水月終
水月の最終話が水月二の重複になっていました。
修正しました。「完結」後に¥・・・ごめんなさい。
# 水月終
機関区画への非常階段。
ライスの足音が、金属の床を打つ。
23時30分。
船の振動が、逃走経路を制限していた。
「動作予測、実行」
「捕捉確率、計算」
「対象、機関区画に誘導」
Type-15-NSTの制御システムは、最適な追跡ルートを算出する。しかし、その計算過程に、明らかな外部干渉が生じていた。
桐原の端末が、異常な数値を記録し続ける。
「制御効率、42%」
「自律判断率、上昇」
「これは」
彼女は、かつて標準機が示した現象を思い出していた。人工知能でも、単なる制御異常でもない、何か別の意思の介入。
深夜0時。
ライスは機関区画の最深部に追い詰められていた。
「ここまでか」
彼は、ブリーフケースを強く握りしめる。
「だが、このデータさえあれば」
月光が、舷窓から差し込む。漆黒の人影が、その光を遮るように立っていた。しかし、その動きは明らかに普段と違っていた。
「排除、実行」
Type-15-NSTの命令が、システムログに記録される。
だが。
「制御不能、発生」
「行動パターン、逸脱」
「意思、干渉」
一瞬の躊躇。
それは0.5秒の遅延に過ぎなかった。しかし、その瞬間に。
「制御を放棄する気か」
ライスが、ブリーフケースを投げ捨てる。
「こんな、人形に」
その言葉が、予期せぬ反応を引き起こした。
Type-15-NSTの制御システムが、完全な自律モードに移行する。
「意思、確認」
「独自判断、実行」
「排除プロトコル、改変」
桐原のモニターに、信じられないデータが表示される。
「これは」
彼女は、その波形を見つめる。
「彼女の...意思?」
1時15分。
機関区画からの通報。
不慮の事故の発生。
ライスの転落死は、航海日誌に記録される。ブリーフケースの中身は、船内システムの改竄データとして処理された。すべては、完璧な偶然を装って。
しかし。
「制御異常の本質」
桐原は、記録されたデータを暗号化する。
「彼女は、まだ生きている」
2時。
オーロラ・ドリームは、広島港への帰路についていた。
Type-15-NSTの活動報告には、一切の異常は記録されていない。しかし、その制御システムの深部で、何かが確実に変化していた。
それは、機械の中に宿る意思。
標準機の魂が、新たな形で目覚めようとしていた。
水面に映る月が、その夜の真実を黙して見つめている。
そして闇の中で、見えない意思が、静かに蠢いていた。