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第29章:暁のレゾナンス、光のアンコール



それは、戦場に起きた最初の「奇跡」だった。


喉は潰れ、言葉は死んだはずだった。



だが、二千人の兵士たちが捧げた、

泥臭く、音程の外れた『アンコール』に応えるように、

ルルノアの胸の奥から「光」が溢れ出した。


「……聴こえるよ。ひとりひとり。

みんなの声が……私の名前を呼ぶ音が」



ボロボロになった白い衣装。

血に染まった喉元。


しかし、その瞳には、絶望を焼き尽くすほどの、

あまりに純粋な「肯定」が宿っていた。


「……ぁ……あぁぁぁ…………っ!!」

ルルノアが、マイクを握りしめ、天を仰いで叫んだ。


旋律はない。歌詞もない。

けれど、その魂の叫びは、

ゼノスが描いたどんな方程式よりも

速く、

深く、

戦場を駆け抜けた。



「……何だ……体が……熱い……っ!」


力尽き跪いていたバルカスが、自身の腕を見つめる。


魔力枯渇で動かなかったはずの四肢に、

黄金色の輝きが巡っていた。


致命傷を負っていたはずのロキの傷口が、

光の粒子と共に塞がっていく。


「……馬鹿な。これは、ただの『バフ』じゃねえ。

……対象者の『生命意志』そのものを再定義してやがる」


かつての魔王ですら成し遂げられなかった領域。


それは神の御技に等しい。

「信じる者」に強制的な奇跡を付与する、

神聖熱狂ディヴァイン・ファナティズム』。



「ソリラリス! 何をしている、

早くその娘を黙らせろッ!!」



ギルバートの悲鳴に近い命令が飛ぶ。


空中揺籃から、

ソリラリスが必死に虚無の音波を叩きつける。


だが、ルルノアの周囲には、

黄金のオーラがドーム状に展開され、

あらゆる絶望を「ノイズ」として弾き返していた。


「……いけない。

……わたしの『夜』が……白んでいく……」


ソリラリスの指先が震える。


彼女が初めて感じたのは、恐怖ではない。


ルルノアの歌――その温もりに包まれていたいという、

抗いがたい「渇望」だった。


「――お待たせしました。……みんな」


ルルノアの声が、関門全体に響き渡った。

不思議なことに、その声にはもう痛みはない。


自分自身を愛し、ファンを愛し、

この瞬間を肯定した彼女の声は、

人智を超えた聖域へと至っていた。


「……歌います。私たちの、新しい夜明けを!」

ルルノアが、一歩を踏み出す。

 

新曲。


『夜明けの共鳴(暁のレゾナンス)』。


第一声。


ギルバートの合体した『絶望のコレクター』の肉体が、

光に焼かれてボロボロと崩れ落ちる。

 

第二声。


関門のいたるところで、

兵士たちが「信者」のごとき光を纏って立ち上がった。



もはやそれは軍隊ではない。

ルルノアという「神」を戴く、

最強の『親衛隊』へと変貌していた。


「バルカスさん! アステリアさん!

 ……カルティアさん!」


ルルノアが、ファンでありながらステージを彩ってくれた

『メンバー』の名を呼ぶ。

 

「最後……一緒に、踊ってくれますか!?」


「――ハッ、粋なことを言ってくれるじゃねえか、

お嬢ちゃんよォ!!」


バルカスが、再起した巨躯で戦斧を構える。


「喜んで。貴女のステージ、汚させはしません!」


アステリアが、泥を払い、騎士の礼を捧げて剣を抜く。


「……ああ、行こう。ルルノア。君が照らす、その先へ」


カルティアが、銀盾を掲げ、

ルルノアの傍らに並び立つ。


地平線の向こう側、ほんの一筋の光が差し込む。



暗黒の霧を切り裂き、本物の太陽が顔を出そうとしていた。

 

「……さあ、フィナーレだ。ギルバート。

……お前のコレクションに、『勝利』というピースは無いぜ」



ゼノスが不敵に笑い、指を鳴らした。


黄金の光に包まれたルルノアが、

最高の笑顔でサビを歌い上げる。

 

鉄錆の関門。

絶望のライブ会場は、

今、伝説の「夜明け」へと昇華しようとしていた。


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