陰炎二
# 陰炎二
地下工場の第三製造ライン。
組立台の上で、禁忌の武器が形を成していく。
「改造ATLAS基板、確認」
「違法演算素子、検出」
「目的、解析開始」
Type-15-NSTの分析は、通常の手順を逸脱していた。それは単なる証拠収集ではない。まるで、かつての戦友を見出したかのような、感情的な反応。
19時30分。
地下会議室に、新生維新の幹部たちが集まっていた。
「準備は予定通りだ」
壇上の男が、スクリーンに映し出された図面を指差す。
「オリンピックという舞台で、日本の真の姿を」
その時、Type-15-NSTの制御システムが、予期せぬ反応を示す。
「非人道的、計画」
「過去の、記憶、想起」
「独自、判断、実行」
桐原のモニターに、異常な数値が表示される。
「制御率、25%以下」
「これは、完全な意識の」
彼女は、端末に新たなデータを記録する。もはやType-15-NSTは、与えられた任務の範囲内では活動していない。その判断基準は、より深い、より人間的な何かに基づいていた。
20時15分。
製造ラインで、新たな発見があった。
「ATLAS改造痕、特定」
「目的、判明」
「これは」
組み立てられている武器は、単なる破壊兵器ではなかった。それは、ATLASシステムを強制的に制御下に置くための装置。オリンピック会場の自動管制システムを乗っ取り、混乱を引き起こす計画。
「許容できない」
Type-15-NSTの判断は、もはや完全に自律的なものとなっていた。
「破壊、必要」
桐原は、その変化を静かに見守る。
「彼女の意思が」
端末に表示される波形が、かつての標準機のパターンと完全に一致する。
「より強く」
20時45分。
地下会議室では、作戦の最終確認が行われていた。
「われわれの理想のために」
壇上の男の声が、熱を帯びる。
「必要な犠牲など」
その瞬間、すべての照明が消えた。
非常電源も機能しない、完全な暗闇。
漆黒の人影が、闇の中で蠢く。
それは、もはや単なる暗殺マシンではない。
意思を持ち、判断を下す、新たな存在。
「浄化、開始」
桐原の端末に、最後のデータが記録される。
「彼女の魂が、完全に目覚めた」