序章
ダン、ダン、ダン……
リノリウムの床にボールを弾ませる。相手選手は5人、対して味方の選手も5人。ここで俺がとれる行動は二つ
1 自らゴール下に切り込んでレイアップを狙う
2 ゴール下のチーム一、背が高い宮野にパスを出す
一瞬の逡巡の後、俺は右斜め前に大きく足を踏み出した。予想どおり、宮野のマークが甘くなった
俺はその場でジャンプし、チェストパスの構えをとる。勝った。そう思った時だった
「!」
宮野の前に人影。バスケ部の神谷だ。こころなしかその顔には笑みが浮かんでいる
「しまった。読まれていたか……」
神谷の笑みがいよいよ確信的なものに変わる。切り込みとみせかけての宮野のへのパスは読まれていたらしい。ここまでか……
「なんてな」
「!」
すでに、ショルダーパスの構えにうつっていた俺はそのまま右手一本で首の後ろにボールを通し、手首の力でボールを送り出した
「由美!」
ゴール左下で完全にフリーになっていた由美は華麗にジュンプシュートを放った
パシュ
ピピー
「負けた……バスケ部の俺がいながら……」
神谷は5時限目の体育の後、6時限目の物理は机に突っ伏していた
みかねた教師が出席簿でコンコンと神谷の頭をたたく
「おーい、神谷。起きろ。」
「………」
「返事がない。まるで屍のようだ」
いえ、生きてます
そっとしておいてあげて下さい
しかし、その教師はなおも、
「神谷、好きな髪の色は?」
「黒」
「性格は?」
「ツンデレ」
「大きさは?」
「D」
「よし、問題ないな」
かわいそうに、自分のパーソナルデータをばらされた神谷はまだ、起き上がることはなかった
「なあ、最初っから試合の流れ全部読んでたのか?」
放課後、ようやくショックから立ち直った神谷は俺と話すために机に近づいてきた
回りの奴らは、急いで帰り支度をするもの。教室でだべっているもの。様々である
俺が通う、私立陽明学園は東京都内にある。寮はあるが、全寮制ではない。電車通学するもの。バス通学をするもの。徒歩で通うもの………様々である。
俺はこの喧騒に包まれた空間が嫌いではなかったが、この後に用事を控え、この場をすぐに去りたかったが、まあ少しくらいなら話に付き合ってやってもいいかと思い神谷に向き直った
「いや、そういう訳じゃないよ。まあ、ただああいう展開になったらいいなとは思っていたけど」
「はあ……恐れ入る。まあ、いいや。後、他の二人も随分、こっちが攻めにくい動きをしてたな。あれもお前が指示したのか?」
俺は由美、宮野、あとの二人はあんまり運動ができない奴とチームを組んでいた。俺が彼らに指示したのは、試合中自分が決めた一人にずっと張り付いていて。これだけだった
俺はそうやって相手のパスコースを潰しておいて、カウンターを狙いにいった
「参ったよ、やっぱ戦術じゃ、かなわない。時間とらせて悪かったな」
神谷は、俺の説明をきくと、立ち去って行った
「ふう、やれやれだな」
そういって、ため息とともに肩の力をぬき、ふと時計をみる
「げ!? 4時半!」
思いも寄らず、時間を使ってしまったらしい。待ち合わせは、5時。場所はここから電車で30分の所だ
「ギリギリだな」
俺は鞄をひっつかむと慌てて教室をでた
学校近くの駅からの電車にギリギリで間に合った俺は電車の中で、車窓から見える景色を眺めていた
21世紀、人はこの世紀を自動化の時代と呼ぶ。科学技術が大きく進歩し、ありとあらゆるものが自動化された
車は前の車との車間距離を一定に保ち、前の車がとまったり、赤信号を感知すれば自動でブレーキがかかるようになっている。つまり、行き先さえ設定しておけば、眠っているだけで目的地につくのである
バスだって無人運転だし、今乗っている電車だって車掌とよばれる人間はいない
目的の駅に着くと時計の針はすでに5時をさしていた。目的地までは、さらに徒歩で10分ほどかかる
「はぁ……」
遅刻決定である。まあ仕方ない。俺は開き直ってゆっくりと歩きだした
自動化が進むとともに、(車の排気ガス)という単語はすでに死語になりつつある。燃料電池、電気、メタンハイドレード。この三つのエネルギーを組み合わせて走る車が「トゥルー・ハイブリット車」
という名前で売り出され、今はこれが主流となっている
なので排気ガスなど、ほとんどでないのである。余談だが喘息の患者は減少の一途をたどり、今ではほとんどいない
閑話休題
目的地にたどり着いたのはやっぱり10分後だった。廃ビルである。俺は静脈認証システムに右手のひとさし指をのせ建物内に入った
廃ビルの中は薄暗い。視野は半径3メートルといったところだ
入口から階段へ向けて黄色いラインがひいてある
俺は慎重に一歩一歩進んでいき、階段に足をかける╾╾╾一歩目であしをとめた。ゆっくりと上を見ると
前髪のあたりにラインがひっぱってあったそのラインを目で追うと、頭上には直径30センチメートルの風船があった。
やはり、黄色いラインをはり、足もとに注意を向けておいて罠は上にある。常套手段だ。
そして、慎重に一歩一歩進み、階段の踊り場に足を踏み入れた瞬間
ビーーーーーーッ
「!?」
すごい音が響き渡る。待て、どういうことだ。慌てそうになる自分を何とか抑え思考する。
罠が来る前兆だというのはない。そんなのは必要ない。とすると何かの罠の併発か?
俺はしばらく身構え、何も起こらないのをみると再び歩き始めた╾╾╾
バキィィッ
「………」
なるほどさっきの音はあれでパニックをおこさせ慌てて階段を上ろうとすると床板を踏み抜くというものだったか。
紙一重で足を引き戻した俺は冷や汗がタラリと流れる感覚を味わった。
ようやく二階の部屋のドアの前に立てた。もう罠はないだろうと思いながらも慎重にドアノブをひねる。そこにはいつものメンバー。
「よお、遅れてわ╾╾╾」
ドカッ バキバキバキバキッ
俺は重力を身をもって体感した
こんな感じで。
次は仲間の紹介をするつもりです