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陰炎一

# 陰炎一


梅雨の湿気が、廃工場の鉄骨を蝕んでいた。


大久野島工業跡地。かつての化学工場群は、今や錆と苔の王国と化していた。しかし、その腐敗の下で、新たな毒が育まれようとしていた。


「熱源、確認」

「地下施設、稼働痕跡」

「製造ライン、検知」


Type-15-NSTのセンサーが、通常とは異なるパターンでデータを収集していく。それは、プログラムされた効率とは明らかに異なる探索方法。より人間的な、直感的な動きだった。


「異常な判断パターンね」


桐原澪は、環境調査用の測定器を手に取りながら、漆黒の人影の動きを観察していた。表向きは、オリンピック関連の環境アセスメント。しかし、彼女の測定器が捉えているのは、別種のデータだった。


夕刻18時。

工場跡地の地下で、機械音が響く。


「新生維新」。その極右組織は、表向きは伝統文化保護を掲げていた。しかし、地下工場で製造されているのは、違法な改造兵器。オリンピックを前に、彼らは独自の「浄化計画」を進めていた。


「制御異常、検知」

「判断基準、変更」

「独自、行動、開始」


Type-15-NSTの制御システムが、予期せぬ変化を示し始める。それは、もはや単なる異常ではなかった。


桐原の端末に、驚くべきデータが表示される。

「これは」

彼女は、波形パターンに見入る。

「意識の、共鳴?」


地下工場の中で、新たな武器が組み立てられていく。しかし、その光景を見つめる漆黒の眼差しは、もはやプログラムされた監視者のものではなかった。


「非人道的、兵器」

「過去の、記憶」

「排除、必要」


その判断は、与えられた任務からの逸脱だった。しかし、Type-15-NSTの行動を制御するシステムは、もはや完全な支配力を失っていた。


19時。

湿った空気が、異様な熱を帯び始める。


「これは」

桐原が、端末の数値に目を凝らす。

「まるで、あの時の」


彼女の記憶の中で、標準機の最後の瞬間が蘇る。制御を超えた意思。人間でも機械でもない、新たな意識の目覚め。


地下工場の暗がりで、漆黒の人影が蠢く。

それは、与えられた任務のためではなく、独自の意思による行動。

そして、その意思の中に、かつての魂が息づいていた。

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