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第30章:鉄錆の夜明け、カーテンコールの向こう側


黄金の光が、鉄錆の関門を完全に飲み込んだ。


ルルノアの絶唱『夜明けの共鳴(暁のレゾナンス)』は、

もはや単なる歌ではなかった。

それは凍てついた世界を溶かす太陽そのものだった。


「ぎ、ぎああああああああっ!!」


ギルバートの悲鳴が響く。


彼が誇った『絶望のコレクター』

――死体と肉塊の合体形態は、

ルルノアの歌声が放つ「生の肯定」に耐えきれず、

端から光の粒子となって霧散していく。


「馬鹿な……! 私の美学が、

私の完璧な剥製たちが……!

たかが小娘の、こんなデタラメな旋律にッ!!」


「……ギルバート。お前が積み上げたのは、

ただの『過去』だ」


光の中、ゼノスが静かに歩み出る。


彼は崩れゆく巨獣の残骸を見上げ、

憐れむような目を向けた。


「だが、こいつが見せているのは『明日』だ。

……思い出に浸って死ぬのは、お前一人で十分なんだよ」


「――『共鳴・極彩フルカラー!!』」


ルルノアの最後のハイトーンが放たれた。


バルカス、アステリア、カルティア。

三人の英雄の武器がルルノアの光を纏い、一点に集束する。


ドォォォォォォォン!!


ギルバートの本体ごと、

巨大な肉塊が完全に消滅した。


それと同時に、関門を覆っていた濃厚な霧が、

朝日に焼かれる雪のように消えていく。


上空では、空中揺籃から投げ出されたソリラリスが、

ふわりと重力を無視して宙に浮いていた。


彼女の頬には、自分でも気づかないうちに、

一筋の涙が伝っていた。


「……あたたかい。……これが、夜明け……」


彼女はもう歌わなかった。

ただ、地上の眩しい光の中にいるルルノアを、

初めて「一人のアイドル」として、

その瞳に焼き付けていた。

そして、霧と共に静かに北の空へと消えていった。


やがて――。


戦場ステージに、本当の沈黙が訪れた。


だが、それは先ほどまでの絶望の静寂ではない。

やり遂げた者たちだけが分かち合える、

清々しい安息の静寂だ。


「……終わった……んだな」


バルカスが、折れた戦斧を杖にして、

ゆっくりと座り込んだ。


アステリアは剣を鞘に納め、

乱れた黒髪をかき上げると、

眩しそうに昇る太陽を仰いだ。


「信じられない……。

死者、ゼロ。……重傷者すら、

全員が立ち上がっているなんて」


アステリアの言葉通り、

そこには奇跡の光景があった。


ロキはマーサの手を取り、

二人は涙を流しながら笑い合っている。


瓦礫の中から這い出した兵士たちは、

互いの無事を確かめ合い、

そして自然と一箇所に目を向けた。


中央ステージの跡地。


そこに、精根尽き果てて、

ゼノスの胸に顔を埋めている一人の少女。


「……おじさん……私……歌えた?」


「ああ。最高だったぜ。……シブヤコーカイドーどころじゃねえ。伝説のブドーカンだ、ここは」


「ぶどーかん?おじさん変なことばっかり。……でも、ありがとう。」


ゼノスは不器用な手つきで、

ルルノアの汚れた髪を撫でた。


ルルノアは、安心したように小さな寝息を立て始めた。


数時間後。


関門には、炊き出しの温かい湯気が再び立ち上っていた。

 

「ルルノアさん! ほら、これ食べて!」


「お嬢ちゃん、握手してくれ!

俺、一生あんたのファンだよ!」


目覚めたルルノアは、

兵士たちに囲まれ、もみくちゃにされていた。


かつての「お荷物」の姿はどこにもない。


彼女は、2000人の命を救い、

その魂を震わせた、鉄錆の関門の小さな女神だった。


ゼノスは、関門の屋上で一人、煙草を燻らしていた。

 

その隣に、カルティアが静かに歩み寄る。


「ゼノス殿。……貴方の言った通りになった。

……彼女は、世界を書き換えた」


本来なら。

絶望的な戦力差。敗走、王国は関門を捨てて防衛ラインを下げる運命だった。


それをたった一人の『アイドル』が覆した。


「フン、まだ序の口だ。

……これでようやく、

カードが揃ったってところだろ」



ゼノスは遠く、魔王城がある北の空を睨んだ。


今回の戦いで、

ルルノアの存在は魔界全土に知れ渡るだろう。


ギルバートという「効率」の駒を失ったゼオが、

次にどんな一手を打ってくるか。

 

「……だが、どんな難局、いや難曲が来ようが、

俺が全部プロデュースしてやるよ。

……お前はただ、前だけ向いて歌ってりゃいいんだ、

ルルノア」


朝日に照らされたゼノスの顔には、

かつての冷徹な魔王の影はなく、

ただ一人の少女の未来を背負う、

プロデューサーの誇りが刻まれていた。


鉄錆の関門に、新しい風が吹く。

少女の歌声が、世界を救う物語は、まだ始まったばかりだ。


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