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第38章:世界を塗り替える


「――全軍、進撃オン・ステージだ!!」 


ゼノスの咆哮が、

王都の城門を揺らした。


彼はもはや、先日のライブの成功を受け、

この同時多発ライブの総合演出プロデューサー、もとい、

全体強化バフ指揮特別軍団長を一時的に任命されていた。


王国の運命を賭けた大遠征。

それは、かつてない異様な光景だった。


数万の兵士たちは、

その盾にルルノアのイメージカラーである

純白の紋章を掲げている。

彼らが踏み出す足音は、

死地へ向かう恐怖のそれではない。


ルルノアの歌を聴き、

その「声」を戦場でも守り抜くと誓った、

狂信的なまでの使命感に満ちた足音だ。


目指すは東の境界。


そこには『始祖級プライマル』の一柱――

『不動の暴君』が鎮座している。


行軍が境界付近に差し掛かったその時、

空気が、物理的な重圧を伴って変質した。


「……っ、う……。空気が、腐ってるみたい……」


ルルノアが胸を押さえ、苦しげに顔を歪める。

前方から押し寄せてくるのは、

視界を遮るほどの濃密な「黒い霧」。

ベヒーモスが吐き出す魔界の障気だ。


生きとし生けるものの呼吸を奪い、

精神を削り取る絶望の領域。


「……来やがったな。

ゼオの野郎、客席(戦場)を

自分好みのクソな演出で染め上げてやがる。

……おい、クローディア!

全方位に『ヴァルキリー・ホーン』を展開しろ!

音を減衰させるな!」


「分かっている。……全魔導車、連結リンク

拡声術式、安定化スタビライズ開始!」


クローディアの指揮の下、

兵員輸送車を兼ねた魔導装置が展開する。

それは歌を物理攻撃に変える兵器ではない。


ただ、ルルノアの声という「奇跡」を、

障気の嵐の中でも一切の雑味なく、

戦場の末端まで届けるためだけの、

究極の音響システムだ。


「ルルノア、歌え! お前の声で、

兵士こいつらの心に火を灯してやれ!」


「……うん! ――みんな、いくよ!!」


ルルノアが魔導車の上に設置された

特設ステージに立ち、マイクを握りしめる。


彼女が最初の一節を紡いだ。その瞬間。


 ――ズォォォォォン!!


兵士たちの体から、黄金のオーラが噴き出した。


ルルノアの歌声には、それ自体に障気を消す力はない。


だが、その声が耳に届いた瞬間、

兵士たちの心臓ビートは加速し、

恐怖によって閉じていた魔力回路が爆発的に開かれる。


「……おお、おおおおおっ!

体が軽い! 呼吸ができるぞ!!」


最前列の兵士たちが叫ぶ。

彼らの持つ安物の「聖銀の剣」は、

本来ならこれほどの濃密な障気の前では無力だ。


しかし、ルルノアのバフを受けた彼らの魔力が

剣に流れ込んだ瞬間、その刃はまばゆい光を放ち始めた。


「道を開けろ! ルルノア様の声を止めるなァ!!」


一人の兵士が振るった一撃が、

押し寄せる黒い霧を真っ二つに切り裂いた。


それは、歌が世界を変えたのではない。

歌によって「世界を変える力を取り戻した人間」による反撃だった。


だが、魔界の環境、ベヒーモスも黙ってはいない。


地響きと共に、霧の奥から巨大な『牙』のような触手が、

ルルノアのステージを狙って突き出してきた。


「――させないよ。そこは、僕たちの神聖な場所だ!」


一筋の銀光が、触手の軌跡を遮った。


アイルだ。


彼女が持つ細剣『月虹』は、

微弱な障気中和能力しか持たない、

本来は「始祖級」には太刀打ちできない武器だ。


だが、今の彼女は違う。


背後から届くルルノアの歌声と完全に同調し、

彼女の魔力は通常の限界を超えて燃え上がっていた。


「……いいぜアイル。

お前のその『月虹』が、

ルルノアのバフを受けて『聖剣』へと昇華してやがる」


キィィィィィィン!!


アイルが振るった一撃は、

黄金の残光を引きながら空間そのものを斬り裂き、

巨大な触手を根元から細切れに粉砕した。


「あはは! 最高の気分だよ、ルルノア!

君の歌が聴こえるたび、

僕の体の中に新しい命が吹き込まれるみたいだ!」


アイルは歓喜の表情で笑い、

さらなる障気の奥へと突き進んでいく。

その背中を追うように、数万の兵士たちが、

歌に合わせて剣を打ち鳴らし、光の海を作り出した。



「……見たか、ゼオ。

お前が環境を魔界に変えるなら、

俺は人間の『感情』を燃料にして、

その絶望を叩き割る。

……これが俺の、プロデューサーとしての戦争だ」


障気の壁に、黄金の亀裂が走る。


ルルノアの歌声という名の「燃料」を得た王国軍は、

今、真の絶望へとその刃を突き立てた。


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