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第27話:銀光の決死圏、途切れたメロディ


「――これ以上、この子に指一本触れさせはしないッ!!」


ゼノスとルルノアが巨腕に押し潰される寸前、

銀色の流星がその間隙を割って入った。


カルティアだ。


彼女は右翼の防衛をアステリアに託し、

文字通り「物理法則を置き去りにした」速度で

中央へと回帰した。


「ゼノス殿、ルルノアを連れて下がってください!

ここは私が――っ、ぐあぁぁ!!」


ギルバートの体を形作る『絶望のコレクター』の剛腕が、

カルティアの銀盾に叩きつけられる。


バフが途切れ、本来のスペックすら維持できない状況下で、カルティアは自らの魔力の限界まで追求していた。


「無駄だ、聖騎士! 歌声のないお前など、

ただの硬い肉塊に過ぎん!」


「……歌なら、聴こえている。

私の……魂の中でな!」


カルティアの全身が、青白い燐光に包まれる。


それは、プロデューサーのゼノスですら計算外であった。

ルルノアの歌を記憶レコードし、

自らの中で増幅させる

――自己完結型の最大バフ。


 『三日月の方程式・アルマ新月ニュームーン』。


「おおおおおおお!!」


カルティアの一閃が、ギルバートの右腕を

根元から斬り飛ばした。


ルルノアの喉を休ませるための、

一秒を稼ぐための、捨て身の特攻。


かすかに残ったバフの残滓を絞り出すに過ぎないはずが。

圧倒的な『推し』への想いが、その身を刹那だが輝かせた。


続けざまに放たれた神速の連撃が、

肉塊に深く食い込み、

ギルバートを中央ステージから力ずくで引き剥がしていく。


「チッ、往生際の悪い女だ……!」


ギルバートが後退し、中央の脅威が一時的に去る。


だが、その「一瞬の勝利」の代償はあまりにも大きかった。

カルティアが中央に張り付いたことで、

全体の指揮系統は完全に瓦解。


ルルノアの全体バフが切れてから、

すでに数分が経過している。


「あ、ああ……マーサさん……!?」


ルルノアが視線を巡らせた先。


後方の炊き出し所は、

突破された軍勢の蹂躙を受け、黒煙を上げていた。


マーサが、倒れ伏した若兵を庇うようにして、

動かなくなっているのが見える。


左翼では、バルカスが力尽き、跪いていた。


右翼では、アステリアが再びソリラリスの「虚無」に飲まれ、虚ろな瞳で空を見上げている。

 

関門のあちこちから、

先ほどまでの熱狂を嘲笑うような、

絶望の悲鳴が上がり始めた。


勇気を与えたはずの歌が消えたことで、

反動としての恐怖が、

倍増して兵士たちを襲っているのだ。


「……クソ。一番恐れていた展開だ。

歌が『麻薬』になっちまった」


ゼノスは膝をつき、

激しく咳き込むルルノアを抱き起こした。


ルルノアの喉からは、

今もヒューヒューと痛々しい呼吸音が漏れている。


「……私の、せいだ。私が……もっと歌えれば……みんな……」


ルルノアの視界に、涙が滲む。


自分が「明日を思い出してほしい」と願って歌った結果、

兵士たちは明日を奪われ、絶望の中で死んでいく。

 

その時、ギルバートの肉体いや、肉塊が再び再生を始め、

さらに巨大な姿で立ちふさがった。


カルティアの銀鎧はボロボロになり、

その剣先は震えている。


彼女の付け焼き刃の「自己バフ」も、とうに限界だ。


「……ゼノス、おじさん」


ルルノアが、震える手でマイクを握り直した。


白かった衣装は、返り血と煤でドロドロに汚れている。


「もう一度……歌う。歌わせて」


「バカ言え! 今の声でお前、

何が歌える!? 喉を完全に壊す気か!」


「……みんなが死んじゃうなら、

声なんて、いらない。

……私、『アイドル』だもん。

……『ファンを』……一人も、欠かさせないって

……決めたんだもん……」


ルルノアが立ち上がろうとする。


だが、その瞬間。


上空のソリラリスが、冷酷なトドメの旋律を奏でた。

 

それは「絶望の共鳴」。

戦場に転がる死者たちの怨念を吸い上げ、

生きている者の心に叩きつける。

 

「カハッ……ッ!!」


ルルノアが崩れ落ち、再び大量の鮮血を吐いた。


喉が、ついに壊れた。

 

メロディも、言葉も、もう出ない。


関門を支配したのは、あまりにも残酷な「静寂」だった。


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