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第49章:終末のセットリスト、魂の解放区


 

その夜、王都は「光の海」へと変わった。


空を覆い尽くす魔神アバドンの巨躯は、

星も月も飲み込み、

地上に完全な死の闇をもたらしていた。

呼吸するだけで魂が削られるような虚無。


だが、その闇の底から、

かつてないほど力強いリズムが鳴り響く。


「――みんな、準備はいい!? 私たちの声を、

この闇の向こう側まで届けよう!!」


ステージ中央、

黄金のスポットライトに照らされたルルノアが叫ぶ。


イントロが爆発した。

クローディアが調整した王都全域の魔導拡声器が、

一斉にルルノアの歌声を増幅し、

空気を物理的な衝撃波に変えて解き放つ。


「客席のボルテージは最高潮だ。

だが、本番はここからだ。

……アバドン、お前は光が欲しいんだろ?

だったら、こいつを食ってみろ。

十万人の『生きたい』というエゴが詰まった、

猛毒の御馳走をな!」


ゼノスがコンソールを叩き、

全区画の魔力スピーカーを「全開」にした。


その瞬間、王都全体で異変が起きた。


「「「「ルルノアァァァァァァァッ!!!」」」」


十万人の市民。


彼らの叫び、祈り、そして命の輝きが、

黄金の粒子となって体から溢れ出し、

ゼノスが張り巡らせた魔導の糸を伝って、

ステージ上のルルノアへと殺到した。


『バフの逆流バックドラフト』。

 

本来、アイドルがファンに与えるはずの活力が、

その百倍、千倍の質量となってアイドルへと還ってくる。

ルルノアの小さな身体に、十

万人の「想い」という名の巨大な魔力が押し寄せ、

彼女の衣装が白銀の光を放って激しく明滅した。


「……っ、あ、あああああああ……っ!!」


ルルノアの視界が白く染まる。

脳を、細胞を、十万人の声が直接揺らす。

あまりの魔力量に、器である彼女の身体が悲鳴を上げる。


だが、彼女はマイクを離さなかった。

「耐えろ、ルルノア。

飲み込まれるな。

お前はただの依代じゃねえ。

この巨大な愛を束ねて、

あいつに届ける『唯一のプロ』なんだろ!」


アバドンが、

巨大な腕を振りあげた。


一振りで王都の半分を消し飛ばす死の鉄槌。


同時に、奴の全身から「虚無」の闇が溢れ出し、ルルノアという光を消そうと殺到する。


「させない……! ルルノアが歌ってる間は、

指一本、触れさせないんだから!」


アイルが叫び、黄金の軌跡となって空を駆けた。

逆流した魔力の一部がアイルにも波及し、

彼女の『月虹』は太陽のような輝きを放っている。

 

「聖なる合唱コーラスは、この私が守ります。……一欠片の闇も、このステージには通しません!」


カルティアの銀盾が、

十万人の声を「物理的な城壁」へと固定した。

魔神の鉄槌が銀の壁に衝突し、

王都全域を揺らす衝撃波が走る。


だが、盾は割れない。十万人の「応援」が、

不落の防御を支えていた。


「……みんな……聴こえる……。

みんなの、声が……!」


ルルノアの中で、

十万人の想いが一つの「歌」として統合された。


彼女は、自分の中に渦巻く巨大すぎる魔力を、

恐れることなく「標的」へと向けた。


「……おじさんが言った通り。

貴方は、ただの寂しがり屋さんなんだね。……私の光を全部食べて、それで満足してくれる?」


ルルノアが、アバドンの巨大な瞳に向けて、

優雅に、そして力強く「ウインク」を放った。


それは、ファンの心臓を射抜く。


『ファンタズマ・アロー』。


シュパァァァァァァァァン!!


ルルノアの瞳から放たれたのは、

黄金に輝く「愛の重圧バフ」そのものだった。


通常、アバドンの闇に触れた魔力は瞬時に吸収される。

だが、この矢は違った。


十万人の「生」の執着を凝縮したその矢は、

アバドンの闇の皮膚を吸収しきれる限界を超えた質量で突き抜け、

奴の顔面の中央へと深々と突き刺さった。



――ガァァァァァァァァッ!!?



アバドンが、

生まれて初めて「痛み」と「驚愕」の咆哮を上げた。


飲み込もうとした光が、

喉を焼き、

内側から肉を食い破る。


魔力を吸収する特性そのものが、

あまりの「過食」によってオーバーロードを起こし、

アバドンの漆黒の肉体に、致命的な「ヒビ」が走った。


「どんな大食漢でも、世界を丸ごと飲み込むことはできねえ。……ヒビが入ったぜ。……あいつの闇の奥に、本物の『弱点』が見えた!」


ゼノスがコンソールを最大出力に叩き込み、

ルルノアに叫んだ。


「ルルノア! 最後のサビだ!

最高のギフトを、あいつに叩き込んでやれ!!」


「――届けぇぇぇぇぇ!! 私たちの、全部の想い!!!」


ルルノアの絶唱とともに、王都の光が一点に集束する。


魔神の顔面のヒビから、

内側の光が漏れ出した。

闇が、光によって内側から引き裂かれようとしている。


「……アイル! 今だよ!!」


ルルノアの呼びかけに応じ、空中で待機していたアイルが、

黄金の剣『月虹』を天高く掲げた。


ルルノアから放たれる全魔力の余波を吸い込み、

その剣はもはや実体を持たない「光の柱」へと変貌していた。


「プロデューサーとして言わせてもらうぜ。……お前らのライブ、最高だったぞ」


ゼノスが不敵に笑い、最後のスイッチを押し下げる。


アイルが、光り輝く空から、

魔神アバドンの喉元に向けて急降下を開始した。

 

勝利の予感と、爆発する熱狂。

王都十万人の叫びが一つになり、物語はついに、最後のサビへと突入する。

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