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第11話:おじさんの終着点、少女たちの始発駅


年に一度、この街が最も輝く夜

――星降祭せいこうさい


空からは魔力の塵が星の欠片となって降り注ぎ、

街全体が数千のランタンの光に包まれる。


本来ならば希望を語り合う祝祭の夜。


ルルノアたちも、パフォーマンスを高めるべく、このステージにエントリーしていた。


だが、中央広場に設営された特設ステージの裏側には、

祝祭とはほど遠い、

死の匂いすら漂う重苦しい沈黙が横たわっていた。


「……ゲホッ、……っ、はぁ、はぁ……」


ゼノスは、震える手で血の混じった唾を地面に吐き捨てた。


全盛期の魔王の魂を、

40代を越えた中年の、

それも魔力回路が細り切った肉体に詰め込み、

連日無理やりマナを回して演出術式を編み続けたツケだ。


視界は白く霞み、

一歩足を踏み出すたびに脊髄を

焼鉄で刺されたような激痛が走る。


「おじさん!? 顔色が真っ白です

……もう無理ですよ、今すぐ救護班を――」


「……黙っていろ、ルルノア。……いいか、よく聴け」


ゼノスはルルノアの肩を、

骨が軋むほどの強さで掴んだ。


その瞳は濁っているが、

奥底にある狂気的な情熱だけが、

落ちる寸前の灯火のように燃えている。


彼が視線で示したステージの反対側。


そこには、魔王ゼオが送り込んだ「出演者」という名の

「刺客」が佇んでいた。


「あいつの名は、ソリラリス。

……かつて俺が魔界で、

その天賦の才に惚れ込み、

歌のいろはを教えた教え子だ」


ルルノアとカルティアが、同時に息を呑んだ。


そこにいたのは、

金髪のツインテールを揺らし、

まるで感情を絶対零度に凍らせたような瞳をした

小悪魔的な美少女だった。


その立ち姿は完璧でありながら、

どこか実体のない蜃気楼のような危うさを秘めている。


「あいつは、全てを諦めている。

……才能、運命、寿命。

何を選ぼうが、

結局はゼオが定めた

『完璧な予定調和』という結末に

辿り着くと信じ切っている。

絶望を美しく、

心地よく歌うことだけに

特化した『虚無の歌姫』だ」


「お前の『共鳴レゾナンス』とは、

存在の根源から対極にある」


「そんな……おじさんの教え子なら、

おじさんが話をすれば分かってくれるんじゃ……!」


「……無駄だ。

あいつは俺の掲げる熱狂エンターテインメント

『一時の無価値な夢想』だと切り捨てた。

今のあいつの歌は、

聴く者の『明日を信じる心』を安楽死させ、

ただ美しい死を望ませる呪いだ。

……お前たちの熱量を、冷徹な計算で相殺しに来たのさ」


ゼノスはそこまで言うと、

内臓をぶちまけるような激しい咳に襲われ、

ついにその場に膝をついた。

杖代わりにしていた流木が手から滑り落ち、

カランと乾いた音を立てて転がる。


「……あ、が……っ……意識が、遠のきやがる……」


「おじさん!!」


カルティアが咄嗟にゼノスを支えるが、

その重すぎる身体はすでに限界を超えていた。


「……行け、二人で……。

演出も、指示も……もう,出してはやれん……」


「……だが、忘れるな。お前たちが一年前から積み上げた……泥臭い鍛錬と、……交差する想いだけが、

あいつの完成された……絶望を、

……打ち破る唯一のノイズになる……」


ゼノスの手が、力なく砂を掴んで止まった。


駆け寄ったギルド職員たちによって、

ゼノスの身体が担架で運び出されていく。


精神的支柱を失い、

ゼノスのマナによって制御されていた

派手な魔法演出の機材も沈黙した。


残されたのは、

煌びやかな衣装に身を包みながらも、

あまりの重圧に立ち尽くす少女と騎士。


そして、入れ替わるようにステージから、

冷徹なまでに洗練された旋律が響き始めた。


「――♪(『円環デリート』)」


その瞬間、広場を埋め尽くしていた数千の観客が、

一瞬で凍りついたように静まり返った。


それは、音楽という形を借りた「終わりの宣告」だった。


ーー♪(ノイズ混じりの重低音)

Ah, Na-Na-Na, Ready?

1, 0, 1, 0... 計算通り。

ハッ、笑わせないで。


ソリラリスは虚ろな瞳で観客を見下ろし、あまりにも残酷で美しい諦念を吐露する。


ーー♪(不定形なリズム)

神様が引いた 真っ赤なインクの レール(線)の上

お利口に 「前へ倣え」の アイソレーション

呼吸の回数 まばたきの合間 その体温さえ

全部 全部 全部! 既読のシミュレーション

昨日を コピーして 貼り付けたような明日あした

「希望」なんて おまけのラベルを 貼っちゃって

自由という名の おりの中で

「幸せ」のフリして 首を振れ ほら、踊れ。



彼女が静かに腕を掲げると、その指先から零れる黒いマナが、観客の心に直接「諦め」の毒を流し込んでいく。


ーー♪(急激なテンポアップ)

無意味な衝動 ノイズの群れ

まとめて 一括削除デリート あー、スッキリ。

心なんて バグの温床

焼き切って 黙って 「正解」だけを呑み込め。

(3, 2, 1... Error.)



広場を照らしていた祭りのランタンが、

一つ、また一つと、意志を失ったかのように消えていく。


広場に広がるのは、死を肯定するかのような、

心地よくも絶望的な静寂。

観客たちは、明日を夢見ることを忘れ、

ただソリラリスの差し出す「永遠の眠り」に

身を任せようとしていた。


そして、楽曲は破滅の調べを伴って、

サビへと雪崩れ込む。


ーー♪(爆発、支配と狂気の独壇場)

選んだつもりの 右足も!

避けられたはずの 悲劇いたみも!

書き換えられないフィルムの 一コマに過ぎないなら

期待なんて ゴミ箱フォルダに捨てて

ただこの夜を なぞればいい

Drag, Drag, Drag...

完成された円環えんかんを 狂い愛して

際のきわのよいに ひざまずけ

(アウトロ:狂ったような笑い声とスキャット)

Na-Na-Na... 予定通り。

『バイバイ。』




絶望的な静寂。


歌い終えたソリラリスの周囲には、もはや拍手さえ起きない。

あるのは、ただ重く、冷たい、無力感の海。

ルルノアは舞台袖で、自分の爪が食い込むほど拳を握り、震えていた。


プロデューサーはいない。

魔法によるバックアップもない。

あるのは、泥にまみれて覚えたステップと、

隣に立つ一人の騎士の鼓動だけ。


カルティアは、震えるルルノアの手を、

自身の重い籠手で強く、

壊れ物を扱うように温かく握り締めた。


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