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第39章:絶望の四重奏(カルテット)と王座への譜面


数刻前。



境界へと続く行軍は、

さながら移動する巨大な要塞のようであった。


数万の兵士、数百の魔導車、

そしてそれらを統べる『十三英団』。


その中心に位置するゼノスたちの馬車の中では、

数時間にも及ぶ戦略会議が、熱を帯びたまま続いていた。


「……改めて説明しましょう。

我々がこれから直面する四柱の『始祖級プライマル』。これらはもはや、単なる魔物の範疇を逸脱しています」


十三英団の5(ファイブ)、

掌握マスター』のエルンストが、

魔導卓の上に数枚の古ぼけた羊皮紙と、

最新の観測データを並べた。


ホログラムによって浮かび上がったのは、

王国から魔界に向けて、東西南北に居座る、

想像を絶する巨躯を持つ四つの特異点だ。



「始祖級――それはかつての魔界の王が

この世界に打ち込んだ『境界の楔』と言われています。

奴らは自ら動くことはほとんどありません。

なぜなら、その巨体そのものが領土を削り取る防壁であり、環境そのものを汚染する装置だからです」


エルンストの指が、北の境界からなぞっていく。


語るのはもはや伝説の類であった。


北のケルベロス『冥府の三連首』。

山のごとき巨躯は動かずとも、

音速で伸びる三つの首は、

領域に入った者を一瞬で捕食する。

死を恐れぬ三対の瞳が、北の空を地から監視している。

 

西のユルムンガンド『迷宮の蜷局』。

何重にも重なるとぐろはそれ自体が巨大な迷宮の外壁となり、内部へ侵入した者の方向感覚を魔力的に奪う。

最深部に潜んだ頭部を見つけることは、『終着点』には違わない。その者の人生の、かもしれないが。


南のズー『地を這う腐翼』。

かつて空の王者だった翼は地に墜ち、

腐り果てている。

しかし、その腐敗こそが武器であり、象徴だ。

羽ばたくたびに撒き散らされる『風化の羽』は、

触れた武具を瞬時に土へと還し、

兵士の肉体を細胞から腐らせる死の灰を降らせる。



そして、エルンストは現在地からほど近い、

東の稜線を見据えた。


「そして東のベヒーモス『不動の暴君』。

あらゆる魔法、物理攻撃を無効化する鋼鉄の皮膚を持つ、

文字通りの『動かぬ山』です。

関門で観測された「幼体」のはるか10倍以上の大きさになります。

奴らを排除しない限り、王国に明日の朝日は来ません」



ルルノアは、その説明を聞きながら、

膝の上で握りしめた拳を震わせていた。


あまりにも巨大で、

あまりにも理不尽な絶望の姿。

少女の想像をはるかに超えた「世界の敵」が、

そこにはいた。


「……クク、面白いじゃねえか。

一筋縄じゃいかねえ『ギミック』が満載だ。」


ゼノスはルルノアの肩を乱暴に、だが温かく叩いた。


「いいか、ルルノア。

歌は奇跡じゃねえ。

……だが、歌はお前の『ファン』を、

生物としての限界を突破した『英雄』に

変える最強の触媒だ。

……『掌握』、続けてくれ。」


エルンストは魔導卓の駒を動かした。


「ええ。ルルノア氏の歌が響くとき、

一般兵士の魔力回路は通常の数十倍まで増幅される。

……つまり、昨日までただの村人だった新兵が、

その瞬間だけは『十三英団』に匹敵する、山を穿つ力を

手にする、ということです。そして――」


エルンストの視線が、

部屋の隅で静かに愛剣を磨くアイル、

そして泰然と構えるカルティアを捉えた。


「元から『最強』の看板を背負ってる

十三英団はどうなると思いますか?

……それはもはや、人間という枠組みすら捨て去る。

……障気を切り裂き、因果をねじ曲げ、

神話の英雄すら二歩下がる『神の代行者』へと昇華する。」


ルルノアはその言葉に、ようやく震えが止まった。


エルンストは四柱の巨獣に対し、

それぞれのメンバーを割り当てた。


「東のベヒーモス。

この『不動の山』を貫くのは、

関門でルルノア氏と共鳴の経験のあるアステリア氏を核とした、全軍による一点突破。

さらに十三英団の「彼」が加わり、

兵士全員の魔力をルルノアの声で『同期シンクロ』させ、一本の巨大な光の杭にしてベヒーモスの喉元を穿ちます」



「北のケルベロス。三つの首を同時に仕留めるには、

アイル氏の『神速』を限界突破させる!

ルルノア氏の声がアイルの反射神経を神の領域へ引き上げ、

音速の牙を逆に狩り取る『音速の狂宴スピード・スター』!」


「南のズー。

武具をも腐らせる毒煙には、

カルティア氏の『銀盾』による防壁と、

ルルノア氏の澄み渡る歌声を重ねる。

兵士を魔力の膜でコーティングし、

鋼が朽ちる前に腐鳥を焼き尽くす短期決戦ライブ!」


「そして西のユルムンガンド。

迷宮と化したその体内を突き進むのは、

クローディア氏の『道具』による解析と、

ゼノス氏の『技術』による分析。

暗闇に怯える兵士たちの心を、

ルルノア氏の歌がサーチライトとなって照らし出し、

蛇の心臓部へ直接殴り込む!」



「……クク。四つの境界、四つのステージ。

……ルルノア、お前が歌い続ける限り、

この『親衛隊』に敗北という文字はねえ」


「……はい、おじさん!」


ルルノアが力強く頷く。


その瞳には、もはや先程までの恐怖はなかった。


自分の声が、誰かの力になる。


自分の歌が、この絶望的な世界を戦える場所に変える。


その確信が、彼女を真の『歌姫』へと変容させていた。


馬車が急停止した。


窓の外には、すでに森を飲み込み、


天をも覆い隠すような巨大な影――


『不動の暴君』ベヒーモスの巨躯が、


その圧倒的な質量を持って王国軍を威圧していた。


あまりの威圧感に、先頭の兵士たちがたじろぎ、

馬が怯えた鳴き声を上げる。



「……ビビってんじゃねえぞ、野郎ども。

客席は最高に温まってる。

さあ、総合演出プロデューサーの合図だ。

……ルルノア、マイク(杖)を取れ。

第一回、境界掃討ツアーの開幕といこうじゃねえか」


時は現在に戻る。


クローディアが展開した

数千の魔導拡声器が一斉に起動し、

沈黙に支配されていた境界の森に、

かつてないほど清澄で、

かつてないほど力強いイントロが鳴り響いた。


――ズォォォォォン!!


兵士たちの体から、黄金の闘気が噴き出す。


絶望は、一瞬にして『熱狂』へと塗り替えられた。


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