41話目 ケガ人
ともかく投稿です!
その後食事を終わらせ、食堂でタスクさんと話をした。
「ピコの実を腹いっぱい食べたくて来たのですが、市以外の日は宿屋が開いてないなんて知らなかったです」
「そうでしたか、しかし市場以外で常時開いている店ってあまり無いですよ。それに開いている店も食料や雑貨みたいな生活必需品中心なので果物みたいなものは市場以外ではほとんど出回っていないですよ。果実は市場の開く1~2日前に取りに行って大事に保管していますから」
「採りに行く?ここで栽培していないのですか?」
「そのようですね、私もここに越してきて日が浅いですけど村の人の話ですとピコの実って栽培が非常に難しくて、自然に自生しているものを採ってくる以外に手が無いそうです」
「そうなんですか、それで一部で『幻のピコの実』って呼ばれているんだ」
「そうなんですか、そこまで珍しいものだとは思っていませんでした。たまに子供達もとってきて食べていますから」
え?今聞き捨てなら無いことが…。
「子供が採ってきているってどういうことですか?」
「言葉の通りですよ、森のごくごく入り口ですけど子供達がたまに自分で採ってきておやつ代わりに食べてますよ」
「簡単に採れるんですか!?」
「簡単ではないですよ、低いところになっている果実は少ないですし、もともと森の奥にあるものですから入り口近くにはあまりありませんから」
「奥に入ればけっこうある?」
「そうらしいですよ、これも話しに聞いたことですけど森の奥に30分くらい入ったあたりからピコの木が多くなってくるらしいです。でも魔物や魔獣が多くて結構危険みたいです。村の人も必ず2人以上で行ってるって聞いたことがあります」
「そうですか、でも大丈夫です。俺達は冒険者ですから魔物退治はお手のものです」
そういって森のどういったところに実がなっているか詳しく聞いた。
しかしタスクさんはそれほど詳しくはないようだ、最低限のことを聞いて明日行ってみよう。
「おはようございます」
水場で顔を洗っていると後ろから声をかけられた。振り返ると綺麗な女性が立っていた。
「あ、おはようございます」少し平たんな声で返事をしてしまった。
誰だこの人?ものすごく綺麗な人だけど昨日は見かけなかったぞ。
「サワサ、あの人は?」隣で同じく顔を洗っているサワサに聞いてみた。
「知らないわよ、私も今朝初めて会ったんだから」
「はじめまして、セフォリアと言います」
自己紹介をしてもらい、こちらも自己紹介、話を聞くとタスクさんのところに手伝いに来ている人とのこと。
こんなに綺麗な人が手伝いに来ているなんて、タスクさん思ったよりヤルナ!
そんなことを考えながら食堂に一緒に向かった。
聞くとセフォリアさんはガウスレバス家の方だと知って驚いた。
この村に居ることが多く、大抵はタスクさんが引き取っている子供達の世話の手伝いに来ているとのことだった。
朝から夕方近くまで、晩御飯の1時間くらい前まで来ているそうだ。
朝食をとりながらタスクさんにピコの実について聞いてみた。
今回は昨日と違い具体的にどのように手に入れられるか聞いてみた。
「村の人に案内してもらったらどうですかね」
タスクさんの意見で森に詳しい人に案内してもらうことにした。
その日の夕方、村人に案内してもらって手に入れたピコの実にかじりついていた。
これだよ、これが食べたかったんだ。
収穫の秋と言うことだが、時期は少し早い。
しかし10数個採ってくる事ができた。
「いやーウマイ!」
「そんなに食べると晩御飯が入らなくなるよ」サワサに言われても関係ない。
もともとこれを食べに来たんだから。
そう思っていると村人が走って来た。
日が沈むまでもう1時間くらいだ、セフォリアさんも帰る準備をしていた。
「タスクさん!けが人です!今連れてくるので準備してください!」建物の前まで来て男性が大声で叫んだ。
声を聞いて中からタスクさんが出てきた。
「怪我ですか!」
タスクさんはこの村の治癒士なのだから患者が運ばれてくるのは当然だろう。
しかしこんなに村人と、と言うより普通の人と接している魔術師なんて見たことも聞いたことも無い。
やはりタスクさんは心の広い人だとあらためて思ってしまう。
「どんな感じですか?!」
「材木が倒れてきて足がつぶれてます!」
少しすると村人に運ばれて女性が運ばれてきた。マシュリーさんだ!
「マシュリーさんだったんですか!急いで中へ!」
隣にある診療所の建物に運ばれていった。
「治療しますので入ってこないで下さい」タスクさんが皆にそう言って扉を閉めた。
足の具合を一瞬見たが、あれではもう使い物にならないだろう。
魔獣討伐のときにあれより軽い怪我をした冒険者を見たことがあるが、その後歩くことに不自由することになり結局冒険者を引退した。
腕の立つ先輩冒険者だったが残念だった。
「これで一安心だな」
「そうだね、明日の朝には治ってるだろうからこれで帰るとしようか」
村人が一安心したようにそんな話をしている。
あれだけの怪我だぞ!安心なんてまだ出来るはず無いだろ!
「おいおい、そんな簡単に言えるような怪我じゃないぞ!」
「ん?旅人さんかい?その格好は冒険者の人だね」俺の少し強い声に対して落ち着いた声だ。
「そうだよ、今日森にピコの実を採りに案内したよ」今日森を案内してくれた人が言ってくれた。
「治癒士さんを知らないのかい?治癒士さんにかかればあんな怪我明日の朝には治ってるよ」
運んでいた村人が言ってくるが、俺だって治癒士の治療を今まで何回も見てきた。
怪我の出血だけだったら確かに止めることは出来るだろう。
しかし明日の朝には治ってるなんて、そんなことができる治癒士なんて聞いたことが無い。
「いくら治癒士だってあれほどの怪我、明日までに治せるなんてそんな聞いたことがないぞ?!」
「あんたの知ってる治癒士さんはあんまり腕が良くなかったんじゃないか?タスクさんなら大丈夫だよ」
「あんたらは治癒士の力を過信しすぎだよ」
村人との話はなんとなく平行線のようだ。
「はぁはぁ…、家内が運ばれたって聞いたがどうなんだ?」
村の方から走ってきた男が診療所前まできて言ってきた。
家内といってるところからマシュリーさんの旦那なのだろう、しかしあんな怪我をしたとなると今後は大変だろう。
「ハルト、やっと来たね。今診療所の中で治療をしているところだよ。明日の朝には治ってるよ」
だから、明日までには治らないって!そんな話聞いたことがないよ。冷たいようだがあの怪我ではかなりの後遺症が残るのは確実だ。
俺だって人の不幸を望んではいないが、あの怪我では無理だ。
「そうか、よかった。じゃあ俺は一息するまで待たせてもらうとするよ。エリアスさんがどんな感じか教えてくれるだろうから」ハルトと呼ばれたマシュリーさんの旦那は、そう言って隣の子供達のいる建物に入っていく。
村人は少し話をして帰っていく。
治療中はどこで待機しているかちゃんと決まっているようだ、ハルトさんは年長の子供に話をして中に入っていった。
あんなに村人から信頼されているなんてタスクさんはすごいな。
あんなに信頼されているんなら、マシュリーさんが今後片足が動かなくなっても仕方が無いと納得してくるだろう。
そう考えて俺も中に入ろうとする。
「タスクさんに任せておけば怪我は心配ないですから、私も帰りますね。明日は少し早く来ます。カシャに伝えておいてください」そうセフォリアさんが俺に言って帰っていった。
セフォリアさんは貴族なんだから、治癒士の力を知ってるはずなのになんであんなに達観できるんだろう?
それともあんまり教育を受けていないのかな?
明日の朝、村人の落胆する顔を見なければいいな。
明日の朝までに投稿したいと思いますがあくまでも希望です。