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近衛兵の甘い誓い

異世界と現代日本を繋ぐ不思議な扉を持つ喫茶店。新しくウェイトレスとして働き始めたリュミエが、初めて出会う常連客の近衛兵レオン。甘いものが大好きな真面目な青年と、まだ慣れないウェイトレスとの心温まる交流が始まります。そして、同僚の近衛兵ガレスが現れた時、小さな騒動が巻き起こります――


――今日も平和な一日だ。


私はカウンターの奥で、いつものようにポットを温めながら店内を見回す。午後の日差しが窓から差し込み、砂糖壺がキラキラと光っている。焼き菓子の甘い香りが店内に漂い、ジャズのBGMが静かに流れている。


――まあ、この店はいつもこんな感じだ。常連客たちも午後になると集まってきて、それぞれの好みの飲み物を注文する。近衛兵の青年はいつもケーキを真剣な顔で食べているし、商人ギルドのおじさんは紅茶を飲みながら世間話に花を咲かせる。魔族の外交官はブラックコーヒーを飲んで、カフェインでテンションを上げている。


――今日は午後二時過ぎ。そろそろ常連客たちが来る時間だが、まだ誰も来ていないな。


店の奥から銀髪の少女、リュミエが現れた。まだウェイトレスになって間もない彼女は、少し緊張した面持ちでエプロンを身につける。


「おはようございます、マスター」


「おはよう、リュミエ。今日もよろしくお願いします」


私は軽く頷き、心の中で思った。――彼女もだいぶ慣れてきたな。最初の頃は何をするにも慎重すぎて、お客さんを待たせてしまうこともあったが……


リュミエは静かに店内を見回し、テーブルの配置を確認する。彼女の動きはまだぎこちないが、真剣な眼差しで仕事に取り組んでいる。


――今日は、どんなお客さんが来るだろうな。


突然、扉のベルが鳴った。


チリリン。


――お客さんか。常連客だろうな。


振り返ると、そこには鎧を身に着けた青年が立っていた。近衛兵のレオンである。真面目な性格で、甘いものが大好きな彼は、この店の常連の一人だ。


――レオンか。いつものようにケーキを注文するのだろう。


「失礼いたします」


レオンが背筋を伸ばして入店してきた。


「いらっしゃいませ」


リュミエが丁寧に頭を下げると、レオンは少し驚いた表情を浮かべた。初めて見るウェイトレスだった。


――ああ、リュミエが新しく来たウェイトレスだということを、レオンは知らないな。


「あ、あの……特製のショートケーキはありますでしょうか?」


彼の目がショーケースに向かう。そこには、私が朝から作ったばかりの苺のショートケーキが、美しく並んでいる。


――やはり、ケーキを注文するな。レオンは本当に甘いものが好きだ。


「はい、あります」


リュミエが答えると、レオンの顔がぱあっと明るくなった。


「では、そちらをお願いします。それと、ミルクティーも」


「かしこまりました」


リュミエはメモを取りながら、厨房に向かう。私は彼女の背中を見ながら、心の中で思った。――レオンは本当に甘いものが好きだな。でも、あの真面目な顔でケーキを食べる姿は、なんとも微笑ましい


リュミエが厨房から戻ると、レオンは既に席に座っていた。彼は背筋を伸ばし、まるで重要な会議に臨むかのような真剣な表情を浮かべている。


――レオンは本当に真面目だな。ケーキを食べるのに、あんなに真剣な顔をするなんて。


「お待たせいたしました」


リュミエがショートケーキとミルクティーを運んでくると、レオンの目が輝いた。


「ありがとうございます」


彼は丁寧にお辞儀をし、フォークを手に取った。そして、ケーキを一口食べると、その表情が一変した。


「……これは」


レオンの目が大きく見開かれる。


「美味しい」


彼は真剣な顔で、ゆっくりとケーキを味わう。その姿を見て、リュミエは思わず微笑んでしまった。


――リュミエも、レオンの真面目な性格に気づいたようだな。


「本当に甘いものがお好きなんですね」


「はい」


レオンは口を拭きながら答えた。


「実は、私にとって甘いものは……特別な意味があるんです」


「特別な意味?」


リュミエが興味深そうに尋ねると、レオンは少し照れくさそうに答えた。


「近衛兵としての任務は、時に厳しいものがあります。そんな時、甘いものを食べると、心が和らぐんです。まるで、故郷の母が作ってくれたお菓子を食べているような気持ちになって」


――レオンは故郷を思い出しているのか。近衛兵の仕事は大変だろうな。


リュミエは頷いた。


「私も、ハーブティーを飲むと、少し気持ちが落ち着きます」


「そうですね。食べ物には、不思議な力があります」


レオンは少し考え込んだ。


「あなたは、この街の出身ですか?」


「いえ、違います。最近、こちらに来たばかりで」


リュミエは少し躊躇した。自分の過去を話すのは、まだ勇気がいる。


「そうですか。私も故郷を離れて、この街で働いています」


レオンの目に、少し寂しそうな表情が浮かんだ。


「故郷を離れるのは、寂しいですね」


「はい。でも、新しい場所で新しい出会いがあるのも、悪くないと思います」


レオンは微笑んだ。


「そうですね。今日、あなたにお会いできて、とても嬉しいです」


「私もです。あの、失礼ですが、お名前を教えていただけますか?私はリュミエと申します」


「レオンと申します。こちらこそ、よろしくお願いします」


リュミエが丁寧に答えると、レオンは微笑んだ。


「リュミエさんですね。よろしくお願いします」


「レオンさんは、近衛兵として働いていらっしゃるんですね」


「はい。王都の警備を担当しています」


「それは大変なお仕事ですね」


「そうですね。でも、この店に来ると、心が安らぎます」


レオンは店内を見回した。


「ここは、とても落ち着く場所です。リュミエさんは、いつからここで働いているのですか?」


「まだ、そんなに長くありません。でも、とても居心地が良いんです」


リュミエは少し照れくさそうに答えた。


「そうですか。リュミエさんがいることで、この店がより温かい場所になっているように感じます」


「ありがとうございます。レオンさんも、とても優しい方で」


二人は微笑み合った。


レオンは再びケーキにフォークを向けた。


「このケーキも、きっと誰かが心を込めて作ったのでしょう。その想いが伝わってくるんです」


「マスターが、朝から一生懸命作ってくださったんです」


リュミエが言うと、レオンは驚いた表情を浮かべた。


「マスターがお作りになったのですか?」


「はい。毎朝、新鮮な材料で、一つ一つ丁寧に作ってくださいます」


「それは素晴らしいですね。手作りのケーキなんて、本当に贅沢です」


レオンは改めてケーキを見つめた。


「それでは、もっと大切に味わわなければいけませんね」


私は厨房でその会話を聞きながら、心の中で思った。――レオンは本当に真面目で、いい青年だな。でも、あの真剣な顔でケーキの話をするのは、なんとも面白い


そんな時、店の扉が勢いよく開いた。


「おい、レオン!お前、またここにいるのか!」


入ってきたのは、レオンの同僚の近衛兵、ガレスだった。彼は大柄で、いつも威勢がいい。リュミエを見ると、少し驚いた表情を浮かべた。


――ガレスか。またレオンと一緒に来たのか。でも、今日は様子が違うな。


「ガレス、どうした?」


レオンが振り返ると、ガレスはショーケースを指差した。


「見ろよ、あのケーキを!最後の一つだ!」


確かに、ショーケースには苺のショートケーキが一つだけ残っていた。


――ああ、ケーキの取り合いか。レオンが先に注文したのに、ガレスも欲しがっているな。


「あれは私が注文したものです」


レオンが答えると、ガレスは不服そうに鼻を鳴らした。


「何を言ってる。俺もあれが食べたいんだ!」


「でも、先に注文したのは私です」


「そんなの関係ない!近衛兵同士、力で決めよう!」


ガレスが腕をまくり上げると、レオンも立ち上がった。


――おいおい、本当にケンカする気か。でも、この店ではそういうことは許さない。


「分かりました。では、正々堂々と」


「待ってください!」


リュミエが慌てて割って入った。


「お二人とも、ケンカはやめてください。この店は、平和な場所なんです」


彼女の声は小さかったが、真剣な眼差しで二人を見つめていた。


――リュミエが止めてくれたか。いい判断だ。


「あ、すみません」


ガレスが慌てて手を下ろす。


「俺、つい熱くなってしまって」


レオンも頷いた。


「私も、感情的になってしまいました」


リュミエは安堵の表情を浮かべた。


「ありがとうございます。それでは、ガレスさんも、別のケーキはいかがでしょうか?チーズケーキもありますよ」


「チーズケーキ?」


ガレスがショーケースを見ると、確かにチーズケーキが並んでいる。


「それなら、そっちで」


「ありがとうございます」


リュミエが微笑むと、ガレスは少し照れくさそうに頷いた。


「あ、それと、コーヒーもお願いします」


「かしこまりました」


リュミエが厨房に向かうと、ガレスはレオンに話しかけた。


「おい、レオン。あの子、新しく来たウェイトレスか?」


「はい。リュミエさんです。今日が初対面でした」


「そうか。なかなかしっかりしてるじゃないか」


ガレスが感心していると、リュミエがチーズケーキとコーヒーを運んでくると、ガレスは満足そうに頷いた。


「ありがとう」


「どういたしまして」


リュミエが答えると、ガレスは一口食べて、目を輝かせた。


「これも美味しいじゃないか!」


「そうですね」


レオンも頷いた。


「この店のケーキは、どれも美味しいんです」


「そうか。じゃあ、今度は一緒に来よう」


ガレスが提案すると、レオンは微笑んだ。


「はい、そうしましょう」


私は厨房でその様子を見ながら、心の中で思った。――リュミエも、だいぶ成長したな。客同士のトラブルを上手に収めて、しかも両方の客を満足させた。あの子は、この仕事に向いているかもしれない


時が経ち、レオンとガレスは満足そうに店を後にした。


「ありがとうございました」


リュミエが丁寧にお見送りをすると、二人は手を振り返した。


「また来るよ」


「はい、お待ちしています」


扉が閉まると、店内は再び静寂に包まれた。


リュミエはテーブルを片付けながら、私に話しかけた。


「マスター、今日はありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。お疲れ様でした」


私が答えると、リュミエは少し照れくさそうに微笑んだ。


「最初は緊張しましたが、だんだん慣れてきました」


「そうですね。あなたは、この仕事に向いていると思います」


「ありがとうございます」


リュミエが頷くと、私は心の中で思った。――彼女は、この店に必要な存在だな。客の心を理解し、適切な対応ができる。きっと、この店をより良い場所にしてくれるだろう


夕方の光が窓から差し込む中、ジャズのメロディーが静かに響いていた。異世界カフェは、今日も平和な一日を終えようとしていた。


私はコーヒーを淹れながら、心の中で思った。――甘いものには、人を和ませる力がある。レオンのように、真面目な人ほど、その力を必要としているのかもしれない。そして、リュミエのような優しい心を持つ人がいることで、この店は特別な場所になっている


――今日も、いい一日だったな。レオンとガレスのケーキ争奪戦も、リュミエが上手に解決してくれた。あの子は、本当にこの仕事に向いている。


――それに、レオンもガレスも、リュミエのことを気に入ったようだ。新しく来たウェイトレスに、こんなに早く慣れてもらえるとは思わなかった。


――この店は、本当に特別な場所だ。甘いものと温かい飲み物、そして優しい人々が、この場所を特別な空間にしている。


扉の向こうから、異世界の風がそっと吹いてきた。今日も、この小さな喫茶店で、たくさんの物語が生まれ、そして終わっていく。


――明日も、きっと新しい出会いがあるだろう。リュミエと一緒に、また一日を始められると思うと、なんだか楽しみだ。


私は最後のコーヒーを淹れ、静かに飲んだ。店内には、甘いケーキの香りがまだ残っている。


――異世界カフェは、今日も営業中。甘いものと温かい飲み物、そして優しい人々が、この場所を特別な空間にしている。


近衛兵レオンとの出会いは、リュミエにとって特別な意味を持つものでした。真面目で優しい青年との交流を通じて、彼女は少しずつ自信を取り戻していきます。そして、同僚のガレスとの小さな騒動も、リュミエの成長の証となったのです。


この店は、ただの喫茶店ではありません。困っている人々に温かい飲み物と会話を提供し、新しい希望を見つけてもらう場所なのです。リュミエがウェイトレスとして働くことで、きっと新しい物語が生まれることでしょう。


甘いものには、人を和ませる不思議な力があります。レオンのように真面目な人ほど、その力を必要としているのかもしれません。そして、リュミエのような優しい心を持つ人がいることで、この店は特別な場所になっているのです。


次回予告:吟遊詩人との夜のミニコンサート。流れの吟遊詩人が立ち寄り、コーヒー代わりに歌を披露。店内が一瞬ライブハウスに変わるが、商人ギルドおじさんが合いの手を入れて台無しに――


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