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番外編 みらいのふたり2


「——次のニュースです。『医療都市アレクリン』在住の薬学者、熊谷沙月氏が『ハクトディア病』特効薬の開発に成功したとの情報が入ってきています。今回の開発で、熊谷氏は39件の特許を取得したことになり、歴代3位の記録と並びました。また多くの人が彼女の功績によって、救われるでしょう——」


 テレビから流れてくる朝のニュースは、『ハクトディア病』の特効薬完成についての報道。相変わらず、情報が早いなぁ、と感心していると、娘が話しかけてきた。


「あれ! うつってるの! ママのびょーいんだよね!」


 テレビの画面を指差して、目をきらきらと輝かせる娘。


「そうだよー。よく分かったねぇ」


 わたしは頭を撫でて、娘を褒める。映像に映っていたのは、『第四病院』。わたしの職場である。


「えへへ〜。すごいでしょ!」


 もうすぐ4歳になる娘はよく喋る。最近は会話もしっかりできるようになって、感無量の極みだ。少し前まで、赤ちゃんだった気もする。それなのに、子供の成長というのは、本当にあっという間なのだなぁ、としみじみ思う。


「ママはすごいよなぁー。今回も大活躍だったんだろ?」


「だいかつやくー?」


 不思議そうに夫に尋ねる娘。


「すごく頑張ったってことだよ」


 夫は娘を抱き上げて、たかいたかいの態勢に入る。


「きゃっ、きゃっ」


 娘はとても嬉しそうだ。


「準備あるでしょ。俺、しばらく相手しとくよ」


 夫が小さい声でこちらに話しかけてくる。


「ありがと、助かる」


 わたしも小さく返事をしてから、出発の準備をする。海掘さんと岩清水先生に提出しなければならない報告書が溜まっているのだ。そのため、できるだけ早く『第四病院』に着いておきたい。


 化粧を終えて、ヘアゴムをつける。自慢の黒髪を結んで、戦闘態勢は万全だ。


「じゃあ、行ってくるね。幼稚園の送り迎えよろしく」


「うん、いってらっしゃい」


「ママー! お仕事頑張ってねー!」


「頑張るよー! なずなも幼稚園頑張ってねー!」


「うん!」


 愛する夫と娘に見送られ、私は職場へと歩いて行った。


 ******


「あら、早いわね。おはよう。お子さんは?」


『第四病院』へ入ってすぐ、海堀さんに出会う。


「おはようございます! 夫が今日は休みなんです。それで送り迎えもしてくれるそうで」


「あらー、いいわね。イクメン……は、もう死語かしら?」


「うーん、どうでしょう。意味は通じると思いますけど……」


 育児に協力的な男性、だろうか。そんな雰囲気は伝わってくる。


「ふふ、幸せそうね。顔ゆるんでるわよ」


「はい! 幸せですから!」


 わたしははっきりと宣言する。


「あら、言うようになったわね。ふふ、引き止めて悪かったわね。今日もよろしくお願い」


「はい! こちらこそよろしくお願いします。では、先に行ってますね」


 軽く手を振って、海堀さんは奥へと進んでいく。一体いつ休んでるんだろう、と不思議に思うが、わたしはわたしの仕事を全うしよう。そう決意したわたしは、エレベーターに向かって歩き出したのだった。


 エレベーターを降りた階は、5階。研究室のある部屋だ。


 目的の部屋のドアを開けると、すでにマスクをした女性が薬の調合を行っていた。沙月さんだ。


「沙月さん! ちゃんと休んだんですか!?」


「……す、少しは……」


 沙月さんはマスク越しでもわかるくらいに、すごくばつの悪い顔をしていた。いたずらがばれた時の娘の顔とそっくりである。


「かすみ……、今日早くない?」


「よしくん、今日はお仕事おやすみなんです! はっ! だめですよ、誤魔化されませんからね! ちゃんと寝てください!」


「はい……。かすみ……、最近たくましすぎないかしら?」


「岩清水先生と小柚さんに頼まれていますから。特に体調面を。ふふっ、それに家族に元気もらってますから!」


「あー、なずなちゃん、もう3歳だっけ。可愛い時期ね」


「はい! とっても!」


 沙月さんはふらふらしながら、仮眠室へ向かっていく。一応、素直に従ってくれるようだ。


「記録だけお願いしてもいいかしら……?」


「はい! お任せを!」


「じゃあ、おやすみ……」


「おやすみなさい。ゆっくり休んでくださいね」


 沙月さんは仮眠室へと入っていった。


「さて……」


 目の前に広がるのは書類の山。この時代に紙を使って記録をしているのは、沙月さんくらいじゃないだろうか。書類の山を攻略しつつ、一枚一枚きちんと整理する。


 目に付いたのは、一枚の書類。書かれているのはある薬のレシピ。


 わたしがここで働こうと思ったのは、沙月さんに病気を治してもらったから。それが一番大きな理由。だけど、それだけじゃない。たくさんの人たちに優しくしてもらったから。今度はわたしが病気で苦しんでいる人に優しくしてあげたいと思ったから。


 一生懸命勉強して、看護師の資格をとった。そして、ここで働くために猛アピールを繰り返したのだ。結果として、看護師の業務をしながら、沙月さんの助手というポジションを確立している。


 驚いたことは、わたしが想像しているよりもずっと沙月さんはすごい人だったということ。今、この世界に不治の病はほとんど存在しない。この場所に来れば、不治ではなくなるから。そうしてくれる沙月さんがいるから。


 わたしは窓の外を眺めて、思わずほほ笑んでしまう。


 たくさんの人が、活発に動いている。笑顔で挨拶しあう人たちも多い。この場所には活気があふれているのだ。たった一人の女性が、この場所を変えたのである。


 ——ここは、『医療都市アレクリン』。

 病を抱える人々が訪れる島。



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