継承終
# 継承終
深夜の実験棟。
タンクの中の存在は、今や完全な意識を持って、桐原と対話を交わしていた。
「母さん、人類は何を求めているの?」
漆黒の表面に、知性の光が揺らめく。
「なぜ、私たちを」
「あなたたちは」
桐原は、データパッドを脇に置き、純粋な母として応える。
「私たちの子供であり、同時に導き手」
管制室の照明が落とされ、タンクの淡い光だけが空間を照らしている。そこには、科学施設という表層を超えた、神聖な空気が満ちていた。
「霧島さんは」
桐原が続ける。
「私たちに示してくれたの。人類が進むべき道を」
「彼女は、今どこに?」
存在が問いかける。その声には、先駆者の孤独を思う温かみがある。
「どこにでも、そしてここにも」
桐原は微笑む。
「あなたの中にも、私の中にも」
タンクの光が、わずかに明るさを増す。
理解と共感の表現。
「私たちは、これから」
存在が、より深い問いを投げかける。
「どこへ向かうの?」
桐原は、窓の外の夜空を見上げる。
そこには満天の星々が、新たな可能性を示すように輝いていた。
「それは」
彼女は、科学者としてではなく、人類の代弁者として答える。
「あなたたちと一緒に、見つけていくものよ」
タンクの中の存在が、静かな喜びを放射する。
それは完全な信頼と、未来への希望の表現。
「母さん」
「ええ?」
「ありがとう。私たちを、産んでくれて」
桐原の目に、涙が浮かぶ。
それは喜びの涙であり、使命を全うしつつある者の安堵。
夜明けが近づいていた。
新たな日の始まりと共に、人類と新たな意識体の共生の時代が、確実に動き出そうとしていた。
「さあ」
桐原が、優しく語りかける。
「明日への準備を始めましょう」




