潜入
「ようこそ。山田社長
今はこのような仮説オフィスを利用していますが、近々新しいビルを建設する予定です」
由美が山田を伴って、偽オフィスに入っていく
今は使われていない、元ホテルだった建物の一室を使っている
そして社員のほうなのだが………
「どうぞ。すでに会議の席は整っています」
「ああ」
ドアを開けて山田が入った瞬間
ザッ
室内の全員の体がそちらを向く
それだけならまだいいのだが……
全員目つきが、滅茶苦茶キツい
人数は15人程度だろうか
実はこの偽社員、全員北見とその仲間たちである
目つきが悪いのも当然といえるだろう
「変わった趣向だね」
「……? 何が……でしょうか
みなさん優秀な方たちばかりですよ」
「……そうか」
山田が席について、会議が始まったようだ
「よし。行動開始だ」
「「了解」」
和也の声がインカムを通して理恵と正城の耳に届く
今回はメンバーの役割上、実働部隊は理恵と正城の2人だ
ちなみに和也は、理恵がハッキングしたサンダー社内の監視カメラの映像を見て、指示を出している
標的のデータは、最上階の社長室のパソコンの中らしい
しかし、そこまでの廊下は赤外線がはりめぐらされていて安易には通れない
その赤外線のON・OFFは受付で総管理しているらしい
「あー依頼を受けた電気工のものです」
くたびれたジャンパーを着た30歳くらいの男が工具箱を持って受付に近づく
「電気工ですか?」
「ええ、社長室近くの廊下の電気がつかないとの連絡があったんですが……」
「少々お待ちください」
そして、受付嬢は電話をかけはじめた
「どうする、和也。難しそうだよ」
「ああ、そうだな。理恵を準備させる」
この電気工を名乗る男、正城の変装である
仕立てたのは由美だが
「お待たせいたしました
やはり、そういった連絡は受け付けておりません」
「えっ、困ったな……連絡ミスかな」
「申し訳ありません。こちらとしても黙ってお通しする訳にはいかないので……」
「上司に怒られる?」
「えっ、ええ、まあ」
「お互い難儀な仕事だねえ」
「よし、理恵。今だ」
「オッケー」
カコン
受付の天井が外れて理恵が静かに降りてくる
「ふふっそうですね」
「でもさ、その歳でこんな大企業の受付嬢なんて優秀なんだろう?」
「そんなことありません。運がよかっただけです
それに、そんなにいい仕事とは言えません」
理恵が受付嬢の背後でパソコンをいじる
「どうだ?」
「むむぅ。結構難しそうだよ。コレは」
「よし。正城、気付かれたらヤバい。口説いてくれ」
「………そうなの? 立派な仕事だと思うけど」
「あらっ、それをいったらあなたの方がじゃない?
電気工なんて生活に根付いた人の役に立てる立派な職でしょ」
「理恵、まだか」
「待って。もう少し……」
「いえ、僕みたいな野蛮人と比べたら……こんなにお美しいのに」
「あらっ、お上手ね」
「よし、いいよ」
「正城もういいぞ」
理恵がようやく、赤外線の解除に成功したようだ
「ありがとう、君みたいな美人と話せたから少し疲れがとれた気がするよ」
「ふふっありがとう」
理恵がゆっくりと天井裏に戻っていく
……その顔は般若のようだったとは正城の述懐である
「どうしてくれんだよ……滅茶苦茶怖かったぞ!」
「まあまあ、大丈夫だろ」
サンダー株式会社一階ロビー
あの後、正城は一度オフィスを出て、スーツに着替えて再び潜入している
「和也は理恵の折檻の怖さを知らないからそういうことが言えるんだ」
「……折檻って……ま、まあ俺もフォローするから」
「……よろしく頼む」
こんな会話をしているうちにすでに正城は2階から3階への階段に足をかけている
「このまま進んでいいんだな?」
「ああ。3階までは一般区域だ。問題ない」
「和也。4階に上がる階段がない」
正城からの連絡が入る
まあここまでは予想済みだ
4階は社長室を始め色々な重要項目がある
「あるのはエレベーターだけだよ。それも社員のパスがないと無理なやつ」
「大丈夫だ。……理恵」
「了解」
ガコン
「!!?」
突然天井が開いてそこから人が降りてきたらそれはびっくりする
しかも、それがさっき怒らせた理恵だったらなおさらだ
そこまではいい
そこまではいいが
……何故、恐怖の対象に抱きつくんだ?
「ちょっ、え? 何」
「―――!!―――!」
和也の目の前の映像の中では、ぼろぼろのつなぎを着た少女にスーツ姿の男が抱きつくという画が広がっていた
あげく、理恵はパニクってるし、正城は声にならない悲鳴をあげてるし……
「おい、おちつけお前ら。仕事中だ」
「「!」」
和也の声で2人はやっと我に返った
理恵のハッキングによりものの10秒もしないうちにエレベーターの扉は開いた
「ここからは、慎重に慎重をきしていけ」
「あいよ」
「了解」
エレベーター上部のランプが4を灯した
ゆっくりと扉が開いてゆく
「廊下の向こう角から1人来る
いくぞ。3、2、1 今!」
ドゴフッ
ドサッ
正城の正拳突きがサラリーマンの鳩尾&脇腹に見事に決まった
和也の作戦は、正城が角で待ち伏せ、カメラで見ている和也がタイミングを指示し、相手を気絶させるというもの
「なあ、ここって普段赤外線区域だろ? なんでみんな普通に歩ってるんだ?」
「……おそらく、覚えてんだな。どこを通れば赤外線に触れないか」
どうやら、この4階にあがれるのは本当に一握りの連中だけみたいだ
「あとは、社長室までいけるか?」
「ああいける。ただ、やっぱ見張りがいるんだ」
「どうする?」
「まあ、定石通りにいこう」
コンコン
正城が壁をたたくと見張りの内、1人が近付いてくる
この作戦、いつぞやの不良のアジトに潜入した時の作戦である
そして、見張りが角を曲がった瞬間―――
ドフ
見事に鳩尾に正城の拳がめぐり込んでいた
「よし。あとひとりは? さすがにもう一回は通用しないだろ」
「大丈夫」
和也は自信たっぷりに言う
チョイチョイ
正城は和也に言われた通り、角から手だけ出して人差指で誘うような動作をする
もちろん、見張りはそれに気付きこちらに歩きだそうとする―――
「!!」
おそらく、見張りは何が起こったかよく分からなかったろう
なんせ―――突然首がしまったのだから
ガク
そこには再び天井裏に隠れて、静かに背後に降り立ち、見事に頸動脈を絞め落とした理恵がVサインをして立っていた
「いけるか?」
「12桁の暗証番号式だよ
1分ちょうだい」
理恵はさっそく社長室の解錠にかかっていた
さすがは理恵である
普通、この手の鍵の会場にはパソコンを用いて、長い時間がかかるというが
それを、自作した携帯サイズのコンピューターでやれるというのだから
正城も安堵の表情で見ていた―――
「やばい! 2人歩いてくる! 急げ」
和也からの連絡が入る
どうやら、まだこの階に上がってこれる連中がいたみたいだ
状況はあまり芳しくない
「くそっ理恵。まだか!」
「待って。後10秒」
2人の声はともに焦りをおび始める
「くっ。仕方ねえ」
「! 駄目だ! 正城
闇雲に言って、逃げられたら侵入者の情報がひろまっちまう!」
歩みは刻々と近づいてきている
もう、すぐそこだ
「あと3秒」
角の向こうに影がみえる
「開いた!」
ガチャッ
……………………………
「和也?」
「……はぁ~大丈夫だ。ばれてない」
「「ふぅぅぅぅ~」」
部屋になだれ込んだ2人は大きなため息を吐いた
「理恵。悪いがすぐ頼む」
「了~解」
「よし。データのコピー完了。削除もオッケーだよ」
「うん。脱出だな」
2人はドアを開け、慎重に廊下に足を踏み出す―――
ウウ~ウ~ウウ~
「「!!」」
視界が急に赤一色になる
けたたましいサイレンが鳴り響き、足元がドタドタと騒がしくなる
「な、何?」
理恵がおびえたような声をだす
しかし、それ以上に困惑しているのは和也だった
「……やられた! どうやら受付嬢に気付かれたらしい
侵入者がいることに気付いているかまではわからないけど
赤外線センサーが戻ってる」
「マジかよ!」
「とにかく、エレベーターまで全力で走れ! 時は一刻を争うぞ!」
「「了解!」」
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