伊勢川高校文化祭~和風喫茶の和菓子毒混入事件篇~
なろうラジオ大賞用小説第十弾!
「あなた達、私達のクラスに勝てないからって毒を盛りましたわね!?」
文化祭当日。
在校生限定で回る一日目の事。
近所のクラス――メイド喫茶を出し物にしたクラスで学級委員を務めてる、社長令嬢とかいう女子がイチャモンをつけてきた。
こっちが和風喫茶――和菓子に緑茶そして憩いの場を提供する出し物を運営している最中にだ。
にしても毒を盛ったとは。
確かに似たような出し物のせいで、そのクラスとはライバル関係だが言いがかりも甚だしい。名誉棄損で訴えようか。
「シンちゃん、もしかして」
するとそこで、和風喫茶を提案したクラスメイトにして。
もはや、和風ウェイトレスな制服を着るためだけにこの世に生誕したんじゃないかと思うくらい、和風ウェイトレスの制服が似合う、実家が老舗の和菓子屋という我が自慢の幼馴染・芳香が声をかけてきた。
眼福眼福。
「さっきのお客様、若菜さんのクラスから来たスパイじゃ」
さっきのお客様……芳香が作った和菓子に。
元異世界転生者にして異世界帰還者である俺が、この世界で生きてた頃の記憶を頼りに入手した、この世界に存在する最高の甘味料をかけて作った和菓子を食べ、大絶賛していたあの客か。
ちなみに若菜さんとは、今相手している余所の学級委員だ。
「あなた達が作った和菓子を食べたせいで、我がクラスメイトが、こちらの和菓子ばかり求めて、こっちの出し物を全然手伝ってくれなくなったんですのよ!? 毒を盛って中毒にしたとしか思えませんわ! 営業妨害で訴えてやりますわ!」
「…………シンちゃん、いったいあの甘味料……何?」
毒を盛ったとはそういう意味か。
にしても、営業妨害……訴えられるほどか。
相手の自業自得だと思うが、ちょっとやり過ぎたか。
なんて思っていたら芳香がこちらにジト目を向けてきた。
今の内にちゃんとした説明しなさいと目が言っている……というかイっちゃってる。怖い。
「俺が最初生きてた時代の最高の甘味料だ」
俺が入手した甘味料。
それは南米に生息する世界最大級の蛇メノウアナコンダの生息地にだけ生える幻の地衣類である。
世界がまだ一つであった頃。
あの地衣類は全国の菓子職人に求められ絶滅しかけたらしいがあってよか――。
「シンちゃん」
俺の正体を話してある芳香が鬼の形相を見せた。
「この国の伝統的なお菓子にいったい何を混入してるのッ!?」
なぜだ!?
和菓子には海外由来の物も入ってるじゃないか!
解せぬ!
でも怖いので一応俺は謝っといた。
【イグゼゴケ】
南米に生息する世界最大級の蛇『メノウアナコンダ』の生息地にだけ生える地衣類。メノウアナコンダの糞尿によって育つという生態を持つが、乾燥させると甘味料……しかも世界最高峰の物となるため、超古代世界においてはこの地衣類を巡るメノウアナコンダと菓子職人、そして菓子職人同士の争奪戦がたびたび勃発したという。なお、メノウアナコンダが、南米へと押し入ってきたコンキスタドールの乱獲に遭い絶滅したせいで、イグゼゴケも絶滅したとされているが、二十世紀初頭にメノウアナコンダがUMAとして目撃されたという情報があるため、イグゼゴケもまた生き残っているのかもしれない。
――伊勢川出版刊『超古代珍味百選』より