46話目 ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)
タスクin湖の邸宅、秋終の月22日
月に一度ガウスレバス領内の村を巡回して診療するのに合わせて、湖の邸宅に来ていた。
庭にはドラゴンのウィーディが来ていた。
「おかえり、タスクよ」
「ただいま」俺は普通に返した。
「タスクよ、我はそなたと色々話がしたいと思っていたし、そなたも我に話をしてくれると以前言っていた。しかしなかなかその機会を得ることができず、気配を感じて急ぎやってきたのだ。タスクよ時間はとれるか?」
「申し訳ない、それほど時間がとれないんだ」
「そうか、残念だ」ドラゴンが少し気落ちしたのが感じられた、思った以上に楽しみにしていたんだろう。
「そんなに落ち込まないでくれよ、ちょっと試したいことがあって準備させていたことがあるんだ。そこで待っていてくれないか?」
俺はドラゴンを見上げながら言った。
「それはかまわんが」
俺は中に入ってアポロに準備の状況を確認して、エリアスにも手伝わせて機材を外に出していった。
「何をしようとしているんだ?」ウィーディーは興味深そうに聞いてくる。
「ちょっと聞きたいんだが、ウィーディーは人間の町や村を歩いたことはあるかな?または歩いてみたいと思ったことはあるかな?」
ドラゴンはちょっと笑ったようだった。
「そんなことが出来るわけなかろう。もしそんなことをする機会があるとしたら、我らドラゴンと人間が争いをしている以外にありえんだろう」
すなわち人間が居なくならないかぎり、人の町を歩くことは無いということだ。かと言って人間を追い払ったりするつもりも、その理由も無いと言っている。
「しかし、人間の町を色々見て回りたいとは思っていたこともあるぞ」
「今はどうなんだ?」
「出来ないとすでに理解しているからな、歳若いドラゴンならともかくここまで歳を重ねると考えていないぞ」
「では、それが出来るとしたらどうする?」
「はっは!出来るものならやってみたいな」
「ではやってみようじゃないか」ドラゴンは驚いた顔をしている。
種族が違いすぎると表情が解らなくなりそうなものだが、それでも俺にはドラゴンが驚いた顔をしているのがわかった。
「できるのか?」好奇心満々で聞いてくる。
「正確にはちょっと違うがやってみたいことがあってな、これは本来は体の不自由な人用に開発されたものなんだが、今までウィーディーからサンプルとして観測していた脳波から、これが使えるんじゃないかと思ったんだよ」
「?我には今ひとつ解らないのだが、どういうことだ?」
「うーん、なんと言うか、自分の感覚を人型のものに移して自分の体であるかのように操作すると言う事だな」
本来はベットから動くこともできないような人のために開発されたもので、人間の脳波を使ってコントロールして人型マシンを動かすと言うことだ。
そのさい、その人型マシンが見たり聞いたりしたことが脳波に変換されてベットに寝ている人間にフィードバックされるのだ。
これを使えば、寝たきりの人があたかも自分自身であちこちに行けるようになったと感じることができるのだ。
ウィーディーはまだ解らないようだ。
「もう少しここの流儀で言うと、自分の意識を人型のものに憑依させるようなものだね」
「なるほど、なんとなくわかったぞ。それでそれを我に使ってみたいと言うことか?」
「そうなんだ、両耳の上の辺りと後頭部のあたりにこれを付ければいいはずだ。つけてもらえるか?」
「わかった、楽しそうだな。たのむ」
そういってウィーディーは頭を地面に擦り付けるように楽な姿勢をとってくれた。
機材を取り付け早速装置を動かした。
「これは目をつぶっているとこの人形の見たものや触ったものを感じることができる、目を開けると自分の体に戻れる。いいか?」
そう言って準備していた人型マシンを指差しながら説明し、部下に装置を付けさせていった。
「わかった、試してみよう」そういってウィーディーは目を閉じ数秒間待った。
10秒ほどだろうか、人型の人形、この場合は端末と言っていいだろうが立ち上がった。
「これはいい、人間の目線とは随分低いものなのだな。しかしこれはいい!驚きだ!」人型人形の口から出た言葉はドラゴンの感想だ。
「自分の本体を見てみるといい」
そういうと人型に憑依したウィーディーは自分の本体に目線を向けた。
「いやー!自分自身を見上げることがあるなんて思いもよらなかった」
「じゃあ、本体の目を開けてくれ、数秒で戻れるはずだ」
ウィーディーは自分自身の目を開けていくと、人型人形は急に崩れ落ちた。
「おお!これはすごいぞ!」今の気持ちを本体でも言ってきた。
「本体に戻るときは人形のほうをどこかに座らせるなり、寝かせるなりしてからがいいな」
「そうだな、初めてのことなので気がつかなかった。それでわざわざこのような魔道具の準備をしてくれたのは、我にこれを使って人間の町を見せてくれると言うことなのか?」
「そうなんだ、ドラゴンってここでは人間から随分大事にされているようだけど、人間のことってあんまり知らないんじゃないかと思ってね。それで案内するから一緒に見て歩かないかと考えたんだ。どうだろうか?」
「ははははっ!それは嬉しい、今までに体験したことの無いことだ。こちらからお願いしたいくらいだ。それにタスクと話をする時間も取れるしな」
その後ウィーディーにいくつか注意事項の話をして、巡回する村に一緒について来ることになった。
ついて来るといっても、本体はここにいるので目を開けると数瞬で意識はここに戻るのだけれど。
感想よろしくお願いします。