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第42章:地を這う腐翼、不落の銀盾ライブ




南の境界は対照的な「静寂」と「死の灰」に包まれていた。

 


かつて草原だった場所は、

今や見渡す限りの灰褐色に染まっている。


空を覆うのは雲ではなく、

始祖級ズー『地を這う腐翼』が吐き出す、

濃密な腐敗の煙。


それは吸えば肺が焼け、

触れれば鋼の鎧が数秒で土へと還る

「風化のテリトリー」。


ここには風もなければ、

生命の鼓動もない。


ただ、巨鳥が地面を這う不気味な衣擦れの音だけ

が響いていた。


「……酷い有様ですね。世界が、泣いています」


その死の平原のただ中に、

一つの「巨大な城」が動いていた。


否、それは城ではない。

カルティア率いる重装盾騎士団の進軍である。


数千の騎士たちが、

隙間なく巨大な盾を重ね合わせ、

円陣を組んで進む。


その中心には、

クローディアがこの日のために開発した

超広域魔導通信器『アーク・ソナー』を積んだ魔導戦車が

鎮座していた。


「……南はカルティアで正解だ。

あいつの信仰心(ガチ恋)は、

アイルのような爆発力じゃねえ。

自分を消して、ルルノアの声を

世界に広げる『共鳴力』だ」


後方の指令室でゼノスがニヤリと笑う。


「カルティア、ルルノアの声を受け取れ。

……お前の中に、

新しい『聖域ステージ』を作るんだ」


「仰せのままに、プロデューサー」


カルティアが目を閉じ、

両手を胸の前で組む。


その瞬間、ルルノアの歌声が、

通信機を介して、

カルティアの魔力回路そのものを

震わせて響き始めた。


「――♪ 恐れないで……光は、ここにあるから……!」


ルルノアの清廉な歌声が、

カルティアという一級の『依代』を通じて、

周囲に解き放たれる。


驚くべきことに、その声は空気を震わせるだけでなく、

周囲に並ぶ数千の兵士たちの鎧と盾に「共鳴」し始めた。


「……っ、盾が……歌っているのか!?」


兵士たちが驚愕の声を上げる。

クローディアが開発した特殊合金製の鎧

『シンフォニック・アーマー』。


これは、ルルノアの歌の周波数に反応して

魔力的な「撥水膜バリア」を形成する最新鋭の装備だ。


ルルノアの通信に乗せた歌声を

カルティアが増幅し、

兵士たちの鎧が共鳴する。


「ふう、エルンストの筋書きが、きちんと実現できましたね。

『バフ』を遠隔で、などと私は考えたこともないですわ。

なぜなら本来それが『武具』の役目なのですから。」


クローディアはゼノスに向かい、ため息混じりに告げる。


「実現できたのはおまえさんの技術力、

いや創造力によるものだろう、『至宝』。

これで、ルルノアが現地にいなくとも、バフがかかった戦場ステージが作れる。ただそれは『やつ』の『布教』があってこそだがな。」


カルティアの瞳は、恍惚とした慈愛に満ちていた。


彼女にとって、この進軍はもはや戦いではない。

ルルノアという神聖な光を、

汚れた大地に届けるための「巡礼」なのだ。


 

ガキンッ!!


ズーが羽ばたき、

腐敗の力を宿した「風化の羽」を数万発、

弾丸のように撃ち込んできた。

本来なら一瞬で軍を錆びさせ、肉を溶かす絶望の豪雨。


しかし、カルティアが掲げた銀盾が眩い光を放ち、

歌声が層を成す「音の防壁」が、

その全てを弾き飛ばした。


「皆様、恐れることはありません。……ルルノア様の歌が、私たちの魂を繋いでいます。

一歩、また一歩と、汚れた翼を浄化しに参りましょう」


カルティアの声が重なることで、

ルルノアのバフは「癒やし」から「不落の意志」へと

昇華される。


通常なら重装備の行軍は鈍重だが、

今の彼らは違う。


ルルノアの歌のリズムが、

鎧の重さを無効化し、

数千人の歩調を完璧に同期させているのだ。



ズゥゥゥゥゥゥン……!!


苛立ちを募らせたズーが、

その腐り果てた巨体を揺らし、

全方位に「死の灰」の嵐を巻き起こした。


視界はゼロ。


鋼鉄が悲鳴を上げるほどの腐食圧が、

軍を押し潰そうとする。


「……来やがったな、環境の王の全力ってやつが。

……だが、カルティア、

お前の『信者トップオタ』としての底力を見せてやれ。

……ルルノア、サビだ!

最高のハイノートをぶち込め!!」


「――届けぇぇぇ!! 穢れを払う、希望の調べ!!」


ルルノアの叫びのような高音が響き渡る。


その瞬間、カルティアを中心に、

銀色の魔力の波紋が爆発的に広がった。


「共鳴せよ、銀のシルバー・イージス

……ルルノア様の光は、決して曇りません!!」



ドォォォォォォン!!


数千の盾が一斉に共鳴し、

物理的な衝撃波となって

腐敗の煙を跡形もなく吹き飛ばした。


死の平原に、一瞬だけ青空が戻る。


その光の中に、地を這う醜悪な巨鳥が、

初めてその姿を白日の下に晒した。


「……見つけましたよ、迷える小鳥さん。

……さあ、その腐った夢から醒める時間です」


カルティアは優雅に一歩踏み出し、

銀盾を突き出した。


彼女の背後には、

ルルノアの歌によって「鋼の意志」を得た、

不死身の軍団が整然と並んでいる。


「北のアイルが『矛』なら、

南のカルティアは『盾』。

……そして、西の『迷宮』には、

俺と……やつの出番だな」


西の境界。

そこには、幾重にもとぐろを巻き、

地平線を埋め尽くす巨蛇の「壁」が待ち構えていた。

ゼノスは馬車を降り、

巨大な蛇の壁を見上げながら、声をかけた。


「……おい、『至宝』。南は作戦通りカルティアに任せる。

……ここからは、俺とお前で、

迷宮の喉元を抉り抜くぞ」

 

西の境界攻略――それは、力でも防御でもない、

究極の「迷宮探索」のステージが始まろうとしていた。

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