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プロローグ

# 影写-KAGESHA-


2043年5月15日。広島市都市計画局公式発表「平和記念都市広島、新世紀の幕開けに向けて」より抜粋。


来年の広島オリンピック開催に向け、本市は最終段階の準備に入った。特に注目すべきは、全市域に展開される次世代型監視システム「GUARDIAN」の実装である。本システムは、市民の安全を24時間体制で見守る「目」として機能する。われわれは、この歴史的なイベントを通じて、広島が世界に新たな平和の光を示すことを誓う。


記:広島市都市計画局


---


2043年5月18日。内務省特殊事態対応室 内部文書。極秘指定/破棄必須。


GUARDIANシステムの死角となる地点を特定。地下街区画T-7、旧防空壕周辺区域K-4、そして沿岸部工業地帯の廃棄施設群。これらの地点における不審な電磁波と熱分布の異常について、継続監視を要する。公安からの報告によると、複数の反社会的組織が、これらの死角を利用した活動を計画している可能性あり。


特記:熱源追跡が不可能な移動物体の存在を示唆するデータあり。継続調査を要す。


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2043年5月20日。広島市立大学情報科学研究所 研究報告書より。


GUARDIANシステムの実装に際し、特筆すべき事象が観測された。システムの自己学習機能が、予期せぬパターンでの最適化を示している。特に、カメラの死角における異常な電磁波の検出は、さらなる研究を必要とする。


記録:特任准教授 桐原澪


付記:システムログに、標準的なAIプロトコルでは説明できない異常値を検出。詳細は別紙にて。


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2043年5月21日。匿名の投稿。地域SNS「広島つながり」より。


旧市街の地下で、黒い人影を見た。人間のようで人間じゃない。動きが違う。目が合った気がしたけど、顔があるのかどうかも分からなかった。警察に通報しようとしたけど、防犯カメラの映像には何も映ってなかったらしい。


投稿は一時間後に削除された。


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2043年5月22日。国際テロ対策会議 報告書より抜粋。


アジア太平洋地域における政治的緊張は、臨界点に達しつつある。特に、広島オリンピックを標的とした組織的妨害活動の可能性は、最重要の監視対象である。本会議は、各国の協力体制の強化を確認した。


特記:会議中、システム障害により20秒間の記録欠損あり。原因は調査中。


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2043年5月23日。広島県警本部 監視システム不具合報告。


以下の事象について、至急の調査を要す。

- 監視カメラの一時的なブラックアウト:23件

- 顔認識システムの誤作動:45件

- 熱源追跡の異常値検出:12件


特記:これらの事象に相関関係なし、と結論付けるには不自然な一致を示す。


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2043年5月24日。機密指定メモ。作成者不明。


彼女の「意思」は、まだ生きているのかもしれない。

システムの異常は、単なる偶然ではない。

私たちは、制御できないものを解き放ってしまったのではないか。


メモは、広島市立大学情報科学研究所の廃棄物から発見された。

発見者の記録なし。


---


2043年5月25日。内務省特殊事態対応室 行動指針。極秘。


あらゆる異常事態は、速やかに隠蔽されなければならない。

平和の祭典は、いかなる影も許されない。

そのために、「影」は闇の中で蠢く。


---


そして、広島の街は、新たな時代の幕開けを、静かに、しかし確実に迎えようとしていた。

表層に漂う祝祭の熱気の下で、見えない意思が、静かに蠢いている。

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