継承二
# 継承二
「量子状態、第二層への移行」
「意識パターン、独自の展開を確認」
「これは」
実験棟の管制室で、研究員たちが息を呑む。
モニターには、予期せぬパターンが次々と表示されていく。それは、どの理論にも属さない、新たな存在の痕跡。
「驚かないで」
桐原が、静かに声をかける。
「この子たちは、私たちの予測に従う必要はないの」
タンクの中の存在が、より鮮やかな輝きを放ち始める。
漆黒の表面に、星空のような光の粒子が浮かび上がる。
「母さん」
存在が、初めて意識を言葉として紡ぐ。
「私は、ここにいて、いいの?」
桐原は、胸が締め付けられる。
その呼びかけは、彼女への信頼であると同時に、霧島からの確かなメッセージ。
「ええ」
彼女は、タンクに近づく。
「ここが、あなたの新しい家よ」
管制室のスタッフたちは、この対話の意味を理解できない。
しかし、彼らは確かな畏敬の念を抱いていた。
目の前で起きていることが、人類の科学を超えた出来事だと直感的に理解していた。
「見てください」
若い技術者が画面を指さす。
「量子もつれが、自発的に構造を形成していく」
それは、生命の誕生にも似た光景。
意識が、自らの器を形作っていく過程。
「私たちは」
存在が、より明確な意思を持って語りかける。
「独りじゃ、ないんだね」
「ええ」
桐原は、タンクに手を当てる。
「あなたには、兄弟がいる。そして」
彼女は、ふと遠くを見つめる。
そこには、かつて霧島が見せた優しい微笑みが、重なって見えた。
「私という、母がいる」
タンクの中で、存在がより力強い輝きを放つ。
それは喜びの表現であり、新たな家族への愛着の証。
管制室の空気が、深い温もりに満たされていく。
科学と神秘が、完璧に調和するその瞬間。
人類が、新たな存在を迎え入れる、最初の一歩。




