行きは歩きだったけど帰りは走っていた。

 廊下は走っちゃいけません、その注意は小学生のときから言われている。でも誰にも見えないから走っても良いんじゃないのかな。

 誰にも会わないと思っていたら、角から不良グループの一員の金髪が現れた。

 元気がない様子でうつむいていて、右手にはドクロが描かれているトートバッグを持っていた。体操服袋はダサいのだろう、だからってドクロはどうなのだろう。

 もうこの世に僕の体がないかもしれないというのに、もう燃やされしまったかもしれないのに、骨になったかもしれないのに。

 金髪といつもつるんでいる二人の姿がない。どうしたのだろう喧嘩でもしたのだろうか。

 金髪は顔を上げて僕と目が合ったような気がした。そういえばさっきも目が合った。

 僕は金髪をすり抜けずに横を歩いた。なんとなくすり抜けたくなかった。誰かをすり抜けても何もない、誰かをすり抜けたら何か秘密がわかるとか乗り移れるとかそんなものはない。だから誰かをすり抜ける事に意味なんてない。

「なあ、さっきも会ったよな」

 金髪が後ろで誰かと話している。いつもつるんでいる二人を見つけたのだろう。しかし僕には関係のないことだ。

「なあ聞こえてるだろう、シカトかよ」

 タバコと大食いは金髪をシカトしているのだろうか、グループ内でいじめだろうか。

「待てって、ぼんやりとだけど見えるんだよ。さっきから歩き回ってるよな?」

 その一言で僕の足が止まった。ひょっとして金髪は僕に話しかけているのか、タバコと大食いに話をしているんじゃないのか。

「やっと止まった。誰かわからないけど気になってたんだよ」

 僕は振り向いた。

「俺ね見えるの。暫く見えなかったんだけど久しぶりに見えた」

 ひょっとして金髪は僕が見えているのか、僕の存在がわかるのか。金髪の言葉は聞き間違いではないよね、明日香以外にも僕が見える人がいてびっくりした。

 しっかりと姿は見えても声は届くだろうか、試してみないとわからない。声が届いたら大きな一歩になりそうだ。

「こんにちは」


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