黒い太陽
心機一転、新しい世界観で小説を書きたくなり、書いてみることにしました。奏です、よろしくお願いします
「私は大罪人よ」
彼は虚ろな灯りの中で呟いた。ふわりと薫る副流煙が咳き込む程濃厚だった。
「……せい……ちゃん…は。どうしてそう思うっすか?」
尊敬すべき私のたった一人の先輩であり、喫茶店の店主をこうも容易い呼び方をするのではなく、“朱藤さん”と呼びたいものだが。如何せんこの呼び方以外で会話を続けてくださらない。故に私はこう呼ぶ。
「あら、決まってるじゃない」
彼はそう言う。その雪のように白い髪を茶色の髪留めで止めながら。くつくつと笑って。
「……私が、友を見殺しにしたからよ」
ああ。この人も。この人も“超能力社会”のせいで狂わされた人なのか。
「……話して、くれないっすか。……私も。私の事、話すっすから」
「あら。話したくないなら話さなくて結構よ。……気になるなら教えてあげるわ、心配しなくとも。……でもそうね、結構長話になる。……色々、面白いところも含めてお話してあげる。……単調な悲劇はつまらないでしょう?」
私は、背筋を伸ばして話に耳を傾けるとしよう。
「はは、人生の途中なんて、みんなそんなもんじゃないっすかね。私はそう思っすよ、せいちゃん」
「あらそう。慰めてくれるのね、優しい子。……それじゃ…お話の時間と行きましょうか」
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昔。そんなに時代を遡らない、未だ平成の世頃の話。私……いいえ、俺は。
日本超能力者協会【天照】その一派【素戔嗚】の捌番手、朱藤誠一として働いていた。
日本超能力者協会【天照】、平安中期に存在する最古における【超能力者】を法的機関として雇うものであり、その時代はもっぱら【櫻刀】。
天皇を護る武官としての役目が多かったらしいが、現代においてはまた別だ。
超能力者による犯罪行為…それに対応する【八咫烏】
世界的に定められた超能力犯罪者、以降超犯罪者と呼ぶ。その危険度基準において、上から四つ目以降、《都市》クラス、そして国と国との戦争、内紛。そういったものに対して日本が投入する最高の戦力にして……全世界より、一人一人が“ヒロシマシティに投下された核爆弾の四分の一”と称される程の圧倒的な超能力者を八人集めた【素戔嗚】が投下される。
この話は、生易しい最強が蹂躙する無双の短篇集では無い。
其れは総じて、国家最高戦力が出るに値した、国を、世界を震撼させた超犯罪者や化物、そして国家間の戦争についての俺の主観の入り交じった記憶である。
「朱藤!!」
同僚の喧しい声で目を覚まし、眠気どころか生気ごと持ってかれそうな平手打ちが飛んでくる。
「喧しいわこの達磨野郎!」
本当、本当に凄まじい程の筋肉量、圧倒的な背丈。
しかしあまりの筋肉量のせいで腕や足が小さく見えるほどの胴体をしていることから、あだ名が“筋肉達磨”。
名を洲宮武臣と言う。
「朱藤。触ってみて気づいたんだがよ! お前の身体も結構鍛えられてきてるぜ?」
「うええ。お前が言うとシャレにならねぇよな……」
「俺は別にゲイじゃねぇよ。それに、あらゆる日本代表の護衛を担当するやつがゲイ差別だなんて、宜しくないぜ」
片目を伏せ、にっこりと不敵に笑う。
「別に。これは差別じゃねーよ。ムキムキ筋肉達磨野郎に筋肉を褒められるだなんて。俺もとうとうムキムキ過ぎて気持ち悪がられる領域に足踏み入れちまったかと思ってるだけだ」
嘆息しつつ。この頃は禁煙でもないので、ゆっくりとライターで煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吸う。朝イチの煙草って奴は、どうしてこうも美味いのかと感嘆しながら、“そこまで言わなくとも……”という顔をした武臣を軽く小突いて、朝会へと足を運ぶことにした。
「気をつけー!!!! 礼ーーーーーッ!!」
総員、ザッ、と小気味よい足音を立て、一斉に頭を垂れる。
「……」
軍帽を被り、俺たちの目の前に立つ男こそ。素戔嗚第壱番、富嶽陽介。国家を代表とする俺たちの中でも最も上であり……、この国家を裏で支える大将格。それが彼だ。
「おはよう、いい朝だな諸君」
にぃ、と快活そうに笑い、手を組んで背に置いて、深呼吸する。
「毎日のようにこの訓練に参加してくれるお前達にも感謝している。……して、今日全員この場に呼んだのは珍しく我々が出張るほどの命があった為だ」
“素戔嗚”を呼ばなければならないほどの任務、しかもわざわざ全員呼ぶ程?…一体どんな面倒事なのだろうか。
「古来より超能力というものは、圧倒的に特異な力であり、扱えるうちは便利だが、同時に耐えきれない人間は異形の徒へと変質させてしまう厄介極まりない力を持つ。…………さて。此度の任務はその異形の徒、異獣の討伐だ」
そこでわざわざ区切り、少し考えて。
「朱藤誠一、洲宮武臣、阿藤袂。お前らには百鬼夜行そのものとドンパチしてもらう」
百鬼夜行。数多の妖怪変化が集まり、行列を成し、街ゆく人間を喰らい尽くすとされる伝説の妖共の祭り。
「…………いや待てコラ。おかしいだろ。そもそもそんなの存在しねぇだろ、今何年だと思ってんだ。……超能力者が陰陽師、異獣が妖怪だ、と言われてたのは一説に過ぎねぇんだぞ」
阿藤袂がそれを言い放つ。それは事実だ。たしかに一説に過ぎないけれど……富嶽がなんの理由もなくそういう例え方をするのだろうか?アイツは説明をしっかりするタイプだし…なによりもこの場合において、ある程度的を得た喩えを持ち出すはずだ。これが冗談じゃないならば。
「いや、それ自体は本当にあったらしいよ。安倍晴明だろうと呼ばれているやつが【櫻刀】の最古参に近かったりするからね。……ただまぁ。1000年に一度のペースで真っ黒な太陽のような異形の徒が出没したと言う。その異形の徒は人間を異形に変える妖術を使い、数多の陰陽師や武士を殺してきたそうな。…………で、千年に一度ってのが……来週の土曜だ」
「…………待て待て待て待て。千年に一度のペースで来る黒い太陽?……なんでそんな毎回来て周期もわかるくらいなら倒せてねぇんだよ」
武臣も突っ込む。理解できる。俺も正直納得が行かない。
「そういう生態をしてるからだ。……異獣の中にゃ、物理法則とは違うものの何かしらのロジックを持って生き長らえる者もいるだろ?その黒い太陽も同じだ。…………安倍晴明が一度倒したかのように思えたが……まぁ、今の世で再復活を果たそうとしているのを見るに、倒しきれなかったんだろうな」
「で、そのロジックが分からない限り、だいたい復活に1000年かかるほどの仮死状態までは何とかギリギリ行けたとしても……殺し切ることはできない。と言いたいのか?」
腕を組み、目を伏せて俺はそう言った。実際、やることを明確にした方が幾らかやりやすい。
「大正解。お前らは安倍晴明すら成し遂げなかった百鬼夜行の大トリ。総ての黒幕。“空亡”を殺してこい」
そうして、我々の『百鬼夜行殺し』は始まった。




