43話目 疑問は深まる
本日2度目の投稿です。
村人達は先ほど、みんな帰っていった。
マシュリーさんは、タスクさんの話では2~3日は安静にして無理をしないように、最低でも2日おきに3回は診療をするので来るようにと言われていた。
そして俺達はタスクさんに詰め寄った。
最初はサワサだった。
「なんで治るんですか?!」
「なんでって、治らないほうがよかったんですか?」タスクさんが返事を返す。
「そんなことは言ってません!あれだけの怪我を、あともほとんどわからないくらいに治すなんてありえません!」
「サワサ、ちょっと落ち着けよ」俺が止めに入る。
「だって!」
「まあ待て」興奮を抑えるようたしなめる。
そして俺が冷静に聞いてみる、冷静と言っているが心の中ではかなりあせっている。
早く聞きたくて仕方が無い。
「タスクさん、俺達は冒険者をしているので色々なところに足を運びます。しかしあれだけの怪我を普通に歩けるようになるまで治療できる治癒士など見たことがありません。しかも一晩でなんて一層信じられません。しかし現実には俺の目の前で実際にあった!タスクさんあなたはどこで治癒魔術を学んだのですか?そしてどうやって治したんですか?」
タスクさんは少し驚いた顔をしていた、となりに控えているエリアスさんに視線を向けて何か目配せしている。
そしてエリアスさんが答えてくれた。
「私たちにはよく解らないのですけど、ああいった怪我は治癒魔術で治せないのですか?」
はぁ?何を言っているんだ?
「治せるなんて見たことも聞いたことも無いですよ、宮廷治癒士や教会の導師治癒士でもできないと思います」
「そうなんですか、しかしタスク様の治療が実際に治しているのは認めてくれますね」
「それはこの目で見たんですから当然です」
ここでタスクさんが声を出した。
「ちょっと待ってください、すぐ戻りますから」そういって席を立って部屋を出て行った。
5分もしないでタスクさんは戻ってきて「私の治療法について、あなた達がわかる範囲でお話します。いいですか?」
「「ありがとうございます」」俺とサワサが声をそろえた。
「私たちの治療と言うのは、やり方さえわかって手順を間違えず、精密な調整、素早い処置が出来れば誰にでも可能なんです」
そう前置きしてタスクさんは話し始めた。
タスクさんとエリアスさんの交互に話してくれたが、はっきり言って俺にはさっぱりだった。
サワサは途中まではわかっていたようだ。しかしあきらかに後半はサッパリわからないと言った表情をしていた。
そしてサワサが最後に確認したのは「タスクさんは、今までの話を魔道具を使って手順どおりに治療していったということですか?」
「簡単に言うとそうですね」
ここまで話を聞くのに30分以上経っている。
「細胞培養と遺伝子の連結、ナノマシンによる結合と調整、細菌の除去、感染症の排除、それらを短時間で行うのはかなりの技術が必要ですけどね」
また意味のわからないことを言っているが、タスクさんは魔道具を専門に扱う魔導士だろかと見当をつけた。
「ではその魔道具を使えば、私にも同じような治療ができるのですか?」サワサがさらに聞いている。
「そうですね、できるようになりますよ。でもサワサさんは人体の構造や、細菌やウィルスなんてわかりますか?もっと簡単なところでは細胞はわかりますか?」
「イエ、わかりません。それがわからないとその魔道具は使えないのですか?」
「使えなくはないですけど、治療の効果が限定的になります。簡単にいうと私がやるほどには治すことができないと言うことです。実際にはほかにも色々知っておかないといけないことがありますからね」
「そうなんですか…」
俺とサワサはいくつか聞いてみたが、結局話の半分も理解できず部屋を出た。
「どうしましたか?タスクさんとの話は?」
セフォリアさんが廊下で声をかけてきた。
「さっぱり解りませんでした」サワサが返事をする。
「そうですよね、私の病気も治してくれたのですけど説明を聞いてもわかりませんでした。でも私の病気が治ったのは事実なのですからそれでよしとしています」
「セフォリアさんは病気を患っていたのですか?」
「ええ、聞いたことはないかしら?貴族で皮膚病にかかっていて、10年以上も治らないという話を」
聞いたことがある、国中の治癒士に見てもらったが一向に治る気配が無く、一生人目に触れることはないだろうと言われていた貴族の令嬢の話を。
「あの話がセフォリアさんのことなんですか?」
「そうですよ」そういってにっこりと微笑む。
「タスクさんって俺達が思っている以上の治癒士のようだな」
「あら、タスクさんは治癒以外にもかなりの攻撃魔術も使えるそうですよ。私も衛士の1人に聞いただけなので詳しくは知りませんけど、すごいらしいです」得意げな表情をして自慢しているように見える。
セフォリアさんはタスクさんが高く評価されるのが嬉しいらしい。
「!!」
治癒士としての腕は一流で、攻撃魔術も使えるなんてすごすぎる!
その後、数日滞在をしピコの実も幾度も採りに行き『もういらない』って言うほど食べた。
ピコの実もうまかったが、タスクさんのところで出された料理もうまかった。
特別豪華と言うわけではないが、味付けが今まで味わったことのない深みのある複雑な味だった。
そしてこの村を離れるときにタスクさんがお土産をくれた。
「塗り薬です、怪我をしたときに塗ってください。解毒効果もありますからある程度のものだったら問題ないです。それと風邪薬です、病気になったときに飲んでください。どちらも有効期限は1年ですから」
そういって2種類の薬をもらった。
薬というものは治癒士にかかれない庶民の物だが、タスクさんがくれるものなのだからそれなりに効果があるのだろう。
俺とサワサはお礼を言ってこの村を離れていった。
その後、この薬が信じられないほどの効果があり、ギルドでその薬を手に入れるため調査することになるのは別の話である。
※タスクとエリアスが部屋を出て廊下で話している様子
「ある程度説明しよう、多分わからないだろうけど。それに少しでも医療技術を話すことによって彼らにとって今後の参考になるかもしれない。たとえ一晩でも一緒に過ごした人にまったく説明しないのと言うのもなんだか後味が悪いしな」
「そうですね、少しでも医療技術と言うものに目を向けてもらえるようになればいいですから」
俺はこの星に『医療技術』を最低限広めたいと思っている。
一部の特権階級しか治癒士の治療を受けられないなんて、最低限度の生活が出来ているとは思えないからだ。
技術である医療は知識を正確にもてば誰でもある程度できるものだ、太古の地球でも医療技術が一般化するだけでずいぶん平均寿命が延びたそうだ。
「よし、じゃあ、説明してみよう!」どこまで理解できるか不安だが。
「私もフォローしますので」エリアスが言ってくれる。
「頼む!」
俺とエリアスは部屋に戻った。
どうでしょうか?
日常の活動が、まだまだここではオーバーテクノロジーなところがあります。
仮定や結果が魔法と同様に見えます。
考えてみれば今のテレビやエアコン、普通の電話なんてものは500年も昔の人が見たら完全に魔法と思ってしまうのではないでしょうか?
仮にそう思わなくても、未知のものであることは間違い無いと思います。
現在の私たちも、千年や1万年先の技術を見ることができたら技術の範疇を超えて魔法のように感じるかもしれませんね。