海の中
僕はゆっくりと沈んでいる。
重りは付けていない、荷物も何もない、制服姿でただ下へ下へと。
ここは海の中だ、上の方から眩しくて輝いている光が射し込んできている。
空も見えて、爽やかすぎるぐらいの青が広がっている。
今ならまだ海から出られそうだ、ちょっと泳いだら顔を外へ出せる。
そうしないと息が続かない。人は水の中で呼吸できない、魚のように水の中で生きられない。
口から息が次々と小さな泡となって出ている。それはある程度まで上にいってパチンと弾けた。
これが全て弾けてしまったら僕は苦しくなって動かなくなるのだろうか。
体を動かそうとするが全く言う事がきかない。
物凄く体が重くて、自分の体ではないみたいだ。
そうか自分自身が重かったのか。自分が重りであり、沈んでいるのは自分に原因があったのか。
そうわかったところで沈んでいく現状は何も変わらない。
動かそうとしても動かない、眩しくて輝いているあの場所に手が届かない。
口から出る泡が止まらない、ブクブクと出続けて全てを出し切った。
そして苦しくなってきた。
それは当然だ、人は水の中で息ができないから。
苦しくて手足を動かしくたくなった、だが手足は全く動かない。
もう僕はこのまま動かなくなるのだろう。息ができなくて苦しくなってきた。
意識も遠のいてきたような気がする。
どうして僕はここに沈んでいるのだろう、今になってそれが気になってきた。
それと同時に走馬灯というものも気になってきた。
死ぬ前というのは今まで生きてきた記憶が一瞬にして頭の中を走るんじゃないのか。
生まれてきたとき、幼稚園での思い出、ランドセルを背負って学校が楽しみでしょうがなかったとき、他にもいっぱいあるだろう。
しかし苦しいばかりでそんなものはない。
実際はそんなものはないのだろうか、ただ命が消えていくのだろうか。
それとももっと苦しまないとそれはやってこないのか、こんなにも苦しいのにこれ以上苦しまないといけないのか。
もう何も考えられなくなってきた。視界が霞んできた。
思いっきり空気を吸いたい。
それができたら僕は苦しまなくてすむ。しかし僕は水の中だ。
太陽からの光はそれでも眩しくて輝いている。
もうダメだ……僕は……このまま……。