第1話:役立たずの【解析】スキルと、泥濘(ぬかるみ)の大穴
「――いけっ! そのまま逃げ切れ、真紅の流星!」
「くそっ、あの騎手何やってんだ! もっと鞭を入れろ!」
怒号と歓声が入り交じる、王都グランギニアの巨大コロシアム。
眼下のダートコースでは、炎を纏うサラマンダーや、風を裂くように走る六本脚の幻狼など、多種多様な魔獣たちが猛スピードで駆け抜けていた。
これが、この異世界で最も熱狂を生む娯楽にして、莫大な金が動くギャンブル――『魔獣レース』だ。
観客たちが握りしめた馬券(魔券)の行方に一喜一憂する中、俺、トーヤは観客席の隅で一人、手元の羊皮紙にズラリと並んだ数字と睨めっこしていた。
俺がこの世界に転生して得たスキルは【解析】。
魔法も使えず、剣も振れない。冒険者には絶対になれないと笑われた外れスキルだが……前世で競馬のデータアナリストだった俺にとって、これ以上ない「最強の武器」だった。
「……よし、読み通りだ」
俺の目には、走る魔獣たちの頭上に『数字』が浮かんで見える。
過去の戦績、血統、今日のパドックでの状態、さらには騎手との相性。それらすべてを【解析】し、弾き出された総合値――俺はそれを『スピード指数』と呼んでいる。
「第4レース。今日の馬場は、昨晩の豪雨で最悪の泥濘(不良馬場)。スピード重視の『クリムゾン・メテオ』の指数は、開始直後から急降下している」
俺の視線の先で、圧倒的1番人気のクリムゾン・メテオの足が泥に取られ、みるみる失速していく。観客席から悲鳴が上がった。
「対して、全く人気の無い12番、土属性の重装甲魔獣『アース・ゴーレム・ハーフ』。通常時の指数は底辺だが、この最悪の泥濘においては無類のパワーと安定性を発揮する。現在の補正込みスピード指数は……ダントツのトップだ!」
ズシンッ! ズシンッ!
泥をものともしない重低音を響かせ、最後尾にいた大穴の12番が、最終コーナーでごぼう抜きにしていく。
そのまま先頭に躍り出ると、後続を大きく突き放してゴール板を駆け抜けた。
「うおおおおおおっ!? なんだあの魔獣!」
「嘘だろ!? あんな鈍亀が勝つなんて!」
阿鼻叫喚に包まれるコロシアム。
俺はポケットから、12番の『単勝魔券』の束を取り出し、ニヤリと笑った。
オッズは実に300倍。この一陣で、俺は一生遊んで暮らせるほどの莫大な資金を手に入れたことになる。
「……よし、軍資金は十分に貯まった」
俺は歓喜と絶望が入り交じる換金所を背に、コロシアムの地下に広がる薄暗いスラム街へと足を踏み入れた。
ただ賭けて勝つだけじゃ、すぐに飽きる。俺は、俺自身の「最強のチーム」を作りたいのだ。
「目当ては、資金難で潰れかけの弱小チーム。それと……危険すぎて界隈から追放されたっていう、あの『変人発明家』だ」
最強のデータ頭脳と、狂気の発明家。
異世界の常識をひっくり返す、俺たちの成り上がり劇はここから始まる。




