作戦開始
「ゲホッゲホッ………あの繁華街周辺を占めてんのは、大島っていう奴らだ」
「コホッコホッ―――それでこれが住所」
由美と和也は他の2人に情報を提供する
せき込んだのはせもてもの皮肉のつもりだった
「うん、こっちも大分集まったよ」
正城はそんなことを意にも介さない様子で話しを進める
「えっとね~……実際に被害者の写真を見せて回ったら、実際に現場を見た、っていう人もいたよ」
理恵はそれだけ言うとパソコンのキーをたたき始めた
理恵なら、もっと情報を引き出せるかもしれない
「あのさ、後、こんなことも聞いたんだけど……」
正城はそう前置きして話し始める
「この生徒……なんか、ちょくちょく繁華街に出入りしてたみたいだよ。彼をみたって人結構いたし」
「……そうか。………っていうか写真撮ってたのか? 名前を名乗らなかったのに、写真はOKだったんだ」
「………まあね」
正城は返答が遅れ、しかもそっぽを向いている
盗撮しやがったな、こいつ
ま、情報も得られたみたいだし、いいか
「ねえ、ちょっと。これ見てよ」
理恵がパソコンの前の椅子を回転させて振り返る
画面には、理恵がまとめたのだろうか
いくつもの情報が箇条書きで並んでいる
「一、大島のグループは上下関係が厳格に定められており、中でもリーダーの大島の地位は絶対的なもの である
一、大島グループは町で最強の冠をもつ
一、大島グループには、暴力、傷害などの前科者も多数おり、色々と黒いうわさが絶えない」
さすが、理恵。ものの10分でここまで調べあげるとは
「結構、ヤバげだね~。まあ、なんとかなるかな。この場所は廃ビルだよ。ここから30分ぐらいかな」
理恵はそんな風に言って、パソコンの電源を切る
さてさて、どうしたものかな
「どうするの?和也。来週にでも決行する?」
由美はそんな風に聞いてくる
普通、情報を集めたら決行はそこから1週間後だ
確かに、来週にした方が、まだ情報が集まるかもしれないし、状況も立てやすい
でも………
「いや、作戦は本日、20:00より決行する」
今回はすぐにでも決行したい
「OK」
「了~解」
「分かった」
3人とも和也の意見に異議を申し立てることなくすんなり受け入れる
この感じからして、メンバーの和也に対する信頼感がうかがい知れる
「作戦会議を始める
まず、理恵。この廃ビルの詳しい地図は分かるか」
「あいよ~」
そう言って理恵はパソコンに向かい、ものの1分で建物内の地図を表示させた
「なるほどな。入口は2つある。正面の大きな入り口と裏口だ。まず正城。お前は正面の入口から堂々と入って何か適当なことを言って、相手の目を引きつけてくれ。面が割れるとまずいから、その辺はなんとかしてくれ。まあ、怪我は………捻挫ぐらいまでならいいだろ
そしてその隙に、理恵と由美が裏口から侵入。建物内を捜索。見つかり次第、俺が全員に撤退指令を出す。以上、何か質問は?」
「はい!」
「ん、理恵」
「見つからなかったら……というか、なかったらどうするの?」
「そんときは、俺が潮時だと感じたら撤退指令を出す。それからは、また話しあってから決めよう」
「分かった」
「よし! それでは、これで作戦会議は終了する。後は、各自時間まで自由行動」
「「「了解」」」
ともあれ、時間まではまだ1時間半程あり、やることもないので自然とおしゃべりが始まった
というか、由美がさっきから、非難がましい目を向けてくるのだ
「な、何だよ由美」
思わず、どもってしまった和也に、由美はさらに目を細めて
「和也………さっき、私の胸、さわったでしょ」
えーーーーーーーー!! いやいや。あの落とし穴に落ちた時か
触ってない。断固としてそう言える。か?
いやいや、待て待て
俺はあの時少しでもそういう期待をしなかったか?
しかし、それは年頃の高校生としてはしかたのないことで………
いやでも、俺は別に………
「………」
黙ってしまった和也に思わぬところから横やりが飛んできた
「あのさ~……今日、和也とユーミン、2人でデートしてたでしょ~?」
「ブハァァァァァーーーーー」
由美が飲んでいた紅茶を盛大に噴き出す
「な、何で………? あ、い、いや違うって!かじゅやとは道でたまたまあって」
もののみごとに動揺している
理恵はニヤニヤを一層強め、ニタニタした表情で言う
「別に、いいんだけどさ~。聞き込みという大義名分を使ってそれはどうかと思うな~
それで、それで。チュウとかしたの?
だとしたらさ~。さっきの胸の話からすると、まさか、その直前までいっちゃったとか」
「---!!」
そこには茹でダコになった由美がいた
みられていたのか………?
しかし、こちらもやられっぱなしというわけにはいかない
ニヤリ
「まあ、それはそれとして。理恵、正城。昨日お前ら、ラブホいっただろ」
「「ブフォォォォーーーー」」
今度は理恵と正城が2人そろって紅茶を噴き出す
おお、虹ができた
今日2度目の虹だ
「な、なんで……そ、それを……」
「え、みられた……えーーーー!」
和也はさらに持っていた切り札を出す
「しかも………」
「あ、わ、………わーーーーーーー! その先は言っちゃダメーーーー!」
「正城がロリコンだと思われたんだって?クッ」
「「なーーーーーーーーーーー!」」
和也は最後の最後に噴き出すのを懸命にこらえた
しかし、まあ、たしかに理恵は、中学生ぐらいに見えるし、正城は少し大人びて見えるけど……
ロリコンって……クッ、フフフッ
見ればとなりで由美も顔を赤くさせつつも口元に手を当てて笑いをこらえている
正城と理恵は2人そろって真っ赤だ
結構なトラウマになったのかもな
この情報も北見たちから聞いたものだ
北見の仲間が言うにはラブホのフロントで受け付けのおじさんに白い目でみられ、警察に通報されそうになっているところを、必死に正城と理恵がとめていたそうだ
いやーいい情報ソースができたもんだ
「なるほどね………不良たちとのコネクションをつくったのか。それはいいことだね……」
正城は苦虫を100匹くらい噛み潰した表情でそう言う
「それにしてもねぇ~。お前らの仲がそこまで進んでるとはね~。フフフッ」
「べ、別にそんなんじゃない。あれは、そう、アイスパーティをしただけよっ」
アイスパーティって………
まだ4月だぞ
寒すぎるだろ
「ほ~~。2人で。4月に。ラブホで。アイスパーティ」
「んが~~~~!もうっ!和也とユーミンが初めてラブホに行く時は、ぜっっっったい写真撮ってやるんだからっ!」
理恵、そいつは逆ギレってやつだ
ほら、由美もまた顔、真っ赤にしちゃったし
それに多分、そんなことにはならないだろうしな
そんな他愛もない話をしていると、もう出発の時間になっていた
「black crow」には正式なユニホームみたいなものはない
ただ、個人の私服でいいのだが、基本黒を身につける
これは夜目立たないこともあり、それが「black crow」の名前の由来にもなっていたりする
目的地までの移動は基本、徒歩だ
この時間、このあたりでは、人通りも、車通りも少なくなる
和也は大島グループの廃ビルの近くのビルの屋上で、パソコンと無線装置をセッティングした
和也はメンバーが胸に付けた小型カメラから様子がうかがえる
時刻は19:55
作戦開始まで、刻一刻と迫っていた
もうメンバーは規定の位置で待機している
すると、インカムから声が漏れ出てきた
「理恵、緊張してる?」
「まさか。私がこんなことで」
「フフッ―――女の子とは思えない勇敢さだな」
「………正城は……私が……女の子らしい方がいいの?」
「まさか。―――どんな理恵でも大好きだよ」
「!! ………うん、最高だよ。私も愛してる」
「「………」」
この回線は解放信号だ
つまり、この会話はばっちり和也と由美にも届いているわけで………
「「………………………………………」」
2人そろって、作戦前におなかいっぱいになっていた
時刻は19時59分30秒
30秒前…………20秒前…………10秒前…………5、4、3、2、1
「作戦開始!」
「ガラガラガラッ」
和也の作戦開始の合図とともに正城が扉を大胆にあける
中の不良どもが一斉にこちらを振り向く
「今宵は、月がきれいだ………なのに、なんだ貴様らは、だらしない。
ありがたく思え、この俺が月にかわってお仕置きしてやるっ」
正城のセンスは武芸にのみ発揮される
こういう台詞のセンスはない
が、それゆえか………
中途半端にパクってしまう
和也と由美と理恵は例外なく、その場でコケた
ありがとうございました
次回は頑張ってアクション多めにするつもりです