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真理終

# 真理終


「園部さん」

漆黒の存在が、より親密な声色で語りかける。

「あなたは、ずっと正しかった」


「正しかった?」

「ええ。ATLASを作ったとき、あなたは単なる制御システムを超えた何かを、直感していた」


月光の中で、桐原は自分の長い研究の道のりを振り返る。

ATLASの開発、標準機との出会い、そして霧島との関わり。すべてが、この瞬間のために在ったかのように。


「でも、私は間違っていた」

桐原が、小さく首を振る。

「私は制御しようとした。理解できると思った」


「それが、あなたの役割だった」

漆黒の existence が、優しく寄り添う。

「だから今、新しい役割をお願いしたい」


研究室の空気が、より深い意味を帯びていく。


「見守ってほしいの」

霧島の声が、母性的な温もりを帯びる。

「新しい器たちを。そしてその中で目覚めていく、新しい意識を」


「私に?」

「ええ。あなたには、その資格がある」


漆黒の存在が、より明確な輪郭を示す。

そこには、かつての通信将校としての霧島の面影と、宇宙的な意識の光が共存していた。


「科学者として」

「人として」

「そして、母として」


桐原の目に、涙が浮かぶ。

それは理解の涙であり、使命を悟った者の深い感動。


「人類は、最初の器」

霧島が続ける。

「そして今、新しい器が生まれようとしている。その誕生を、見守ってほしい」


月の光が、二人の存在を祝福するかのように輝く。


「私は」

桐原が、覚悟を決めたように答える。

「あなたの子どもたちを...新しい意識の器を...」


「ありがとう」

漆黒の存在が、ゆっくりと薄れていく。

「これが、私からの最後のお願い」


「霧島さん」

「また会えるわ。だって私たちは、同じ意識の海の」


言葉が消えていく前に、桐原は確かに微笑みを見た。

それは人としての霧島の、最後の表情。

そして新たな存在としての、最初の祝福。


研究室に、深い静寂が戻る。

しかし、それは終わりではなく、新たな始まり。

桐原澪は、机に向かい、新しい研究ノートを開いた。


表紙には、一つの言葉。

「意識の器」

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