外伝なのかな? 数百年後のある日-3-最終話
ジークは父の皇帝から言われていた通りコバタ町に着いてすぐにキサラギ邸に向かった。
「ジーク様、そんなに不機嫌な顔をしないで下さい。キサラギ序爵に失礼ですから」
3人はキサラギ序爵に面会を求め、待っているところだ。
応接室らしき部屋に通されジーク殿下の態度について話していた。
「いくら爵位持ちとは言え、こんな田舎しか治めれない田舎貴族だろ。しかも序爵って爵位もちでも最下位も最下位、かろうじて爵が付いているってだけだろ」
「そうは言われても、キサラギ序爵は皇帝陛下のお気に入りでもあります」
「そこだよ、なんでこんな田舎貴族がお気に入りなんだ?父上が信じられない!それに、十分気をつけるようにとも言われた」
「気をつけると言いますと?キサラギ序爵が何かたくらんでいるとか?」
「いや、何か画策しているとかそう言うのではないようなんだが、失礼な態度を取らないようにと言っていた。でもだ!なんで皇帝の後継者である俺が、たかが序爵に下手にでないといけないのだ?」
「はぁ、まぁ、確かに…」
「そうだろ!?だから俺は俺のしたいようにする!」
そこへキサラギ序爵が部屋に入ってきた。
「お待たせしました」入ってきたのは年齢はたぶん15歳くらいだろう、背もそれほど高く無い。
幼さの残る顔立ちをした男性だった。男性と言うよりかろうじて少年の域を出たかなと思える感じだった。
「私が現キサラギ序爵を承っているクスタと言います」
「私がジークフライドだ」まったく尊大に返事を返した。
あ~あ、本当にあんな態度で言っちゃったよ。従者として付いてきた2人はそう心の仲で突っ込みを入れた。
一通りの挨拶を交わして話は始まった。
「父である皇帝陛下よりキサラギ序爵に会い直接書簡を渡すようにと言われてきた。これがその書簡だが中身を教えてもらいたい」
「ははは、それはなんとも直接的な言い方でございますね」
「ただの書簡を皇帝陛下の実子である私がわざわざ運んだのだ、その中身を聞くのに何が不都合ある?」
「それでしたら、運んでいる途中で中身を見てみればよかったではありませんか?」
「イヤ、それはできん。まがりなりにも皇帝陛下より手渡すまでくれぐれも開封無きようと言われていたからな。しかし届けたあとは関係ない。手渡したそのほうから話してもらうにはなんら不都合は無い」
ジークは胸をはって言っている。
「もし聞けなくとも私から無理やり取り上げれば良いと?少なくとも一回は私の手に渡して私が開封したものですからね」
クスタがその真意を正確に読んで見せた。
「その通りだ、皇帝の実子である私の命を拒むこと無かろうな」
「いやはや、これはなかなか生意気に育ったものだ」
「なんだと!我に対してその言いようは不敬ではないか!覚悟はあるのか!」かなり激昂した声を発した。
従者の者達もこれはまずいと思っているようだ。
いくら爵位もちでも序爵など貴族の中ではなんの力も無い、殿下の気分を害しただけで爵位を取り消されるだろう。
ジークの怒りは激しく、とてもこの場で収まりそうにない。
「はぁ、これは参ったね~、私から爵位をとりますか?まぁそれでもいいですけどね」
「言ったな!覚悟しておれ!」
そこに、隣の部屋に繋がるドアが開いて1人の人が入ってきた。ジークの真後ろだ。
「そんな短気を起こすでない」
「なんだと!俺を短気だと!」そう言って振り返ってその人を見た。
「クスタ殿、申し訳ない。我が息子の数々の無礼、許していただきたい」
そこに見たのは自分の父、皇帝であるその人がクスタに対して頭を下げている姿だった。
「父上、なんでこんなところに?それになんだってこんな奴に頭を下げているのです?!こんな無礼な奴に丁寧にすることなど無いではないですか!」
「なんだと!」皇帝はそこで息子に向かって大声を張り上げようとした。
「まぁまぁ、落ち着いて、皇帝さん。私は気にしてませんから。それに爵位は本当に取り上げてもいいですから」
「イエ!それはできません。爵位はぜひ受けてもらいたい。できれば公爵を受けてもらい」
「そんなことしたら絶対に拒否しますよ。そんな地位要らないんですから。下手に地位なんかあると国政に関わらないといけない」
ジークはポカンとしている。
なんだって皇帝である父がここにいるのか?どうしてクスタに対してこんなに低姿勢なのか?なんで公爵なんて地位を受けて欲しいなんて言うのか?そしてなぜそれを断るのか?公爵と言えば皇家に最も近い地位でこれ以上は望めないものだ。
「父上、どうしたんですか?」声のトーンが格段に落ちてしまっている。
「あ~あ、皇帝さん、何も教えずにここによこしたんですね。ちょっとは話しておいてくださいよ」
「申し訳ありません。ジークを信じてのことでしたが私の目がいささか曇っていたようです」
「そんなことないよ、皇帝さんだって若いときはそうだったじゃないですか」
「それを言われるとお恥ずかしい」
皇帝は昔からの知り合いのようにクスタと話しているが、丁寧な言葉遣いは忘れていない。
そして今までジークが見ていた上からの物言いはまったく無く、どちらかと言うとへりくだった言い方を心がけているようだ。
「ジークよ、お前の物言いはいささか私を落胆させたぞ。私からの書簡を届けるということは、届けた先にも私に対するように接して欲しかったものだ。実の息子にわざわざ託して届ける先なのだからな」
「…申し訳ありません」
「しかも今回はクスタ殿への書簡だ、より一層気を使ってもらいたかった」
「父上、それはどういう…」
「まぁ待て、今説明しよう」
「あんまり大げさに話さないで下さいね」クスタが横から言ってくる。
「そうしたいところですが、なにせ事実だけでも信じられないものですからご容赦下さい」
「ハァ…」クスタのため息が出た。
「こちらのクスタ殿だが、大地の守護者にしてこの星の守護者、ドラゴンを従える万能の方だ」
そこからの皇帝の話は、ジークの想像を絶する話だった。
皇帝はクスタこそがこの国での最強の軍を持ち、同時に皇家を含めたすべての人々、はては生物すべてを守っている存在だと。
ジークは正直なところ半信半疑であった。
父、皇帝の話が荒唐無稽の御伽噺に聞こえたのだ。
人類・生き物すべてを守っている?星空の中に生活する者?太陽すら壊すことができる者?
話が一段落したところでジークは皇帝に声をかけた。
「父上、いくらなんでもその話は信じられません。この者がそんな者であるなど到底信じられません」
最初に比べるとだんだん話が大きくなってくるのだ。
いくらなんでも『空から降りてくる大悪魔を倒すことの出来る唯一の方』っていくらなんでも御伽噺すぎる。
そもそも大悪魔ってそれこそ昔から伝わる御伽噺ではないか。
「わしの言葉が信じられないのか?」
「まぁまぁ、ちょっと話が大きくなりすぎですよ」クスタが言ってくる。
そりゃあそうだろう、あんな話信じられるわけがない。
「クスタ殿、そんなことありせん。あれでも足りないくらいです」
「私が言ってるんですから、ちょっと落ち着いてください」
皇帝である父をまるで諫めるように言っている。あのクスタという者の態度も気に入らない。
「えーと、ジーク君。まぁ話だけ聞いてもわかんないよね。詳しく説明するから」
そう言って部屋が急に薄暗くなった。
「エリアス、頼む」
「わかりました」クスタの声に女性の声が返事をした。
「ちょっと急ぎ足で現在のこのブルーマーブル星、って言ってもわからないかな?」
「私も皇帝の息子だ、ブルーマーブルくらいわかる。我々の大地のことであろう!」
俺が何も知らないような言い方はやめろ!面白く無い。
「我々の大地か、まぁ当たらずとも遠からずってところかな。じゃぁブルーマーブルを取り巻く状況を説明するね」
そう言うと帝都の精密な絵が壁に出てきた。
「これはわかるね」
「当たり前だ、我が帝都ではないか」
そう言った直後その絵が動き始めた、どんどん帝都が小さくなり遥か上から見下ろした絵になっていく。
「なんだこの絵は?」
絵は止まることなくどんどん帝都は小さくなっていく、そして帝都が点になりその回りにも気が回る。
そしてどれくらい上から帝都を見下ろしているかわからないくらいなり、目の前には丸い絵が出ている。
「これがブルーマーブル星、我々の大地だ」
はぁ?我々の大地が丸?一応知識で知っているがこんな感じだとは信じられない
「そして我々のこの星を目指してやってくるものがいる、それがこれがジアトリマと呼んでいる宇宙生物」
そう言うと魔獣と思われる絵が出てきた。
「初めてみる魔獣だな」
「ハハハ、確かにそうだね」
「これがどうしたんだ?」
俺が不機嫌に声を返した。
「この生き物が我々のブルーマーブルを狙っている」
「それがどうしたのだ?普通に討伐すればいいではないか」
「簡単に言ってくれるね、でもこれの大きさがだいたい80メートルから100メートルくらいの大きさと知ってもそう思えるかい?」
「は?そんな巨大な魔獣など居るわけがないではないか」
「さっき言ったよね、宇宙生物だって」
「宇宙生物とは、魔獣とは違うのか?」
「まったく違う!、魔獣など宇宙生物に比べれば大人と赤子のようなものだ。イヤ、もっと違うな」
薄暗い部屋の中で動く絵はどんどん変わっていく。
ジアトリマと呼ばれるものとドラゴン、人間が並んだ絵が出てきたりした。大きさの違いが一目でわかる。
その後どんどん絵は変わっていった。
そのつどクスタが話をしてくるが、信じられない気持ちで聞いていた。
話や説明は夕方まで続いた。
「ここまで話しても実際のところ信じてないようですね、実際そうだと思いますよ。夕食の時間ですからここまでにしましょう」
クスタはそう言って父をともなって部屋を出て行った。
「殿下、大丈夫ですか?」
護衛の2人が声をかけてくる。
「お前たちはどう思った?」
「我々は皇帝陛下より事前に少し話を聞いておりました。まさかあそこまでの話とは思ってもいませんでしたが」
そこへ女性が声をかけてきた。
「殿下、どうぞこちらへ。お部屋にご案内いたします。お着替えのあとに食堂にご案内いたします」
そう言われて部屋を出て行った。
食事は正直言って今まで食べたことの無いような味だ。
見慣れたものもあれば見慣れないもの、どれも最高にうまい。
料理人をスカウトしてやろうかと考えた。
「ジークフライドさん、明日は先ほどの話の証拠をお見せしますので楽しみにしていてください」
「わかった、それにしてもその呼び方は不敬ではないか?」
「これ!失礼なことを言うでない」父上が言ってくる。
「あんまり気になるようでしたら、お父上と相談して私に処罰を下してもかまいませんよ。爵位を外してもらってもかまいません」
父があわてて口を開いた。
「クスタ殿、そういじめないで下され。爵位を外すことなどありえません。できれば中央に来て欲しいくらいなのですからな」
「ハハハ」クスタは笑い声を返した。
翌日、朝食をとったあとエリアスと言う女性に案内されて地下に降りていった。
父である皇帝も一緒である。
護衛も無く、こんなに無防備にしている父上をはじめて見た気がする。
そこから見たことも無い乗り物に乗せられ連れて行かれた先は、目の前に湖のあて邸宅だった。
そこでなれなれしく話しかけてくる人を適当にあしらい、クスタのあとについていった。
クスタは、湖のほとりまで行き「ちょっと待ってくださいね」そう言ってきた。
父が「見ものだぞ、わしも初めて見たときは驚愕したものだ」
その直後湖が目の前で割れていった。
あたかも見えない壁があるかのように綺麗に水が割れている。
そして割れた水の先から巨大な船ではない、しかし少しそれに似た形の物が出てきた。
巨大なものが目の前までやってきて、階段が降りてきた。
なんであんな巨大なものが空中に浮かんでいるんだ?
「どうぞ、案内します」クスタが声をかけてきた。
父上もそれについていく。
案内された船らしき中は見たことの無い空間だ。
「窓は無いのか?」案内してくれているエリアスと言う女性に声をかける。
「どうぞこちらです」
案内された先は小さな部屋で窓がついていた。
父上やクスタが先についていた。
窓から外を見ると、地上から徐々に離れていっているのがわかる。
「なんでこんなものが空を飛べるんだ!危ないんじゃないか?!早く下に降ろせ!!」
あのときの私は少し気が動転していたのだろう、かなり大きな声をあげてしまった。
「大丈夫だ、少しは落ち着け」父上が声をかけてくれる。
「そうは言っても初めてのことだから、皇帝さんだって初めてはあんな感じだったよ」
クスタが父上に言っている、まるで見たことがあるような感じだ。
「言わないでいただきたいですな」ちょっと恥ずかしげな表情をした。
そのまま宇宙と呼ばれるところまで連れて行かれた。
宇宙、
そこから見る景色は想像を絶するものだった。
そして目の前に広がる光景を見て、初めて父上の話が本当であると信じることができた。
眼下には以前学術の時間に教わった我が大陸が見え、他の大陸も見える。
目線を移せば見たことも無い船のような、しかし違う形の巨大なものが100や200ではない数が並んでいる。
「こんなものを何に使うんだ?」つぶやいてしまった言葉に使用人のエリアスが答えてきた。
「昨日話していました、ジアトリマからブルーマーブルを守るためです」
「昨日の話は本当だと言うのか?」
「当然です、殿下も本心ではそう思っているのでは無いのですか?」
そうだ、認めたくはないが昨日の話は真実であろうと思っている。
ここまで見せられたものを考えると、どうしてもそう結論づけられる。
「もともとは私たちと初代司令によってこうなってしまいました、その後始末のために代々キサラギ家は動いております。この星の人に迷惑をおかけして申し訳ありません」
エリアスと言う者はそう言ってくるが、初代と言うと初代キサラギのことか?
「初代と言うとキサラギ家の初代のことか?」
「はい、私はそのときより稼動しております参謀、及びサポートアルティシファリクリエイトであります」
「そのときからって、もう数百年もまえのことではないのか?」
「そうです、あなた方の言うゴーレムにあたりますね私は」
「そんなバカな!お前のような話もして動きも滑らかなゴーレムなど聞いたことないぞ」
「そうですね、でもこれを見てください」そう言って右腕を肘からはずし左手で持って見せた。
私のそれまでの常識がまたもや崩れ去った。
呆然としてしばらく動くことができなかった。
そのあとは何を見ても考えることが出来なかった……
帝都に戻り父上と2人きりで話をした。
皇帝の執務室である。
あそこから戻ってきて、数日間は何も考えられなかった。
そしてその数日間で考えたことがあった。
「父上、しばらく旅に出たく思います」
少し微笑んだように皇帝は声を返してきた。
「どうしたのだ急に?」
「父上はわかっているのではないのですか?私はあまりにも無知でありました。もっと世の中を見なければいけないと痛感しました。そしてクスタ殿が守ろうとするこの大地に住む者たちを見て回りたいと感じたのです」
皇帝である父は微笑むと同時に複雑な表情をした。
「そうか、わかった。ただし1人で行くのもどうかと思う」
「はい、それにつきましては、あのとき護衛についた者、あの2名を連れて行こうかと考えております」
その後、ジークフライドはしばらく宮殿から姿を消した。
そして再び姿をあらわしたあとはそれまでとはまったく違う青年になっていた。
皇帝を継いだあとは歴史に名を残す治世を行ったと言われている。
外伝なのかな?はこれにて終了です。
次回は本伝に戻ります。